満ちよ果て無き祈り





 一度目は運命

 二度目は偶然

 では、三度目は?





「もう少し、かな……」
 ふぅ、とため息をつきながら、少女はルビークへの山道を、ひたすらに歩いていた。
 安易にルビークよりの道を選んだことを後悔しても遅い。
 カレリアから素直に、グラスランドへと行けばよかったものを、折角だから、と観光気分で立ち寄ることを決意したのは、なのだから。
 しかし、その事について咎めを受けるような旅仲間はおらず、彼女はたった一人、山道を頑張って歩いていく。
 もう少しで、目的の村が見えてくるはずだ。



 彼女の名は
 今では解放軍の英雄として知られる、・マクドールの友人にして、彼のもつ27の真の紋章、<ソウルイーター>に最も近い、天使が鎌を持つような形を有している、<紫魂の紋章>を使い、操る人物。
 ソウルイーターの力を意図せず受け取り、限りなく真の紋章に近い力の保持者である彼女は、それらを持つ者達と同じく、不老に大いなる力を持っていた。
 十五年前のデュナン統一戦争のその後、しばらくはグレッグミンスターとデュナンを行ったり来たりしていたのだが、とある事がきっかけで、彼女は旅に出る。
 そのきっかけとは、レックナートの言葉だった。

 は時折……といっても、結構な頻度ではあったが、レックナートと彼女の弟子身分であるルックの元を、よく訪れていた。
 友人であるは、旅からまれにしか帰らない上、ほぼ消息不明状態で、生きているという事しか分からない。
 それだけでも十分といえば十分だったのだが、やはり一人なのは寂しいし、不安定な紋章を保つ為にも、はレックナートとルックの傍にいる事が多かった。
 入りびたりだったのだけれど……。
 ある日を境にして、ルックの姿が余り見えなくなった。
 たまに会っても、いつも以上によそよそしく、素っ気無い。
 そんな日が続き……ルックは、その存在を魔術師の塔から、完全に消した。
「…レックナート様…ルック、どこ行っちゃったんですか…?」
 今日こそルックに会うんだ、と意気込んで来たものの、結局は彼に会えず、しょんぼりした様子でレックナートと話をしている。
 もう大分長いこと、彼に会っていない。
 レックナートは、静かな声色で彼女に話し掛けた。
、正確な場所は判りませんが……グラスランド、ハルモニア……。あの子がその地に関わろうとしているのは、確実です」
 はルックが、どうしてそこに関わろうとしていとしているのかを聞こうとして…やめる。
 それは、本人に聞くべきだと思ったから。
 常に人と一線……いや、二、三線置いている彼だったが、に対しては、そんなに多くの線を引いていないように見受けられた。
 だからこそ、彼が何も言わずに姿を消したのに、訳があるように思えてならない。
 ……訳もなく、魔術師の塔からいなくなるとは思えないし。
「……レックナート様、私、グラスランドへ行きます。ルックを探して、一言文句言ってやるんだから」
 むんっ、と意気込むに、レックナートは意味あり気な…愁いを帯びた笑顔を向けた。
「もし…貴方がどうしようもないと思ったその時は…」
 どうぞ、私と過去の天魁星に助けを求めてください。
 そう言われて、首を傾げながらも頷いた。
「お行きなさい、。貴方に星の加護がありますように…」



「……ハルモニア通って探してきたのに…見つかんないし」
 ハルモニア全土を捜し歩くなんて事は出来やしないが、紋章の力でうっすらと気配なら追う事が出来る。
 よく似た気配はあったが、ルックではなく、神官のササライという人だったし。
 まあ、その人に会ったおかげで、ハルモニアの国境をスンナリと通らせてもらえたからいいのだけど。
「ルビークに手がかりとかあれば……いいな」
 てほてほ歩きながら、残り少ない水を飲む。
 とにかく、ルビークで物資を補給しなければ、その辺で行き倒れそう。
 やっとのことで、村の入り口付近に辿り着いたが見たものは……でっかい虫に、男性が乗っている図。
 いきなり槍を構えられた辺り、手洗い歓迎セレモニーでも始めるつもりだろうか。
「そこの女、悪いが不審者を通すなとの命令だ。引き取ってもらおう」
「じ、冗談じゃないわよ!水も殆どないっていうのに!」
「命令でな」
「野垂れ死にしろっていうの!?」
 これ以上文句をいうなら、実力行使だと言わんばかりに槍を突きつける男に、真剣に頭に来た。
 流石に裏紋章を使う気はないが、棍棒に手を伸ばしたくなってしまう。
 ちなみに、の武器は普段は二つに折りたたまれて収納されている。
 それはともかくとして、状況は悪くなりはすれど、良くはならないように思えた。
「…何事です」
「あっ…これは、神官将さまの……いえ、こちらの娘が…」
 は、男の後ろにいる女性を見た。
 ……ハルモニアの人だろうか。なんとなく、服装に特徴があるし。
 受ける印象からは、大人しそうな感じがする。
 でも、虫使いの男の人よりは格が上らしい。
「…入れてあげてください。ただの旅人でしょう」
「はっ…娘、通っていいぞ」
「…そりゃ、どうもありがとうございます」
 男の人に苦笑いをこぼし、その向こうにいる女性の前に立つと、お辞儀をした。
「ありがとう!助かった。水もなくなりかけてて、どうしようかと…」
「いえ…それでは」
「あ、ちょと待って!」
 さっさと歩いていこうとする彼女の手を、思い切りつかむ。
 怪訝そうな表情の彼女に、は「別に危害加えないって」と言うしかなかった。
「貴方の名前は?」
「………セラ」
「そっか、私は。えと、宿屋と学術指南所、どこか教えてくれる?」
 セラは、とりあえず彼女に施設の場所を教えてやった。
 うれしそうに、「ありがとう」と言われると、不思議に心の中が温かくなる気がして。
 …彼女の笑顔が、暖かいのだろうか。
「ですが、学術指南所は今…私達の仮施設になっていて、一般人は使うことが出来ないですが」
「あ、そうなの…? がっくり…」
 裏の紋章を連発する訳にはいかない。
 持っている他二つ…水と雷の紋章は、不安な点も多かったので、どうせならここでついでに勉強していこうかと思ったのに。
 …なんだか、随分と間が悪い。
 グラスランドも、デュナンに負けず劣らず内情が複雑だとは聞いていたが、その他にも色々あるのだろう。
 ここに来るまでにも、内戦の話とかは耳にしたし。
 どうも行く先々、自分の周りには戦乱がある。
 108宿星には入っていないのに、何か縁でもあるんだろうか。
「…しょうがないね、とりあえず、宿屋行ってみる」
 なんだかんだと、途中までついてきてくれる事になったセラ。
 ゆっくり歩いて、少し話をする。
 といっても、主に喋っているのはで、セラは聞き役。
 セラには、自分達が何をしているか喋れない理由があるので、いたしかたないのだが。
 無音が辛くて、が気を使って喋ってる感じ。
 長く付き合う訳でもないのだけれど、一人旅っていうのはそういうものだと思う。
 色々な人と、短い時間付き合う。そういうのも、楽しいかもしれないと。
「もう少し先に行くと、宿です」
「そっか、つき合わせちゃって、ごめんなさい」
「おっと!」
 お辞儀をした瞬間、に歩いてきた男の人がぶつかった。
 なんだか、とっても、ガラが悪そう。失礼ながら。
 ごめんなさいと謝ってみたものの、なんだかご機嫌ナナメらしい。
 思い切り腕をつかまれた。
「いっ……謝ってるじゃないのよー!」
「俺は今機嫌悪いんだよ。運が悪かったな」
 ルビークの住人ではないみたいだ。多分カレリアから来た人だろう。
 ……最近運周りが悪いのか、自分。
「セラさん、ごめんね、巻き込むのもなんだし、うん、ここでお別れ」
「ですが…」
「余裕だな」
 ギリギリと腕をつかまれ、締め上げられる。痛みに涙が浮いてきた。
 紋章を使ったりするのは簡単だが、それではこの人が大怪我してしまうし、棍棒を使おうにも利き腕がつかまれているから、うまくいくかどうか…。
 そんなことを考えていると、突然後ろから声が降ってきた。
「その手を離せ」
「うわっ!し、神官将様!?す、すみません!」
「??」
 疑問符を飛ばしているうちに、男はの後ろの人物に驚いて、逃げていってしまった。
 そんなに恐ろしい人物なんだろうかと、恐る恐る後ろを向いてみると……。
「…………」
「………」
 驚いた。
 助けてくれたのは、仮面をつけた男の人。
 知らない人のはずなのに、なんだか違和感があって。
 動かない二人に、セラが声をかけた。
「…さん、どうしたんですか?」
「え、あ、うん…あの、助けてくれて、ありがとう…」
「……いや。行くぞ、セラ」
「はい」
 仮面の男がセラと共に、彼女の横を通り過ぎようとした瞬間……。
さん?何を……」
 は、その人の手を掴んでいた。
 裏の紋章が、不思議な共鳴を起こしている。
 このまま行かせてはいけないと。
 そして、この人物が誰なのか、に気づかせた。
「……ルック……?」
「…人違いだ」
 硬質な声。
 けれど、やはりそれは、彼のもの。
 どんなに違うと言われても、気づかないはずはない。
 一緒にいたんだから。
 大事だと思える人なんだから。
 否定されようが、の感覚は否定を認めない。
「じゃあ、その仮面、取ってみて」
「………」
「違うなら、取れるでしょう?」
「っ!?セラ、やめろ!!」
「え……?」
 仮面の人が後ろを見て叫んだ瞬間、紋章の攻撃を食らっていた。
 完全に無防備だった彼女は、防御する事もなく、思い切りそれを食らってしまい、地面に倒れこむ。
 何が起こったのか、しっかりと認識する前に、意識は暗い海へと沈んでいった。



 一度目は運命

 二度目は偶然

 そして、三度目は

 悲劇か願望か、それとも切なる祈りか




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ラスト意味不明ちっく…。ルックールックーと言うことで。
もう感情の赴くまま、書き連ねます、はい。
無茶苦茶な進みですけど、お許しを…。
しかも、ネタバレだし…いちいち。仕方ないですけどもね…ルックネタだと。
2002・7・23
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