1日アルバイト



 凄く似合わないような気がする。
 レジの前にいる彼を見て、心底そう思った。

「スネーク。もう少し善処しようよ……」
 完全に強面になっている彼に、が困ったように言う。
 しかし彼は顔をしかめる。
 表情をにこやかにしようと、暫くあれこれと顔をさすっていたりしたが、結局断念したようだ。
 スネークに爽やかな接客を求める方が間違っているのかも知れない。

 とスネークの2人は、現在、コンビニでバイトしていた。
 フィランソロピーの軍資金を調達するため……ではなくて、オタコンのPCが壊れてしまったために買い替えのお金が必要となり、手分けしてバイトする羽目になったのだ。
 色々と出費が重なる時期であったために、こんな目にあっている。
 しかも何故かコンビニバイト……。
 面接もキチンと受けたのだが、はともかくスネークはよく受かったものだ。
 防犯要員かも知れない。
「しかしまあ、お客さんが何も言わないのはまだ救いかな」
 品出ししながら、ポツリと呟く。
 隣で本を出しているスネークも、自覚が在るのか頷いた。
「別に危害を加えるわけではないから、文句を言われる筋合いもないが」
「そういう問題? 営業スマイルぐらい出来ないと、お給金減らされちゃうかも」
「まあ……いや、しかし俺にそれを求める方が間違っていないか」
 むしろそんなに接客が苦手なのに、コンビニのバイトをするというのが、そもそもの間違いのような気がしてならない。
 しかしそんな事を言ってもお金は必要だし、採用した店長の勇気に乾杯、といったところか。
「まあ、今日1日頑張れば、なんとか大丈夫なはずだから」
 の言葉にスネークが頷く。
 平穏無事に終わってくれる事を願うのみだ。

……平穏無事に終わってくれればよかったのだが。

 スネークがレジ仕事をしているとき、一人の男性客が入って来た。
 はレジから少し離れた場所で品出しをしていたので、一瞬何が起こったのか分からなかった。
 だが、客の男が何かをスネークにつきつけつつ、叫べば嫌でも気付く。
「おい!! さっさと金を出せ!!」
 …………なんて無謀な。
 は男とスネークを見ながら、盛大なため息をついた。
 近寄ろうとしたら、スネークが視線で制した。
 曰く、怪我すると困るから近づくんじゃない、と。
 こっそりと品物の影に身を潜めつつ、成り行きを見守る。
 こういう時に限って、図ったように客が一人たりとも入ってこない。
 まあ、客がいっぱいいるような場所で銃を突きつけても応戦される可能性が高いから、あえてそういう頃合を見計らってきているのだろうけれど。
「お、おいっ、聞いてるのか! さっさと金を出せっていってんだよ!!」
 威嚇し、銃を突きつける男。
 スネークはじっとそれを見て――鼻先で笑い飛ばした。
 男は彼の様子にカチンきたのか、銃を持つ手に力を込めた。
 しかしスネークは意に介さない。
「て、テメェ! 俺をなめるなよ!!」
「……」
 向けられている銃を、一瞬の間に男の手から外し、自分で持ち直すスネーク。
 男は何が起こったのか分からないのか、自分の手とスネークの手を交互に見やって――それから顔色を青くした。
「な、な、な……」
「素人がこんな物を持つんじゃない」
 射殺さんばかりの視線に身体を震わせる男。
 はそれを遠巻きに見ながら、無理もないなと苦笑した。
 強盗はどう見ても10代後半から20代前半。
 しかも銃を持つ手つきもおぼつかなく、初犯なのだろうことが分かる。
 そんな男が、目の前にいる男――スネークに敵うわけがない。
 メタルギアと戦う男にかなう奴がそうそういるとも思えないが。
 たかだか一日程度のスネークのバイトの間に来るなんて、運が悪いと言うかなんというか。
 男は引きつった笑いをこぼした。
「そ、そいつを使えるのか? 無駄なことはやめた方が……」
「ほう。使えるか、だと?」
 スネークがにやりと笑う。
 は明らかにスネークが楽しんでいると感じた。
 まあ、普段プロばかりを相手にしているから、こういうのは簡単に思えて楽しいのかも知れないが。
 ……ちょっと悪趣味ではある。
 は離れた場所にいながら、スネークに声をかけた。
「スネーク、あんまり苛めちゃだめだよー?」
「分かってる」
「ば、バカにしやがって!!」
 怒り心頭。
 殴りかかる強盗の腕を掴み捻り上げる。
、警察を呼べ。こいつは俺が抑えている」
「う、うん」
 言われ、は暴れる男を横目にして事務所に入った。
「もしもし、警察ですか。えーと。強盗です」
 物凄く冷静に言ってみた。

 フィランソロピー支部基地に、スネークと共に戻ったは、オタコンに今日の出来事――強盗が入ったこと――を話して聞かせた。
「へえ、それは大変だったね」
「別に大変じゃなかったよ。スネークいたから、安心してたし」
 のほほんとコーヒーを飲みながら言うに、オタコンがにやりと笑った。
「スネークがいたから、ねぇ」
「な、なんだ」
 オタコンは横でソファに座ってこれまたコーヒーを飲んでいるスネークを見て、にやにやと何やら言いた気な顔をしている。
 スネークは少々顔をしかめながらそっぽを向いた。
「随分と信頼されてるね、スネーク。羨ましいよ」
 よよよと泣き崩れるまねをするオタコンに、はくすくす笑って言った。
「オタコンだって信頼してるよ?」
「それはありがとう。嬉しいよ。嬉しいから、君用のパソコンのメモリを増設しておいた」
「きゃーー! ありがとうオタコンっ!」
 だきっ、と抱きつく
 勝ち誇ったような顔をするオタコン。
 機嫌の悪くなるスネーク。
 ……平和だ。
 暫く経ってもじゃれあっているとオタコンに、何となく疎外感を感じてスネークは、二人を引っぺがした。
「スネーク、何??」
「別に何でもない」
 何でもないわけあるか。
 しかし、表情からやきもちを焼いているのだと分かっているは、小さく笑って彼に抱きついた。
「スネークとバイトすれば、危ないことがあっても安心だもんね。今後ともよろしく!」
 そんなに何度もバイトするのかと呆れつつ、くっついているの身体を抱きしめる。
 途端にオタコンが咳払いをした。
「スネーク。いけないなぁ」
「……ふん」

 ……フィランソロピーは今日も平和? だ。



すっっごく遅くなりました、30万リクのMGS夢。…夢してませんね、
燐子さま、お待たせした上にこんなんですみません。

2004・7・6

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