カイトと正月 「正月ぐらい、繋ぐの止めたら良いのに……」 「そんな事言ったって、僕らも繋いでるじゃないか」 そりゃそうだと思いつつ、とカイトは走っていた。 後ろからは様々なPCが2人を――というかカイトを追いかけてきている。 ドットハッカーズのリーダーたる彼は非常に有名になっている。 黄昏事件の後では仕方がないとも言えるが。 お正月を一緒に過ごそうと決めたのは学校でだった。 親との参拝もあったのだが、その前にザ・ワールドで正月参拝をしようという事になった。 他のメンバーは折り合いがつかず、結局とカイトの2人だけでザ・ワールドで参拝したのだが。 ……カイトだと気付いた一部が騒ぎ出し、結局逃げる羽目に。 「結局落ちつくっていうとココなんだよねー」 デルタサーバ、隠されし禁断の聖域。 何が起ころうと関係がない場所なだけに、ドットハッカーズの安住の地ともいえる。 ネットスラムに行く事も考えたのだが、あそこはあそこで少々やかましい。 結果として聖堂のココが落ち着く場所になった訳だが。 「お願いできた?」 が柵に寄りかかっているカイトの隣で問う。 彼は少々苦笑いした。 「まあ、一応」 周りが騒ぎ出すまでの時間が短かったので、対してお願いできなかったけれど、と付け加える。 「は?」 「うん、やっぱり一応」 「2人でいると目立つんだね、やっぱり」 「まあねぇ……」 己とカイトの姿を見やる。 普通では使えないPCカラーのカイトに、不思議な紋様がくっきりと浮かび上がっているのPC。 どちらも異質なため、目立つ。 事件を解決した今でも、カイトには腕輪があるし、には五感が備わっている。 以前ほど自分たちの異質さに辟易したりしないけれど、それでも疲れる事はある。 例えば今日のような騒ぎになってしまうのは、少々疲れる。 は柵の向かい側にある机に腰かけ、足をプラプラさせた。 「ザ・ワールドのお正月って変だよね。クリスマスの時も思ったけど……ココでのお正月だと竜とか精霊にお祈りしてる事になるのかな」 カイトは考える素振りを見せ、少しして肩をすくめた。 「さあ……。オルカがいたら詳しく話してくれたかも知れないけどね」 「オルカかー。今頃親とお出かけかな」 「多分ね」 ザ・ワールドでちょっとだけ一緒にお参りしないかと誘った所、 彼はひどく残念そうな顔で 『親がさ……意識不明になったんだから必死でお祈りしに行くぞって気張ってて……』 と、どこだか有名な神社に連れ出されるのだと言っていた。 まあ、親にしてみれば子供が意識不明になったのだから、それ位はしたくなるのだろう。 受験祈願も兼ねて、との事らしいと聞いている。 足をふらつかせたまま、息を吸い、吐く。 本当に吸っているのは自分の部屋の空気のはずだが、不思議と清浄なものが気管を通って行く気がする。 柵に寄りかかっていたカイトがの隣に座った。 ふわり、暖かな空気が流れる。 彼独特の雰囲気。 リアルの彼も、ネットの彼も持つ、の大好きな気配。 以前、側に居てくると不思議と安心するんだよね、と彼に告げた所、カイトは頬を赤らめた。 よくよく考えると結構なセリフを口にしたと気付き、かなり慌てたものだが。 「そういえば、カイトはクリスマスの時どうしてたの?」 「うん……別に」 どこか含みのある言い方に、は首を傾げてじっと彼を見つめた。 視線に気付いた居心地悪気に頬を掻く。 「あー……ブラックローズと会ってた」 「え、2人だけで?」 驚きと困惑が入り混じる。 自分抜きで彼がブラックローズに会うとは思っていなかったから。 カイトは苦笑して床を見つめている。 「最初はオルカもも誘う予定だったんだけど……。オルカは用事があったみたいだし、は連絡しても繋がらなかったし」 「あ……そっか、私バルムンクと一緒だったっけ」 思い返せば、あの時、携帯はマナーモード状態でカバンの中だった気がする。 「バルムンクと一緒だった?」 声色が微妙に変わったカイトに気付き、ふと横を向くと彼は眉根を寄せていた。 心持ち不機嫌さをかもし出す彼に、は事を説明する。 パソコンにメールが来ていた事。 そのままザ・ワールドに潜ってしまってそのまま話をしていた事などなど。 確かその時見たメールでは、ブラックローズから誘いは掛かっていなかったはずだ。 「カイトも他の皆も誘おうと思ったんだけど……接続してないみたいだったし」 「ふぅん……」 不機嫌な声。 も少々棘のある言い方で――でも、なるべく自然に言葉を吐く。 「カイトもブラックローズと2人っきりで、しかもリアルで会ってたんだもんね、おあいこ」 「……ごめん」 素直に謝るカイト。 は少し意地悪だったと己を顧みて俯いた。 「う……こっちこそゴメン。なんか――その、周りを余り考えてなかったというか」 「僕こそ、八つ当たりして……。なんか、うん。バルムンクとだけっていうのが……その、気になって」 「別に普通に話してただけだよ?」 「それでも」 「――うん」 言いたい事が分かるような気がして、は小さく微笑んだ。 カイトの手が、そっと彼女の頬に触れる。 「あけまして、おめでとう」 彼が言う。 も答える。 「今年も宜しくお願いします」 |
ブラウザbackでお戻りをー。