再会 週末。 世の中の週休2日制勤務の人ならば、家でゴロ寝したり、買い物したり、家族サービスをしたりする日。 だが、にとってはいつもと変わらない日常。 フィランソロピーにご厄介になっている彼女。 はっきり言って、どれが休みで、どれが仕事で、なんて、しっかりした線引きはない。 民間で、しかもしっかりした人数のいる組織ではないから、おのずとの仕事も増える。 今日は世間一般様では日曜日。 久しぶりにゆっくり出来そうな気配だったのだが、いきなりオタコンに買い物を頼まれ、あちこちのショップを駆けずり回る羽目になってしまった。 それが終わったかと思えば、夕食の買出しに行かねばならなくなり、現在、フテクサレながら、行きつけのベーカリーショップへと足を運ぶ最中。 急ぐ事もないので、ゆっくり目に歩いていると‥‥突然、後ろから声を掛けられた。 「‥‥だろ?」 「‥‥‥‥あ――!」 「久しぶり、かな」 「そうだね」 失礼します、とウェイターがコーヒーのカップを置いて、立ち去った。 パンのいい匂いと、煎れ立てのコーヒーの香りが香る。 夕食までは間があるし、3時のオヤツには遅い時間だが、少しお腹に入れてもいいかなと思わせる匂いだ。 は目の前にいる人物に笑いかけ、頂きますをして、コーヒーに口をつける。 コードネーム・雷電。 本名はジャック。 数ヶ月前、海上プラントでの任務で出会った人物。 プラント内部で迷っていたは、彼に出会い、目的の場所まで連れて行ってもらったりした事がある。 任務が終了し、口伝でスネークに何処で分かれたか聞いた以降、どこへ行ったなんて小耳にも挟まなかったのだが‥‥こんな所で出会うとは。 スカルスーツ姿の彼しか見ていないから、少し妙な感じを覚える。 「今、何してるの?」 「あぁ、ちゃんと仕事してる。別に、軍関係ではないけどな」 「ふぅーん。‥‥ねぇ、雷で‥‥」 「おいおい」 突然言葉を遮られ、なんだろうかと驚く。 悪い、といいながら苦笑いを零す彼。 「雷電ってのは、コードネームだからな、ジャックでいい」 「あ、うん。ジャック、ローズさんは元気?」 「‥‥‥‥」 ローズの名前を出した途端、雷電‥‥もとい、ジャックは、表情を曇らせた。 プラントに、オタコンの補佐として一緒に潜入していたは、勿論ジャックの成り行きや、状況のような物を一通り‥‥自分の知っている範疇のみではあるが、理解していた。 だから、ジャックの彼女のローズの存在も知っていて。 彼女と、人生をやり直すんだろうと思っていた。 スネークもそのつもりで、最後にジャックをこちら側へ来させないような発言をしたと言っていたし。 そうでなければ、引き抜きしたいような人材だったし。 だが‥‥今、目の前にいる彼の表情は明るくない。 なにかあったんだろうか。 ‥‥なければ、こんな表情しないだろうけれど。 「ど、どうしたの?」 「ローズとは‥‥別れた」 「えええ!?」 思わず大声をあげてしまい、、周りの視線を一身に受けてしまう。 あわてて声をひそめた。 だが、ジャックの発言は、それほどまでにショッキングだったのである。 何故って、あんなに‥‥なんていうか、物凄くラブラブしている感じだったのに。 潜入中だというのに、出逢った時の話とかする位で。 それなのに、別れた? 信じられない。 「ローズの方が、別れるって言い出したんだ」 「ど、どうして?原因は??」 「俺が、上の空でいる事が多いから、だってさ」 「そんな理由で!?」 本当は、違う。 それが、直接的な原因ではなかったのだが。 困った様相をしているジャックに、はそれ以上追及するのを止めることにした。 相手の嫌がる事は、やらない方がいい。 「ねえ、これから暇?」 「あ、ああ、時間はある」 「じゃあ、じゃあ、ちょっと付き合ってくれないかな」 「?」 ニコニコ微笑む。 別段用事もないジャックは、とりあえず頷いた。 「なんていうか‥‥凄い量だな」 「だって、空いてる時間に自分の事しないと、後々苦労するし」 ジャックはのショッピングにつき合わされ、荷物持ちにさせられていた。 両手にまとめ買いした洋服や、化粧品の類いの入った袋を持っている。 の方は手ぶらかというとそうでもなく、食事の材料から、スナック菓子にジュースとビールまで、様々なものを持っていた。 洋服の方が軽いかといえば、そういう事もない。 「その食材は‥‥が一人で?」 「ううん、スネークとオタコンと食べるの。普段は3人で食べてるから」 「が作ってるのか?」 日替わりだったりするけど、大抵は作ってる、という言葉に、ジャックは素直に、スネーク達が羨ましいと思った。 の手料理――、どんな感じなのだろう。 「俺も、の料理食べてみたいな」 「別にいいよ。‥‥あ、でも怒られちゃうかな。」 「怒られる?」 「うん。だって、スネークは雷電を引き込んだのか!って怒りそうだもの」 なるほど、と何となく納得してしまった。 スネークは、ローズと雷電が別れたのを知らないのだから。 知っていたとしても、自分達を”逃げ場”として扱ってくれるなと怒るかもしれないが。 二人は荷物を抱え、フィランソロピー支部近くの店で夕食を取ることにした。 はパスタ、ジャックはドリアを頼んだ。 「ここのパスタのホワイトソースが絶品なんだよ〜」 「へえ、はホワイトソースが好きなんだ」 「日本にいた頃は、トマトソースが好きだったんだけどね」 は水を飲むと、ジャックに日本にいた頃にお気に入りだったお店等の話をし出した。 随分、久しぶりな気がする。 話をしているうちに、パスタとドリアが来た。 頂きますをして、それぞれ箸‥‥じゃなくて、フォークをつけ始める。 軽く雑談しながら、食事を進めていく。 話をするのはの方が多くて、ジャックはもっぱら聞き役だった。 別にそれが悪いという訳ではないのだが、自分ばかりが話をしているようで‥‥。 彼は楽しくないかもしれない、そう思ったは、パスタを食べ終わって、デザートのブルーベリーのかかったヨーグルトに口をつける前に、一息おいた。 「‥‥ジャック、私ばっかり話してるけど、あなたも話してよう」 「話‥‥っても、なにを話せばいいのか‥」 確かに。 これでは、何かお話して!と寝る間際に駄々をこねる子供と同じだ。 うーん、と悩んでいる様を見て、ジャックはクスクスと笑ってしまう。 以前――、プラントで一緒した時と、まるで変わっていない彼女が、なんだか凄く可愛くて。 自分はどうなんだろう。 彼女と違い、自分はあの時とは違う。任務中、ローズの事を考えていた。 どんなに任務だと思っていても、彼女の影はそこにあった。 ‥‥途中までは。出会うまでは。 「ジャック?」 「あ、あぁ、すまない。」 「‥‥そういうトコ、任務の時と変わらないね」 「そういうも、任務中と変わらないな」 「あっ、それって馬鹿にしてる!?」 ぷーっと膨れて、「もう」と怒りながらヨーグルトを口に運ぶ彼女が、とても‥‥なんていうか、魅力的に見える。 ただ、ヨーグルトを食べているだけなのに。 気持ちを落ち着けるように、会話を続けた。 「‥‥君は、どうして‥‥その、あんな危険な場所にいたんだ?」 ジャックの突然の言葉に、はスプーンを口にくわえて、思わず止まった。 なんの事を言っているのか認識すると、悩みもせずに返事を返す。 勿論、スプーンは口から外して。 「どうしてって、私にも出来ることがあったから」 「?」 意味を図りかね、判らないといった表情のジャックを見て、は言葉を続ける。 「好きな人たちの力になりたいっていうのは、別に変な事でもなんでもないでしょ?」 「死ぬかもしれないのに?」 「スネークとオタコンに救ってもらった命だから、少しは貢献しないとね。 死ぬつもりもなかったし」 あっけらかんと笑顔で答えるに、唖然とするジャック。 そういう理由で戦場に行くっていうのもアリなのかと、少し考えてしまった。 少なくとも、にとってはそれが充分な理由だったのだろう。 「…は、その…あの二人が好きなんだな」 「うん」 間髪入れずに笑顔で頷く。 ……ジャックは少しだけ、ショックを受けた。 「じゃ、じゃあ…俺、は?」 「ジャックかぁ〜、いい人だよね、うん」 ……さらにショック。 (ローズと別れた原因が君にあるなんて、思いもしないんだろうな…) 戦場で出会って、ほんの少しの間で自分の心に住み着いてしまった彼女。 状況が状況だったので、あの時は何も言えなくて…いや、言おうとしなかった。 単なる気の迷いだと思っていたから。 けれどそれは迷いでもなんでもなく。 「そろそろ帰らないと、怒られちゃうから、帰るね」 「あ、ああ……」 立ち上がるに、慌ててジャックも席を立つ。 「それじゃ、ここでいいよ。中まで入っちゃうと、大変でしょ?色々と」 スネークにイヤミを言われるだろうと、が苦笑いした。 すぐそこに、支部への入り口がある。 「……なあ、、また…会いに来ていいか?」 「うん、また一緒にご飯食べようね」 ニッコリ微笑む彼女に、クラクラきているのは秘密。 ジャックは「じゃあ」と去ろうとするの手をとり、きゅっと抱きしめる。 手荷物が、地面に落ちた。卵が入ってないない事を祈る。 「??どしたの」 「……絶対、会いに来るから」 「うん」 「約束だ」 そう言って、何を思ったかジャックはの唇を奪う。 ……一瞬、時間が止まった気がした。 暴れる事もせず、おとなしく腕の中におさまっている彼女。 恐る恐る唇を離すと、真っ赤な顔が其処にあった。 「お、お別れにしては…ちょっと、あの…」 「…告白は次回にとっておくから」 「………じゃあ、返事も次回までとっておく…」 柔らかな体を抱きしめつつ、しばし至福の時間を過ごすジャック。 も、彼の背中に腕を回した。 「……スネーク、ダメだよUSPなんて持ち出しちゃ」 「安心しろ、殺すつもりはない」 「…マンマンじゃないか」 こそり、物陰から覗いているのは、スネークとオタコン。 の帰りが遅いので、探しに行こうとした所で、 ジャックと彼女の抱擁シーンに鉢合わせしてしまった。 「許さんぞ…」 低くうなるスネークに、オタコンも頷く。 ジャックの運命やいかに。 54545キリリク、SARAH様からで、雷電です…が、甘くないですね、スイマセン…;; もっと激しくラヴさせようかと思ったんですが…力量足らず。 こんな出来で申し訳ないです。 ど、どうぞこれからも宜しくお願いします〜! リクありがとうございました!今度は頑張りますっ(今も頑張れ) …そういえば、ローズの子供の存在をすっかり忘れて…はっ;;; 2002・8・6 back |