あの世界
悪夢に違いないような景色を映し続ける紋章。
けれど悪夢と違うところは、映し出されたそれは長い時を経た先に、確実にやってくる事象であるという事。
ルックはそれを止めるため、破壊者になった。
――もう終わった事ではあるのだけれど。
ルックの『五行の真の紋章を壊す』という目的は、炎の真の紋章を受け継いだ少年ヒューゴと、そして意図せぬ乱入者となった少女によって失敗した。
はソウルイーターの最も近しい眷属であり、常に繋がりを持つ『紫魂の紋章』を手に宿している。
そのため、ソウルイーターを持つ・マクドールとは運命共同体のような存在。
彼女が自分を死に場所から、半ば強引に救い出した。
それから、とある村で生活をしている。
目下の住人は、ルックと、そしてルックの部下のような存在だったセラという少女。
破壊者だったとは思えないぐらい、ルックは穏やかに過している。
かつて、解放軍、同盟軍で仲間に囲まれていた時のように。
はいつもより機嫌の悪そうなルックの表情に、少々首を傾げる。
まあ、たいてい機嫌が悪そうなんだけれども、今日は特に。
むすっとした彼に紅茶を渡す。
「どしたの? やな夢でも見た?」
「……別に」
別に、と言っているけれど表情はとてもそんな風に見えなくて。
一緒に過している時間がそれなりに長いからか、彼の、一見機嫌が悪そうなだけの顔にも、ちゃんと意味合いが含まれている事を知っている。
ルックの眉間を指で突付くと、ギロリと睨まれた。
「何のマネ?」
「……あのさ、例のイヤな夢――てか未来(仮)を見たんだよね。だからそんなに険しい顔してる」
「未来(仮)って……まあそうなんだけど。もうこれはしょうがない。僕が真の紋章を持ってる限りついて回るもんなんだから」
「そうだね。でもって、直下眷属を持つ私も、ちょぴっとだけど見えてしまうという」
「も見えてるのか!?」
今更ながら驚くルック。
直下眷属紋章。しかもソウルイーターの。
そんな強力なものを持っていて、見るなという方が無理がある気が。
「そういう訳で、アレを見た人間からの助言をしてあげよう」
「いらない」
「ひど!」
「それに、どうにかできるとは思わない」
まあ、直接的に何かができるわけじゃないのだけれど。
は小さく息を吐き、紅茶を口にすると――勝手に話し出す。
彼が聞いてくれればよし、流しているだけでもまあいいだろうという心積もり。
言いたい事を言うがのスタンスだ。
「あの世界ってさ、ルックにはどう映ってるか知らないんだけど……見れば見るほど、真の紋章を継承した者たちに対する挑戦みたいな感じがするんだよね」
「……」
「ほら、普通の人は生き残れないような環境に、一見は見えるでしょ? でも、いないとは限らない。そんで……真の紋章持ちを滅ぼそうとする真の敵がいてさ。それを倒すために、一時的にああいう世界にしてるってのはどうよ」
「……凄く無茶苦茶な事を言ってるね」
自覚はあるよ、とだけ付け加えて先を話す。
「でも、そういう風に考えてみると――見方が違わないかな。あれは滅ぼされた世界でも、人がいなくなってしまった世界でもない。真の紋章持ちが、世界を護るために見せられている世界だって」
無言で俯くルック。
は自分の考えをすっかり言うと、紅茶をゆっくり飲み始めた。
彼も同じように紅茶を飲み始める。
ルックがどう感じたかは分からないけれど、ほんの少しでもいい――あの世界への見方を変える事で、不機嫌な顔が緩んでくれればいいと思っていただけで。
「……」
「うん?」
「……何でもない」
ありがとう、と言おうとしてくれたんだろうなと勝手に思い、勝手に嬉しくなった。
事実がどうあれ、は多分、あの灰色の世界を自分なりの見方でしか見ない。
辛い結末なら曲げてしまえ。
簡単に言う彼女だからこそ、ルックもセラも、気負うことなく傍にいられる。
「……お茶もう一杯」
「ルック、自分で淹れようよ……少しは」
「面倒」
------------------------------------------------------------
唐突にルック熱急上昇(ほんとに何で)で、書いてみました。萌えは潜まってなかったらしい。相変わらずのんびりとやってゆきたいです。連載ネタとか考えてたんですけどもね…まあぼつぼつ頑張ってやります。やりたい事はやれがモットー。
2006・4・12
back
|