MGSsecondcreation−EX−substance ソリッド・スネーク。
潜入作戦(スニーキングミッション)の達人(スペシャリスト)にして、 過去、幾度にも渡りメタルギアの脅威から世界を救った伝説の傭兵。 ───現在の彼の任務は、味方駐屯地への迅速なる補給物資の搬入だった。 食料品の山ほど詰まった紙袋と、日用品等の入った手付きの紙袋を両手・両腕に抱え、彼は玄関の扉を開けた。 つまり、今日の彼は買い出し係なのである。 「あっ、スネーク、お帰りぃ」 「ああ、ただい・・・・・・・ま?」 階段上から掛かった朗らかな少女の声に顔を上げたスネークは、瞬間、ぽかんと固まった。危うく持っている荷物を落としそうになった。 「・・・っ 、なんだ、その格好は?」 心なしか声が震えている。 「えへへ〜、似合う?」 そう言って少女はスカートを摘み、くるりと一回転する。 黒髪に、無邪気な黒い瞳。実年齢より若干幼く見えるのは、彼女が日本人のせいもあるだろう。 彼女の名は ・ 。 故あってスネーク達が庇護することになった、民間の少女である。 スネークは暫し茫然として の格好を見上げ(彼女は階段の中間程にいたからだが)ていた。 が着ているものは所謂、制服・・・・のようなものだった。 黒ベースの布地の上にエプロン。裾が微妙に広がった極端に丈の短いスカート。過剰なまでのフリルとレース。頭にもフリルつきの布製のデコルテを被っている。胸元はきわどく開き、シルクのガーターベルトなんてものまで身に着けていた。極度の静電気体質の は、いつも黒い手袋を愛用しているのだが、その手袋も、今は総レース仕様に変わっている。 メイドさん服。 それも、かなり趣味に走ったメイドさん服である。 スネークはくらりと目眩を覚えて額を押さえた。別に悩殺されたわけではない。(多分) こんな馬鹿なものを着せるのはアイツしかいない─── 「これね、オタコンが貸してくれたの。なんでも秘蔵のコレクションなんだって。可愛いでしょー?」 可愛いことは可愛いが・・・・ くるくると回っている を見上げてそう思いつつ、スネークは突如はっと我に返った。 「ばかもん! そんなところでヒラヒラ回るな!」 「ふえ?」 怒鳴り声に、 がきょとんと動きを止める。 スネークのいる角度からは、 が回る度にちらちらと白い太腿が露になり、格別にそういう系統の趣味を持たないスネークでさえ、なにやら危険な気分になりそうだった。 しかも、この危険な格好を、自分以外の別の男がさせたと思うと─── ( くそっ! オタコンめ! ) 何故か猛烈に湧いてきた怒りに、スネークは の脇を抜けて一気に階段を駆け上がった。そのままオタコンの部屋に突進する。 あとには、ぽかんとスネークが走り去った方向を眺めやる だけが取り残された。 「これ気に入らなかったのかなぁ、スネーク・・・・」 ゆるゆると自分の服に視線を落とし、 はぶちっと唇を尖らせた。 ドババンッ!! 蹴破られそうな勢いで開いたドアは、あまりの勢いに向こう側でリバウンドし、もう一度激しい音を立てた。 モニタ前に座っていたオタコンが、椅子に座ったまま反射的に両手を掲げてホールドアップのポーズをとりながら、 「あ、あれ? スネーク? なんだい、脅かさな───」 「出せ!」 現れたのがスネークだと知り、ほっと胸を撫で下ろしそうになったオタコンの、その胸倉をスネークはいきなり引っ掴んで吼えた。問答無用でがくがくとオタコンの首を揺する。 「おまえが にあんな格好をさせて何もしてないはずがない! 写真を撮ってるだろう!? 今すぐ出せ! 残らず出せ! 隠すと身の為にならんぞっ!」 「うあああわわわわ・・・わ・わ・わ、わかったから、離してくれよ!」 スネークの腕をなんとかふりほどくと、オタコンは苦しげに喉元を押さえ、横にずれた眼鏡の位置を直した。 肩を揺らして呼吸を整えるオタコンに、スネークはずいと手を差し出す。 「さあ、出せ」 「だ、出すけどさ、どうしてそんなに怒ってるんだい? スネーク」 オタコンは腰を上げずに椅子ごとコンピュータの間近に移動すると、渋々とHDの横に置かれた一枚のディスクをスネークに渡した。 「 のあの格好、似合ってなかったかい?」 「そういう問題じゃない」 スネークはディスクを受け取り、冷たく言い放つ。 「そうかなぁ。僕は可愛くていいと思うんだけど。あれはオーダーメイドの限定品で、そうそう手に入る物じゃないんだよ」 「だから、そういう問題じゃ・・・・」 「苦労して手に入れたのはいいけど、やっぱり一度は身に着けているところを見たいじゃないか。 のサイズにぴったりで僕も思わず興奮しちゃったなぁ」 しまった。 いつの間にかオタコンのモードが変化している。 どことなくご満悦な表情で虚空を見上げるオタコンは、こちらの存在など忘れてしまったかのようだ。 この状態のオタコンには何を言っても無意味である。というか、どういうわけか何も言いたくない気分にさせられてしまうのだ。根こそぎ戦意を喪失させられてしまう。 それを知ってか知らずか、オタコンはひどく邪気のない微笑みをスネークに向けた。 「今度、是非あの格好の を<会場>に連れていこうと思ってね。絶対人気の的だよ?」 「それがいかんと言ってるんだっ!」 ゴスッ! しかし、今回ばかりはスネークの怒りの方が勝ったようだ。 拳で殴りつけられたオタコンの頭からふしゅ〜と湯気のような気配が立ち昇った。 「だ・・・だから、どうして怒るんだよ?」 「当然のことだ!」 痛みに顔をしかめながら頭をさすりつつ、オタコンはそっぽを向くスネークをしげしげと眺めた。 (ははーん) 不意に、オタコンの顔が意地悪そうな笑みを湛えた。 「スネーク、君、もしかして妬いてるね?」 「む?」 ぎくりとスネークが僅かに狼狽する。 「 が他の男に注目されるのが気に入らないんだ。しかも、自分以外の別の男がさせた格好で」 「ち、違う。俺はただ純粋に、あんな特殊な嗜好の輩を満足させる姿に伴う危険を忌避してだな───」 「でも、 本人は喜んでただろう?」 「む・・・」 「それに家の中でなら問題ないじゃないか」 「むぅ・・・・」 確かにそれはそうだが。 スネークは深々と眉間に皺を刻んで、俯く。 ───だが、家の中にはおまえがいるじゃないか。 咄嗟に浮かんだその言葉は、オタコンの説を肯定しているようなものだ。 いや、今更のことなのだが、それを改めて思い知るのがスネークはたまらなく嫌だった。 「らしくないね、スネーク。それじゃまるで子供の独占欲だ」 自分でもそう感じていたことをオタコンに指摘され、スネークは更に眉を寄せ、顔を上げた。 何故か、オタコンは穏やかな微笑を浮かべていた。どことなく勝ち誇っているような気もしなくはない。 「まあ、そういう君も悪くないけどね。でも───」 オタコンは言葉を切ると、眼鏡のブリッジを一度押し上げた。 「そういうことはちゃんと にも伝えてあげないと。彼女、たまに不安になっているみたいだよ?」 「・・・・・・どうして、おまえがそんなことを知っている?」 ふてくされたように尋ねるスネークに、 「そりゃあ、僕は の<お兄ちゃん>だからね」 オタコンは軽く片目を瞑った。 「 」 スネークが声をかけると、 はぎくんと肩を揺らし、ぎこちなく振り返った。 彼女はガレージにある背の低い棚に腰掛け、服装はまだあのメイドさん服のままだった。一応、頭につけていたフリフリは外したらしい。 「スネーク・・・・その、ごめん」 「どうして謝る?」 精彩のない笑顔を向ける に、スネークは苦笑しながらその棚まで近寄ると、彼女の頭をわしわしと撫でた。 が口をぶちっと尖らせる。 「だってスネーク、怒ってたじゃない。なんだか知らないけど・・・・」 「あー、まあ・・・・」 そうだな、などと言葉を濁しながらスネークは立ったまま棚にもたれた。 「この服、そんなに気に入らなかったんだねぇ」 「いや、そうじゃない。あれは───」 スネークはどことなく気まずそうに の顔を見上げた。棚に腰掛けている は、立っているスネークより今は目線が高い。 その彼女に、スネークは唇の片端を持ち上げる、自嘲しているような、皮肉を浮かべているような、いつもの笑いを浮かべた。 「あれは俺が悪かった。おまえは悪くない。単に、やきもちを妬いただけだな」 が少し驚いたように目を瞠る。ものすごく不思議そうな顔で は聞いた。 「なんで?」 「さあ・・・・」 スネークはふっとはぐらかすような笑いを漏らすと、 の首筋に手を伸ばした。 首の後ろを軽く掴まえてそのまま引き寄せる。 思わずバランスを崩しそうになった はスネークの両肩に手をつき、その間に─── の唇にスネークの唇が触れていた。 は反射的にぱちくりと目を瞬いたが、ひどく柔らかいその優しく暖かな感触に、自然と目を閉じた。 「・・・・おまえを誰にも見せたくなかったからかな」 さほど長くもない口付けから僅かに唇を離し、スネークはとぼけたように囁いた。 「なに、それ」 ぷっと堪えきれずに は笑いを零した。 「意味わかんないよ」 「そうか? 勇気を振り絞って告白したんだがなぁ」 わざとらしく残念そうな気配を浮かべるスネークに がまた笑う。 くすくすと鼻先で笑い、 は額をスネークの額に押し当てた。まるで、しょうがない人ね、とでも言っているようだった。 スネークもかすかに笑いを零しながら、その額を、そして鼻先を触れ合わせ、 の髪を、背中を、首筋を、優しく撫でながら、何度も彼女の唇を啄ばんだ。 スネークの肩に置かれていた の手が、緩やかにスネークの頬まで上がり、そっと彼の輪郭を撫でていく。 くすぐったいような、不思議と満たされるようなその感触を、スネークは目を閉じて受け入れながら、 の身体を強く抱き締めると、深く───唇を重ねた。 「結局、いいお兄ちゃんは、恋人には昇格できないんだよね。スネークもいい加減判ればいいのに、 そこのとこ・・・・」 オタコンはそんなことをぼやきながら、机の上のコーヒーカップに手を伸ばした。 一口すすって、カップを両の掌で包む。 「まあ、仕方ないか。本人が思っている以上に重症みたいだから。見境もなくなるのかもね」 オタコンは天井を見上げると、かすかに微笑を浮かべた。それはとても穏やかで、それでいてほんの少しだけ寂しげな、そんな微笑だった。 「それにしても───」 と、オタコンはモニタに再び視線を戻す。 「あの格好であの騒ぎなら、これなんか見たら大変なんじゃないかな?」 カココカコ・・・・ 悪びれもせず呑気に呟いてオタコンの指先がモニタ上に呼び出した物は、 先程のメイドさん姿の と───更に、少し古めかしい下着・・・としか思えないような姿の やら、ビキニの上にスケスケのストールを羽織ったちょっと異星のお姫さま風 ・・・・等々がちょっぴり照れくさそうに表示されていた。 当然、スネークに渡したディスク以外にもコピーは取ってある。その辺にぬかりはないのである。 長い時間が過ぎたような気がする。その口付けは、実際にはそれほど長い間ではないはずだった。それでも時間が止まったかのような恍惚とした瞬間に、 は意識を奪われていた。 不意に、 「ひゃっ!?」 浮遊感を覚えて、 はスネークの首にすがりついた。唐突にスネークが の身体を抱きかかえたのだ。 「び、びっくりしたぁ・・・・もう」 の両膝の裏に腕を添えて、姫のように軽々と彼女を運ぶスネークを、 は頬をふくらませて睨んだ。 スネークはその彼女の顔を愉快そうに見下ろす。 「こんなところじゃ寒いだろ?」 にやりと口元を歪めながら、片目を瞑る。 は一度瞬きしてその彼を見上げ───言葉の意味を束の間逡巡してから、ボッと音が鳴りそうなほど顔を赤らめた。 スネークはその様子に喉の奥で笑ってから、 「それにしても───脱がせるのに一苦労しそうだな」 嘆息しながら のメイドさん服を見やる。 はあっけらかんと、 「そうそう。大変なのよ、これ。さっき着替えようと思ったんだけどね、一人で脱げないから結局着替えられなくて、今までこの格好でいたんだけど・・・・」 一人で脱げない? 階段を昇っていたスネークの足が、ぴたりと止まった。 ぎくしゃくと強ばった顔を に向ける。 「・・・・・じゃあ、着る時はどうしたんだ?」 「え?」 笑顔のまま の顔が固まった。沈黙。 「え、えーとね・・・・」 「なぜ目を逸らす?」 「いや、それはその・・・・あははは」 「笑って誤魔化すな。ヤツだな?」 「ちょ、ちょっとスネーク、ヘンな誤解しないでよ? そりゃ手伝って貰ったけど、ちゃんと水着だったんだし・・・」 「ヤツなんだな!?」 「あ、う、ううう・・・・・」 スネークの、寒気がはしるほど凶悪な人相に、 はたらたらと汗をこぼしつつ──────力なく頷いた。 「オタコンッ!!」 ・・・・・・・その日、スネークの怒りの雄叫びが轟いた。 (2002.6.** by takiko) |
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たきこさんありがとうございましたーーー!!!(感涙)
もうなんていうか…あぁ…MGSやっててよかった…。
心の狭いスネークっていいね!!と1人で感動していたり。
オタコンはやっぱりオタコンですね(笑)
なんていうかもう、本当にありがとうございました。
足向けて寝れません。
いつか私も御礼をしたいと思います〜。ほんとにちびちびとしたお礼でしょうけども‥‥(汗)
2002・6・29
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