舞姫 1



 が騎士見習いという立場になってから、三日間が過ぎた。
 彼女に与えられた仕事は、ルイスの補佐的なもの。
 要するに、彼女はクリス直下に配置されていた。
 本当はサロメの下で働く予定だったのだが、
 外交上の問題を扱ったりする事が多い場所に、他国の自分は入るべきではないと、彼女自身が辞退して今に至る。
「ルイス…はどうした?」
 クリスの部屋で片付けをしていたルイスに、彼女が話し掛ける。
 彼は手を休め、クリスのほうを向いた。
「はい、今ボルス卿の所に、訓練所の武具使用具合を確かめに…」
「…そう、頑張ってくれているのね」
「そうですね!」
 ルイスは、まるで自分が褒められたかのように、嬉しそうな声を出した。



 実際、は非常によく働いていた。
 一度教えられた事は、ほぼ忘れない。物事は出来る限り、ソツなくこなす。
 戦わせれば、前線で戦う騎士と同じくらい強い。
 そんな事もあり、ブラス城に彼女の話が回るのは、存外早かった。
「…では、クリス様――あー、いえ、サロメ殿に報告してきます」
 一礼し、去っていくを見ながら、ボルスはうーんと唸る。
「……本当に十代か?」


「…以上で報告は終りです。次は、何をしましょうか」
 武具の報告を終えたは、すぐさま次の仕事を求めた。
 サロメは、とりあえずクリスに指示を仰ぐように告げると、彼女は一礼し、クリスの部屋へと向かった。

 部屋には、クリスと補佐であるルイスがおり、二人ともあくせくと、山のような書類をこなしていた。
 騎士というと、戦うイメージがあったのだが、実際はそうでないらしい事が、ここ数日で分かった事だった。
 無論、トランの騎士たちとは、いろいろな所で違いがあろうが。



 部屋の中はいつも丁寧に片付けられており、それがルイスの仕事の結果である事は、クリスに近しく関わる人物であれば、よく知られている。
 クリスが部屋を汚すという事も、滅多にないのだが。

 二度ほどノックをし、扉を開ける。
「失礼いたします」
「ああ、。丁度よかった…」
「はい?」
 いきなり 『よかった』 と言われても、何がよかったのかさっぱりだ。
 は一礼し、クリスの執務机の前に立つと、
 座っている彼女に目を向けた。
 美しい銀髪。銀の乙女とは、よく言ったものだと思う。
 クリスはイスから立ち上がると、ルイスに書類を持たせて整理を頼み、ソファの方にを座るよう促し、自分も腰を落とした。
 不思議に思いながら、ソファに座る。

「あの…クリス様、なにが 『よかった』 なんですか?」
「うん…実はね、ちょっとした頼みごとが…」
「? できる事であれば、やらせて頂きますが」
 クリスはうーんと唸りながら、頭を掻いた。
 様子から、発言に気乗りがしていない事が伺える。
 彼女は何度かため息をついた後、やっとの事で 『頼み』 を話し始めた。

「ちょっと困った事になってね。ビネ・デル・ゼクセからの使者がくる事になって。この時期、この城には多くの旅人が現れるし、楽団や旅芸座もやってくる」
 ふーっとため息をつき、話を続ける。
「ビネ・デル・ゼクセの重役が、この時期、視察を兼ねてここにくる。楽団と旅芸座の享楽目当てが一番なんだけど…一つ問題があって」
「問題?」
 鸚鵡返しに問うに、クリスは苦笑いしながら告げた。
「今年は、踊り手がいないの」
「………踊り手?」
 さっきから、鸚鵡返しばかりだと思いながらも、疑問を返す。
 ルイスが、説明に加わってきた。
「旅芸座の踊り手が、どうも負傷しているらしくて…でも、舞いを楽しみにしてる重役に、『今年は中止です』 とは言えないんです」
「なるほどぉ…え、ちょっと待ってください? それと私が、どう関係してるんですか」
 クリスとルイスが顔を見合わせ、ニッコリ微笑んだ。
「でね、に、踊ってもらおうと思って」

「………ええええーーーー!!?」



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す、すんません。超絶短い…。次へ続きます(滝汗)
2003・3・26
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