が羊皮紙につらつらと英語を書いていくのを見て、友達の由美は床机に頬杖をつきながら、関心したように息を吐いた。
 とにかく分量の多い宿題である事は間違いないと、机に積まれた本を見て思う彼女。
 見守るようにしているシリウスは、犬の姿をしながら欠伸を噛み砕いた。


ワンコがうちにやって来た 9


 永遠に続くかと思われた魔法薬学のレポートを終えたは、羽ペンを置いてぐったりした様子で机に突っ伏した。
 午前中をめいっぱい使い、昼を越えて今やおやつの時間である。
 折角遊びに来てくれた由美に申し訳ない気分になった。
「ごめんね、せっかく来てくれたのに……レポートやってて」
 羊皮紙を丸めながら言うに、由美は首を振る。
「別に平気よ。勝手に本、読ませてもらってたし。それにしても……あんたの学校のレポートの単位って、どうなってるわけ?」
 丸めた羊皮紙を示し、首を捻る由美。
「普通、レポートだったら1枚とか2枚とかの単位じゃん? あんたのそれって枚数計算できないじゃない」
 まあ、できなくはないが……。
 は、完全に氷の溶け切ってしまっているジュースに口をつけた。
「大体は『羊皮紙1m分』とかで指定されてるけど。私も最初は驚いたけどね、慣れちゃった」
「メートル……嫌んならないわけ?」
 自分がやっているわけではないのに、妙にゲンナリしている由美。
 少し考え、は苦笑した。
「まあ、楽しい事もたくさんあるしね」



 由美が帰った後、まだ残っている宿題の数を頭の中で数え、は深々とため息をついた。
 それを見ていたシリウスが笑う。
 犬の姿だからか妙な笑いになっているが。
「シリウスー、ひどいなあ。何笑ってるの」
 彼はするりと人間の姿に戻る。
 何度見ても凄い。
「いや、かつて自分が通った道だなと思ってな」
 勉強で物凄く苦労をしたわけでもないシリウスだが、やはり課題における苦労は同じようで。
 妙にと過去の自分がダブって見える気がすると、シリウスは思った。
「しかし偉いな。私は宿題なんて一夜漬けの状態だったが」
「一夜漬けで終わるってのが凄いんですよ……私だったらこんな量、徹夜したって終わりゃしません」
 膨れ面をする
 シリウスは苦笑した。
「んー、でもシリウスの学生時代って想像つかないなあ。っていうか、それを言ったらルーピン先生かな……悪戯仕掛け人に似合わない」
「そうか? まあ確かにメインで動いていたのは私とジェームズだが。リーマスの奴も結構あれこれやらかしていたぞ」
「人は見かけに寄らないってとこでしょうかね?」
 どうにも『闇の魔術に対する防衛術の教師であるリーマス・J・ルーピン』のイメージがあるため、には想像し辛い類の事である。
 そういえば、彼は今一体どうしているのだろうか?
「……先生に手紙でも出してみようかな」
「住所は分かっているのか?」
「うん」
 ホグワーツから彼が去って暫くし、の元に手紙が届いた。
 リーマスからの手紙で、現住所が書かれていたのだ。
 それを告げると、シリウスは非常に複雑そうな顔をした。
(あいつ……まさか狙ってんじゃねえだろうな)
 内心で呟き、シリウスは腕を組む。
 は首を傾げた。
「シリウス?」
「あ、ああ、いや……何でもない」
 小さく笑む彼。
 とてもとてもカッコよくて、この場に由美がいたらどう反応するだろうか、とは少し考えたりした。


2006・2・8