どうしてどうして。
 嫌な人だというのに会ってしまうのだろう。
 引き合っている訳でもなかろうに。



ワンコがうちにやって来た 3



 久しぶり。
 そう声をかけてきた女の子は、三人グループ中のリーダーだった。
 が思い切りイヤそうな顔をするのにも構わず、リーダー格の少女はを見つめている。
 表情には人を馬鹿にしたような彩。
「あー、久しぶり」
 はケロリと答えた。
 その様子が、リーダーの彼女も彼女の取り巻きも、非常に気に入らないよう。
「驚いたわ、だって、いきなり貴方がいなくなるんですもの」
 の学校は、基本的にエスカレーター。
 小学校、中学校と、メンツは全然変わらない。
 だからぽっといなくなると、直ぐに噂が広まる。

 彼女たちの様子を見ていたシリウスは、ハリーに少し聞き及んでいたの環境を思い返していた。
 確か、の通っていた日本の学校も、ホグワーツのスリザリンとグリフィンドールのように、対立するクラスがあったはず。
 という事は。
 ――この突っかかってき気味な少女は、にしてみると、スリザリンクラスの人間なのかもな。

「由比子、何の用なのよ」
 遮るようにが間に入ってくるものの、後ろの取り巻きが邪魔するな! とばかりに、腕を掴んで由比子から引き剥がした。
「邪魔しないでよ、私は、と話ししてるんだから」
「で、私に何の用?」
 意にも介さず様子のに、ますますいきり立つ由比子。
 としてはシリウスを巻き込みたくないのだが、そうも言っていられない状態らしい。
 彼は彼で、成り行きをとりあえずは見守っているし。
 由比子は久々にターゲットを見つけて嬉しいような、憎いような、ともかくイヤミたっぷりの口調で、に言葉の攻撃を加える。
「どこぞの外国へ、イジメの辛さのあまり逃げ出したって聞いたけど?」
「別に、イジメられてた覚えはないわよ」
「あらそう? 英語は少しは堪能になったの? 未だにしゃべれずにマゴついてるんじゃないのー?」
 大声で笑う由比子と取り巻き二人。
 は怒りで顔を赤くしているが、不思議とには、怒りが湧き上がって来なかった。
 ――うーん。どうもマルフォイ率いるスリザリン勢の方が、腹が立つ言い方してくれるんだよね。
 もしかしてホグワーツで揉まれたのだろうか。
 彼女達が似非マルフォイに見えて、実に笑えてくる。
 笑いを噛み砕くのに、一生懸命になってしまった。
 面白くないのは、由比子だ。
 前みたいにイジメてやろうとしているのに、どうも要領を得ない。
 以前のだったら、真っ赤になって怒っているはずなのに。
 ふと、由比子の目が、の持っている紐の先へと向けられる。
 シリウスは目線が来た事に、直ぐに気がついた。
 そうしてから、自分の買っている紐をくぃっと引っ張り、これまた黒い犬を自分の前に座らせる。
「……ふん、何? その薄汚い犬。ウチのブラックには、気品といい佇まいといい敵わないわね!」
 そのブラックという犬は、ドーベルマンだった。
 だが、それは問題じゃない。
 ヒヤヒヤしながらはシリウスを見た。
 やっぱり、彼は『ブラック』という名にピクリと反応している。
「何ソワソワしてるのよ、気に入らない犬ね」
 ――あぁ、私にならいくら文句言ってもいいから、シリウスさんにはやめてー!
 祈ってみた所で、由比子の口は止まらない。
 明らかにシリウスは、先ほどよりも機嫌が悪そうだ。
 引き合い対象が犬であれば、多分殆どの場合、そうなるだろう。
 というか、だったら飛び掛っている。
「ブラック、ちょっと痛めつけてやりなさい!」
「ガフッ」
 なんだか、むせたような鳴き声と共に、主人に忠実なドーベルマンは、に向かって走ってきた。
 さすがドーベルマン、早い。
 どうするか迷う。
 未成年は魔法は使えないし、第一、こんな所で魔法なんて使ったら。
 一瞬考えるも、それ以前の問題に気づく。
 ――杖、持って来てないじゃん!!!
 持っていると使うかもしれないから、という理由で、家に置きっぱなしだ。
「きゃあ!」
!」
 ともかくを庇おうと、シリウスを引っ張っていた紐を手放し、彼女に抱きつく。
 ぎゅっと目をつぶった。

「ギャン!!!」

 衝撃も、痛みもない。
 ――あれ?
 恐る恐る目を開けてみると――頼りになる我が家の黒犬が、ドーベルマンをふっ飛ばしていた。



2002・11・11
2009・8・15(修正)