※ワンコシリーズ注意点。
 時軸3巻後、4巻手前ほど。原作沿いではありません。改変具合が物凄いです。
 また、シリウスはアニメーガス(犬)状態でも会話ができる仕様になっています。
 以上、許可できる方のみお進みください。





ワンコがうちにやって来た 1



 久々の帰国。
 慣れ親しんだ故郷というのは、やはり格別なもの。
 吸い込む息すら愛しい。
 ……まあ、ホグワーツの方が、空気は澄んでますが。


 クリスマス休暇も距離のせいで日本に帰ってきていないにとって、長期休みが唯一日本に帰れる時。
 一年ぶりの道を歩き、その体に不似合いなほどの大きさのトランクと、フクロウ入りの鳥かごを持って、家の前に立つ。
 手持ちの鍵を使い、ドアを開けた。



「ただいまーーー!」
「……ワン」
「……………」



 意気揚々と帰ってきたの目の前に…デカイ黒犬が。
 なんというか、非常に、どこかで見たことがある気がする。
 固まっているをよそに、リビングの方からパタパタと母親がやって来た。
「お帰り、
「母さん…この犬…」
 玄関先で、何となく影をしょっている黒い大きな犬を指差す。
 母は「良くぞ聞いてくれた!」とばかりに、嬉しそうな声を上げた。
「それがね、あんまり可愛いんで、買ってきたのよー。 ペットショップで叩き売りされてて……」
「……そ、そう……」
「……ウゥ」
 ワンコが、小さく――情けない、というような声を出した。


 ともかく、荷物を片付けるからという名目の元、自室へと戻る。
 母は色々と話を聞きたがっていたのだが、父も同じ事を聞きたがるだろうということで、夕食まで話はお預けにしておいてもらった。
 突然やって来た――黒犬の居場所だが、無理を言っての部屋にしてもらった。
 彼女の部屋は、この家の中でも一番大きく、それ以外に犬の居場所を捜すとなると、どう考えても庭。
 もし、普通の犬であると確認できればそれもよし。
 そうでなければ――とんでもないことになる。
 という事で、とりあえず。
 現状、この黒いワンコはと同室という形になった。

 部屋に入るとドアの鍵を閉め、荷物を部屋の端っこに置くと、ペットのフクロウを定位置になっている、低いタンスの上に置く。
 そうしてから――デッカイ黒犬と向き合った。

「……えーと、あの、違ってたら非常にイヤなんだけども。……もしかして、ブラックさんですか?」
 犬は今まで大人しく自らの体を丸めていたのだが、その言葉にのっそりと起き上がり、はぁ、とため息をつく。
 ため息をついたように見えた、のではなく、本当にため息をついたのだ。
 見る間に犬の体が人のそれに成り代わっていく。
 わずかに背を反るようにして伸ばし、彼は顔にかかった長い髪を手の甲で払う。
「……奇遇だね、……ええと、?」
 流暢な英語がどこか掠れた音なのは、人間型が暫くぶりだからだろうか。
「やっぱり! それにしても、よく私のこと覚えててくれましたね」
 一度会っただけなのに、記憶の端にでも引っ掛けてくれていた。
 それが、なんだかちょっと嬉しい。
「君こそ、よく私の事を覚えていたね」
「ハリーから色々聞きましたもん」
 は今まで、黒犬のシリウスしか目にした事がなかった。
 以前、保健室で出会ったことがある――泣いていた自分を慰めてくれた、優しい黒犬のことしか。
 実際に人間の姿をした彼を見る機会は、少なくとも今までにはなかった。
 手配書として回っていたのを見たと数えるならば、何度かは目にしていたけれど。
 彼の置かれた状況は、ホグワーツからの帰りの特急でハリーから聞いていたし、元々には、シリウスが悪人に見えていなかった。
 だから、ハリーの仮父親のような人物に会えて、純粋に嬉しく思っている。
 ただちょっと、状況に問題があるかもしれないが。
「それにしても、よく私に気づいた」
「一度見てますし。……で、どうして日本に?」
「……話すと情けなくなってくるのだが」


 シリウスはイギリスから遠く離れた地で姿を現し、魔法省の意識をそちらに向けた。
 後、犬の姿で捜査をかいくぐって、ともかく拠点となる場所を探していた。
「実際、途中までは上手く行っていたんだ。リーマスと連絡も取れていたし、彼の家に暫く置いてもらう事も考えていた」
 だが、それは突然破錠する。
 いきなり現れた旅行者が、シリウス(犬)を捕まえたからだ。
「驚いたよ。まさか、旅行者に気に入られるような犬だと、自分では思っていなかったしね。連れて行こうとしたのは、日本人だった」
 丁度旅行していた日本人は、シリウス(犬)をいたく気に入り、そのまま日本へと連れ帰ってしまった。
 しかし、連れて帰った日本人の家は、どうやら家主が犬嫌いだったらしく。
 物凄い反対を受け、入れるなら出て行けとまで言われたようで、結局シリウス(しつこいようだが犬)を、ペットショップへと譲渡した。
 話を聞いていたは、軽く首を傾げた。
「飛行機から、魔法で逃げればよかったんじゃ……」
「万が一にも、魔法省が私の力を察知でもしたら困るからね。出来るだけ、魔法は使わないようにしている。それに遠く離れた日本なら手も薄いかと思って、甘んじたんだ」
 ともかく、ペットショップに入れられてしまったシリウス(犬)は、その大きさもさる事ながら、容姿も痩せこけていて、お世辞にも美麗な犬、とは言い難く。
 出される食事はドッグフード。
 結局、買い手もつかずに一日が経とうとしている頃、
「うちの母親が買ってきたと、そういう訳ですか」
「……まあ、そういう事だな」
 運がいいのか悪いのか。
 少なくとも宅に来たのは、幸運なことだろうと思える――経緯はともかくとして。

「これから、どうします?」
「う……ん……」
「そうだ。暫くウチにいればいーんですよ!」
「え!?」
 物凄く嬉しそうな表情で、はシリウスの傍による。
 ニコニコしているが…要はペットになれと!?
「ね、そうすればハリーと連絡も取りやすいし――」
「いや、しかし…」
「大丈夫!ドッグフードは出しませんから」
 シリウスの顔がわずかに歪む。
 そういうことではを言いたいのではなさそうだ。
「通報もしませんから」
 魔法省に通報されたら一巻の終わりだが、がそれをしないだろうと、シリウスは考えていた。
 ハリーの友人という立場にあらずとも、彼女はそうはしないだろう。
 漠然と、彼はそう感じていた。
 それは実に妙な予感だったが。
「……だが」
 ハリーの友人に、そこまで甘えてしまっていいのだろうか?
 シリウスは考え込んでいた。
 確かに、彼女と一緒にいる限り――この家にいる限り、ハリーと連絡は取りやすい。
 魔法省に疑われもしないだろう。
 元々、日本という場所には魔法使いが少ない。
 だから、ホグワーツでも殆ど見かけないのだが、それは逆に言えば、魔法界からすると、監視が緩いという事。
 あのヴォルデモートさえ、日本には数度しか現れていないと聞くし。
 完全に思考に沈んでいるシリウスに、は少し寂しそうな表情をした。
「イヤですか?」
 しゅーんとする彼女の姿。
 彼はなんとなしに罪悪感を覚え、ふぅとため息をつく。
「分かった、暫くの間、面倒をかける」
 了承の意を表した途端に、
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
 ぱっとの表情が明るくなるのを見て、彼もまた笑った。

 こうして家に、黒くて大きい犬が住むようになった。




2002・10・24
2009・8・15(修正)