※時間軸無視っぽく、かつ、とらが似非くさかったりします。 それでも許容して下さる方はどうぞ。 内なる心のどこかに 。それが私の名前。 先日、この蒼月家に居候する身になった、なんの変哲もない高校1年生だ。 居候になったには、当然理由がある。 私の両親は、蒼月紫暮――この芙玄院の住職――に、よくよく世話になっていたらしい。 実質はよく知らない。 事故でその両親を亡くした後、紫暮さんに引き取られた。 親どころか、子供まで世話になっている今、申し訳ない気分で一杯だが、いつか恩返しできればと思う。 「はい、お茶です」 「すまんね」 紫暮さんにお茶を注いで渡し、自分の分も淹れた。 お昼前の、ちょっとだけのんびりした時間。 「高校は、来週からだったかね」 「そうです。必要な物は大方揃いましたから、少しのんびりできます」 「しかし……あんな部屋しかなくてすまんねえ」 「何言ってるんですか。しっかりした部屋ですよ?」 私が今、借り受けている部屋は、元々は倉庫――というか物置きだった。 間取りはそこそこあり、窓もついているし、掃除したら結構な部屋になった。 文句あんてあろうはずもない。 「そういえば、うしお君って、絵が好きなんですね」 掃除をしている時、幾つか額縁に入った絵が出てきた。 お世辞にも上手いとは言えないが、独創性ならピカイチだと思う。 「体力馬鹿の趣味にしては、方向性が違うがな」 言って、紫暮さんは後頭部をガリガリ掻いた。 私は苦笑する。 「でも、温かみがある絵ですよ。……面白いし」 うしお君は、今まで私の回りにいなかったタイプだ。 真っ直ぐで、芯がどっしりしてて、元気で。 ……そういえば。 「紫暮さん、あの『とら』って、うしお君に取り憑いてるんですよね」 「うむ」 蒼月家に来てから、私はうしお君と、彼に取り憑いているという、とらの関係をよくよく聞いた。 あの妙に懐かしい感じがする『とら』は、この蒼月家の蔵に、500年もの間、縫い付けられていたのだそうだ。 彼を縫い付けていたのは、『獣の槍』と呼ばれる、化生が恐れ戦く破魔の名槍。 そして、うしお君がその槍を引き抜いた。 それ以後、うしお君は獣の槍の使い手となり、そしてとらは、うしお君を食べようと、行動を共にしている――のだそうだ。 歴史の中では、とらは長飛丸と呼ばれ、雷と炎を操り、凶暴な性格の妖怪として恐れられていた、とある。 でも、私にはそう思えない。 本当に凶暴で残忍なら、抱きついた私なんて、もうこの世にいない気がするからだ。 思案顔になっていたらしい私に、紫暮さんはお茶をすすった。 「は、とら殿が気になるのかな?」 「気に……なります。分からないけど」 普通、とらは人の目に見えないのだと言う。 じゃあどうして私には見えたのだろう? 生まれてこのかた、幽霊なんて見たこともないし、感じたこともない。 霊感なんて、とんとありゃしないのに、どうしてとらだけ見えたのだろうか。 こうやって紫暮さんと話をしていても、どこかで彼を探している自分がいて、いかにも不思議な感じ。 これではまるで――。 「とら殿を恋しく思うておるのだな」 「……は!?」 思わず目を瞬くと、紫暮さんはニンマリ笑っていて。 「まあ、化け物と人間じゃあ、乗り越える物も多そうだがね。面白……いや、互いを思う気持ちがあれば」 今、面白そうとか言おうと思ってませんでした? 胡乱気な私の人身に、彼はコホンとひとつ咳払いをした。 「懐かしく思うのは、もしかしたら、の前世に関わりのあることかも知れぬよ。以前、とら殿とどこかで出会っていたのかも」 「前世ですか……」 当然、そんなもの覚えちゃいない。 思い出したからといって、何がどうなることでも、多分ないし。 「まあ、深く考えないようにします。うん」 2度3度頷き、私は冷えてきたお茶を一気飲みして、立ち上がった。 「ちょっと買い物してきますねー」 「おお。気をつけて」 私はいったん部屋に戻って、そのまま外に出てしまった。 だからその後、紫暮さんととらが私のことを話していたなんて、全く知らないのだった。 「それで、とら殿。に覚えは?」 「チッ……気付いてたのかよ」 紫暮に呼びかけられ、とらは舌打ちしてから姿を現した。 天井からずるりと出てきた金色の獣は、少々ばつの悪そうな顔をしている。 とらは縁側に腰を落ち着け、ふん、と鼻を鳴らした。 紫暮は自分で茶を淹れ、熱いそれを口にする。 「の方に、覚えはないと言うが……」 「さぁな。……まあ、どっかで見た顔だとは思うが。わしゃ、世辞にも人間から『会いてぇ』と思われる存在じゃあねえしなあ……」 曲りなりにも化け物だ。 人間は、食するものだとしか思っていなかった。 「しかし、はどうも、とら殿を好いておるようですしな」 「……………あぁ!?」 「いやあ、とら殿もすみに置けませんなあ」 けらけら笑う紫暮。逆にとらの機嫌は下降一直線。 「あんなオンナなんぞ知るか! ただちょっとウマそうだから、わしが喰らってやろうとは思っとるがな!」 言い放ち、とらはふわりと浮く。 その背中に、紫暮は声を張った。 「は、買い物に出かけたよ」 「………わしにゃ関係ねえな」 関係ないと言いつつ、暫くして帰ってきたを気にしているとらは、彼女の部屋に、にゅぃ、と現れた。 は驚きもせずにとらを見返る。 「とら、ただいま」 「……おう」 「あのね、お昼にハンバーガー買ってきたんだけど……たべる?」 「食う!」 は袋の中からハンバーガーを取り出すと、とらに渡す。 渡されたそれを器用に剥き、とらは大口を開いてかぶりつく。 「人間も美味いが、この『はんばっか』もなかなかなんだよなあ」 「とらって、ハンバーガーが好きなんだね」 「人間ほどじゃないがな」 ふぅんと頷き、もハンバーガーにかぶり付いた。 とらは、その様子を見ながら、指先についたケチャップをべろりと舐める。 は微笑み、息をついた。 「ねえとら。私の中に、すごく君を好きだっていう人がいるのかな」 「はぁ?」 「私に覚えはないのに、一緒にいると幸せな気持ちになるんだもん」 「……おい。わしはバケモンだぞ、妖怪なわけよ。幸せなキモチじゃなくて、恐怖するもんだろ、普通」 「そうなんだよねー。でも、なれないんだから仕方ないよ」 にっこり笑われると、とらは二の句が告げなくなる。 暫く無言でいたとらは、思案した後、大げさに溜息をついた。 「ったく……ワケが分からん」 それは、自分が彼女に持つ、不可思議な感情にもいえたものだと、とらは内心で思っていた。 ふぉぉ!似非。ちなみに、お題モノは行き当たりばったりです。 2007・1・7 |