眠り落つる



 セグメント。アウラ。クビア。
 以前のように、アウラに呼び出された場所へ行き、クビアと戦い―――そして、勝利した。
 に最大の異変が起こったのは、ヘルバとリョースを協力させるという、不可能と思われていた事を成し遂げた直後だった。

「……ねえ、カイト……何か、変じゃない?」
「え、何が?」
 Δサーバ、ルートタウン、マク・アヌ。
 カイトの目には、何ら変わりなく映っている。
 一緒にいるバルムンクも、ブラックローズも、異常を訴えてはいない。
 小首をかしげ、カイトはの顔を見た。
「何が変なんだ?」
「風景がっていうより…何か…中身が出てきそうってゆーか…っ………!?」
「ど、どうしたの!?」
 急に。
 本当に、急に。
 の体が――光り出した。
 通り過ぎていくPCたちは、それに気づいていない。
 気づいているのは、当人と、カイトたちだけ。
 淡い光は、をそっくり包み込むと――はじけた。
「だっ…め…ぇ…!!!」
!!」
 自らの体を抱きしめながら、石床に膝をつく
 そして、その体から一層の光があふれ出したかと思うと――
「な…!!」
 の体から、三つの強い発光体が飛び出し、何処へかと消えてしまった。
「な、なに、なにっ!!」
 驚くブラックローズが、空を見上げた瞬間。
 の体が、ごとり、と床に倒れた。


 Δサーバ、隠されし 禁断の 聖域
 グラフィックのイスに、バルムンクはを寝かせた。
 カイトは、リアルでの彼女の状況を確認する為に一時的にログアウトしたので、今この場にはいない。
「…一体、どういう事なのよ…こんな…」
 これでは、まるで……意識不明者と同じではないか。
 オルカと、同じ――。
 バルムンクは苦虫を噛み潰したような表情になった。
 だが、相違点もある。
 オルカのPCの姿は、ザ・ワールド内に存在していない――と思われる。
 だが、はここにいる。
 これは、一体どういう事だろう?

「ただいま」
 息を切らして入ってきたのは、リーダーのカイト。
 ブラックローズが待ちかねていたとばかりに、声をかけた。
「どうだったの?」
「……どういう状況だったのかは、よくわからないんだけど……は普通に生活してたよ」
「ならいいじゃない」
「でも……違うんだ」
「だぁーかーらー、結局どう…」
 カイトは、首を横に振った。
「…リアルのは確かに普通に動いてるよ。でも……でも、いつものじゃない」
 カイトが見たのは、声を掛けてもほとんと反応せず、思考が何処かへ飛んで行ってしまっているような状態の彼女で。
 それなりに応答はする。
 するけれど、いつもの明るい彼女ではなくて。
「そんな……」
 どうして。
 は外部的な攻撃を何も受けていないはずなのに。
 どうしていいのか、分からない。
 バルムンクが、舌打ちをした。
 ……自分は――またも、無力なのだと。

 突然、が、呻いた。
 いや、明確な言葉になっていたのだから、呻き、ではないのだが。
 その声は、のものではなく――アウラの、もの。
「……は、クビアの力から、自分を保護する為に、三つに分かれた」
 質問しようとしたバルムンクよりも先に、の口が動く。
 どうやら、アウラは伝えるべき事だけを、彼女の口を介して伝えるつもりらしい。
「心と、意識と、体を、分けて、逃げた。逃げなければ、意識を完全に掌握されてしまったから」

「探して。カイト、探して。が本当の意味でいなくなってしまえば、データドレインを使えなくなってしまう。探して、カイト、探し………」

 ブツン。
 回線が切れたかのような音を立て、静寂が残った。

「…どういう意味なんだろう、データドレインを使えなくなる、って…」
 カイトの呟きに、バルムンクも答えた。
「彼女の存在が……何かを…押し止めているんだろうな」
 ブラックローズが、真剣みのある声で、言う。
「とにかく、早くなんとかしないと…が危険、よね」



かなり昔に書いたものなので、行き当たりばったり感が。あと2話でおしまいです。
2006・4・28
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