18・止まった時間



 影時間というものの存在を知らなかった頃、時計が、テレビが、冷蔵庫が、全ての電化製品が勝手にパワーオフする現実は、実にホラーだった。
 それ以上にホラーだったのは、自分の両親が佇立した棺と化していることで。
 幼かったあたしは、父親と母親が、物言わぬ赤黒い箱になっていることに恐れ慄いた。
 だけど毎日続くそれに、ある日ぷっつりと恐怖が切れた。
 それ以来、あたしはただ『その時間』が過ぎるのを待つのみだった。
 精神に異常をきたしてもおかしくない状態だったのに、あたしは不思議とそれを自然のことのように受け入れていた。
 毎日続けば、いやでも慣れるということかも知れない。

 高校生になった今、あたしは片手に召喚機を持ち、仲間と一緒にシャドウと戦っている。
 止まってしまっている、普通の人は誰も知らない時間の中で、けれどもあたし達は確実に時間を紡いでいる。

、行こう」
「今日もよろしく、蒼夜」
 ポケットに手を入れたままの、濃紺の髪色をした彼。
 あたしはその横に立ち、歩く。
 彼と一緒に、戦うために。
 
 


33・相容れない存在(ファルロス)


「闇と光は真逆のものだって思われがちだけど、大差なんてない気がしない?」
 突然現れた少年は、あたしの目の前で訳の分からないことを言う。
 悲鳴を上げて、ベッドから飛びあがらないのも、少年が出す雰囲気が、あたしの知る人によく似ていたからかも知れない。
「大差がないって、どういう意味?」
 あたしは彼に問う。
 すると彼は可愛らしく笑った。
「光は闇に道筋を作るけど、闇だって光に道筋を作れる。光の溢れすぎた世界は、闇のそれと変わらないよ。だって、どちらも見えない。そう思わない?」
 結局何が言いたいのか分からないあたし。
 少年は微笑んだままだ。
「ボクと君――本当はたぶん、相容れない同士なんだろうね。君は光で、ボクは闇だろうから。でも、光の中に闇を作ることができるように、相容れないながらも理解はできるかも知れないよね」
「うん……そうだね」
「ボク、君と理解しあいたいよ。たとえ相容れなくてもね」
 にこりと微笑み、少年はあたしの視界からいなくなった。
 彼の正体が何なのか、どうしていきなり現れたのか気になったけど。
 答えは当然出てこなかった。




34・僕のすべて(ペルソナ3主人公)


 ほんの微か、指先が触れた。
 ただそれだけだったのに、忘れていたぜんぶを思い出したんだ。
 思い出すことすら忘れていたっていうのに。
 心に空いた穴は、君を忘れていたから出来てしまったもので、だから思い出したらあっさり塞がった。

 岳羽と一緒に僕の前を歩いている君は、思い出してくれたか分からないけど。
 少なくとも、僕は思い知った。

 僕にとって、君は僕のぜんぶなんだって。
 忘れることが無理なほど、僕に近しいんだって。





3主人公名固定ですみませぬ。