伝説の英雄



 ソリッド・スネーク。
 潜入捜査のスペシャリスト。
 伝説の英雄。

 インターネットで彼の名前を探すと、大抵はそう書かれている。
 シャドーモセス事件後、反メタルギア財団フィランソロピーに所属。
 相棒、オタコンこと、ハル・エメリッヒと共に、メタルギアを破壊して回る男。

「普通にしてると、そういう人にはまったく見えないんだけどなぁ‥。」
 伝説の英雄、なんて世間一般様で言われてる人が、キッチンで下手くそな玉子焼きを作っている、なんて誰が信じるだろう。
 フィランソロピー‥というか、スネークとオタコンに厄介になっているは、人知れずそんな事を思った。
「できたぞ、オタコン呼んで来い。」
「りょーかーい。」
 のそのそとイスから立ち上がり、オタコンの作業部屋へと足を向ける。
 一応、この支部には食堂と言われるものも存在していた。
 ここは、大っぴらに看板を出す事ができない会社のようなものだから。
 もスネークもオタコンも、ここに部屋を持ち、生活していた。
 本当は外に借りている部屋があるのだが、ほぼ、この軍事施設で生活をしている。
 その方が火急の場合、すぐに対応出来るからだそうだ。
 それはともかく、何故、皆が食事を摂りに来る食堂で食べないのか。
 いつ頃から、三人だけで朝、夕、一緒に食事するようになったのかは定かではないが、一つはが男性職員に言い寄られる事が原因。
 いつもスネークやオタコンが側にいる訳ではないし、と仲のいいメイ・リンがずっと一緒にいる訳でもない。
 彼女が食事のたびに疲れてしまっていた為、キッチンのある部屋にテーブルとイスを持ち込み、三人で食べるようになった。
 彼らの心遣いには、今でも本気で感謝している。
「オタコーン、ご飯だよ。」
「ああ、ちょっと待ってて。」
 オタコンの作業部屋の中は、相変わらず乱雑。
 大事そうな書類があちこちに詰まれている。
 が、が整理整頓してファイリングするには、ちょうどいい位置にあったりするので、案外考えているのかもしれない。
 数分待った。
 余りスネークを待たせたら、皮肉を言われそうな気がするので、ちょっと突付いてみる。
「オタコンってば、スネークが怒るから‥。」
「うん、でももう少し待ってくれるかい?今彼女の中を整理し終わるから。」
「‥‥‥うん。」
 こりゃー無駄だ。
「じゃあ、先に戻ってるから、ちゃんと来てね。なるべく早く。」
 言うだけ言って返事を待たず、部屋を出て、食事の待つ部屋へと戻る。
「オタコンはどうした?」
「うん、愛する彼女をもう少しいじってから来るって。」
「まったく‥あいつはしょうがないな‥。」
 苦々しく笑いながら、二人ともテーブルにつく。
 オタコンが今一番愛情を注いでいるのは、エリザベス。
 名前の由来は、優雅な動きをするから。
 優雅な動き=スムーズに動く。
 ちょっと前までは、ユーナという名前のパソコンを愛用していた。
 名前の由来は、日本の某ゲームから抜き取ってきたらしい。
 さらにその前は、アユミ、という名前のパソコンを愛用していた。
 名前の由来は、同じく日本の某漫画の主人公ライバルから‥。
 と、まあ。
 オタコンはパソコンを買い換える度に、女性?の名前をつけていて。
 エリザベスが一番稼動しているが、その他のPCもしっかり働いている。
 の作業用には、アユミを使わせてもらっている。
 最初は何事かと思っただったが、だんだん慣れてきてしまい、今ではそんな彼の姿を見ても、驚きもしないようになっていた。
「じゃあ、先に食べるか。」
「うん。」
 頂きますをして、は食事に手をつけ始める。
 スネークも同じようにして、食事をし始めた。
 しばらく食事していると、オタコンが駆け込んでくる。
「お待たせ‥って、待っててくれたんじゃないのかぁ。」
「だって、オタコン遅いんだもん。」
 くすくす笑いながら、は立ち上がってスープを入れてやる。
 席に着いたオタコンも食べ始めた。
「‥‥‥それにしてもスネーク、いい加減諦めたら?」
「‥‥五月蝿い。」
「うーん、でも前に比べたら、全然上手になってるよ。」
 がフォロー。
 スネークの食事は、基本的に美味しい。
 といっても、別に一流シェフが作っている訳ではないので、普通に美味しい、というイミ。
 おふくろの味、というものと比べると負けるかもしれないが。
 三人の前にある卵焼きは、通称でオムレツ、と言われるもの。
 中身はナシの、本当に卵だけのオムレツ。
 が作ると、中身が程よく半熟で、ふわふわしてて、ものすごく美味しい。
 オタコンとスネーク、メイ・リンしか食べた事がないが、再三作れとせかされる位美味しい。
 スネークにもその作り方を教えたのだが‥‥彼のは見るも無残。
 とにかく、と同じに作る事ができないのだ、卵料理は。
 あんなに器用なのに、とも思うが。
「スネークが、に唯一勝てない所だもんね。」
「なんか嬉しかったりして〜。」
 ニコニコ微笑みあうオタコンと
 スネークはなんとなく馬鹿にされた気分で、面白くない。
 食事が滞りなく終わると、今度は片付け。
 オタコンがやるはずもなく、スネークも逃げ出し、結局毎回が片付けている。
 フィランソロピーに来てからの、技術訓練以外の日課でもあった。

「‥うーん、、悪いんだけどスネーク呼んできてくれないかい?」
「うん、いいけど。」
 のんびりした口調だから、そんなに非常事態ではないらしいスネークの呼び出し。
 は入れたばかりのコーヒーを飲むのもそこそこに、スネークを探しに出かけた。
 彼のいそうな所というと、格納庫や武器貯蔵庫、自室に‥‥。
「やっぱり屋上だったね。」
か‥。」
 振り向きもしないスネークに、ため息をつきながら歩いて彼の側に行く。
 何か嫌な事がある時、気分が晴れない時、作業に詰まった時、彼は部屋の中のこもった空気から逃げ出すかのように、屋上へ来る。
 もそれに習って、嫌な事があった日やきつい事があると、屋上で気晴らしする事も。
「オタコンが呼んでるよ。」
「あぁ‥‥。」
「行かないと。」
「少しぐらい待たせておけ。どうせ、急な用事じゃないんだろう、お前をよこすってことは。」
 なによそれーと反論するが、まあ確かにその通り。
「‥タバコ一本吸う位の時間なら、問題ないさ。」
「‥ま、いーかぁ。」
 本当は良くはないが。
 スネークは柵にひじを乗せ、外を見ながらタバコを吸う。
 少し熱気を持った風が、彼らの体を吹き付けた。
 もスネークの横で、彼とは逆を向いて柵に背中を預けている。
 少しの間、二人は無言で風を感じていた。
 夕暮れにしては、少し暑い感じの空気。
「‥ねぇスネーク、なんか、嫌な事でもあったの?」
「‥‥‥別に、たいした事じゃない。」
「ふぅーん。」
 くるり、と預けていた体を回転させ、スネークと同じ向きになる。
「私はてっきり、また”伝説の英雄”って言われて機嫌悪いのかと思った。」
「‥‥‥。」
 ビンゴ。
 当たったらしい。
「伝説の英雄、ねぇ。」
 自嘲気味に言うスネークに、は苦笑いをこぼした。
 この人は自分の通り名がえらく気に入らないらしい。
 前々から思っていた事だけれど。
「なんで、そんなに嫌がるの?普通喜んだりしない?」
「お前には判らんだろうな‥。」
「うん、全然判らない。」
 あっさりと認めるに、ちょっとあっけに取られてしまう。
 そんな事ない、とか言うものではないのか、日本人というやつは。
 ‥‥彼女の場合は違うらしいが。
「私の日本の友達にね、すっごいスネークのファンがいたの。その時は右から左だったけどね。」
 よくよく考えれば凄い事。
 かの伝説の英雄と二人だけで話をしているなんて。
「そいつは、どうして俺のファンだったんだ?」
「うん、巨大な敵と戦う男、っていうのがかっこよかったみたい。」
「‥‥どこかの三流ヒーローだって代役は務まるぞ、それは。」
「あははー、そうかも。」
 まあ、自分にないものに憧れるってのは、判らなくない。
 しかも、漫画やアニメのヒーローと違って、スネークは存在する人間だから。
「私はさ、普段スネークを見てて‥伝説の英雄だぁ〜なんて、思わない。だって、伝説の英雄がキッチンで玉子焼きに悪戦苦闘してるなんて‥普通想像つかないでしょう?」
「まぁ‥そうだな。」
 ふぅっと煙を吐く。
 風に溶けて流れるみたいに、それは消えてなくなった。
「少なくとも、今この場に居るスネークは、伝説の英雄じゃない。‥んでも、ミッションしてる時は‥伝説の英雄かも。」
 少し、腹が立つ発言だとスネークは思ったが‥次のの言葉で、腹立ちなんて飛んでしまう。
「‥‥というか、私が苦手な事をそつなくこなす人は、私にとっては皆伝説の英雄だわね。」
「‥‥‥‥‥というと、なんだ。オタコンも、科学的伝説の英雄ってとこか?」
「うん。メイ・リンもね。食堂担当の人は、料理的伝説の英雄。」
 ‥‥なんじゃそりゃ。
「なるほどな‥。」
「あー!!なんで笑うかな!」
 含み笑いだが、にとっては馬鹿にされている以外の何者でもない。
「とすると、俺はなんだ。」
「スネークはスネーク。潜入的伝説の英雄。」
 潜入的って‥‥‥。
 の余りの明るさに、自分自身でその言葉に余りこだわる事はないのだと、教えられた気がする。
 固執しすぎは、身を滅ぼす。
 そう思うと、少しだけ気が晴れた。
「とりあえず、オタコンの所いかないとな。」
「あ、そうだね。」
 今思い出したかのような態度のに、また笑ってしまう。
 何で笑われているのか、にはさっぱり判らないが。
「俺には、お前が伝説の英雄だな。」
「どうして?」
 スネークはタバコを携帯用灰皿に詰め、ニヤリと笑った。

「玉子焼きだけは、俺の上だろう?」
「じゃあ、私は玉子焼き的伝説の英雄?」
「そうだな。」


36000HIT、マリヱ様からのご依頼で、MGS夢でした。
指定が全く無かったので、とりあえず女主とお気に入り二人を。
いきなりリキッドとかソリダスはどうかと思ったんで(汗)
しかし実に中途半端っていうか‥‥話の内容が伴わない感じに‥‥すみません(泣)
卵焼き、中身が半熟なのが好きなんです私が。←文法危険
作るのはちょっとコツいりますけどもね‥。
マリヱ様、申告ありがとうございました!

2002・5・26

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