合流



 目の前にある大きな建物は、噂によるとシンダルに関係がある建造物らしい。
 そんな事はどうでもいいのだが、この建物には別の目的がある。
 正確には、この建物の内部にいるであろう人物に――だけれど。
 吊り橋を行き、門番に話し掛ける。
「すみません。ここに、ビッキーって子はいます?」


「あっ、ちゃん! 久しぶりだね!」
 ビッキーはやって来た10代後半ほどの、黒髪の少女に笑顔を向けた。
 少女――も彼女に笑み返す。
「久しぶり。できれば、闘いとは無縁の場所で再会したかったけど、やっぱりそうもいかなかったね」
「それより、どうしたのー?」
「私を元の時代に戻す事とか……できる?」
 ビッキーは首をかしげ、にこりと微笑むと
「ごめんねえ、私には方法が分からないなあ」
「やっぱりだめかあ」
 はため息をついた。


 は本来、この時代よりもう少し先の時間の人間である。 
 赤月帝国がトラン共和国と名を変え、都市同盟がデュナン国と名を変えた姿を見てきた人物。
 だが、今がいる場所は、赤月帝国が崩壊する前の時を刻んでいる。
 テッドという大事な人の元へ行きたいと願い、何をどうしたのか過去に逆行してしまったは、自分が生まれ育った時代から100年以上前の時代から今まで、ずっと生き続けている。
 レックナートの言では、『時が満ちれば、いずれは戻ります』だそうだが、がオベル王国での戦いに協力し、終結して100年以上経っても、その『時』とやらは未だ来ず。
 もう、今いる時代には自分は生まれているはずなのに、それでも戻れない。
 いつになったら戻れるのか。
 前の戦争後、ビッキーに元の時代へテレポートできないかと問う前に、彼女は祝賀会場で例のごとく「くしゅん!」と一発くしゃみを発し、その場から立ち消えた。
 今こうして出会って聞いてみたが、やはり彼女に自分を元の場所に戻す事は出来ないと言われてしまったし。
 深く深くため息をつくに、ビッキーが問う。
「ねえねえ、テッドくんはどうしたの?」
「テッドはね、赤月帝国に行くっていうから別行動」
 それまではずっと一緒に行動をしていたが、さすがに赤月にはは行けない。
 下手をすれば、自分自身と鉢合わせしてしまう。
 記憶の中で自分はもう1人の自分と出会ったりしていないのだし、会わない方がいいだろう。
「ふぅーん。それよりちゃん、これからどうするの? 今、ここは凄く大変だから、手伝ってあげられれば、そうして欲しいなあ」
 は周囲を見回す。
 一般人もさることながら、戦いに関連している人たちが多く見受けられる。
「……ファレナ女王国も、大変みたいだね」
 来る間に色々な話を耳にしてはいたし、ここがファレナの王子の本拠地である事も知っている。
 ファレナの貴族であるゴドウィン家が、現女王(まだ戴冠式前だそうだが)リムスレーアの名を盾に、女王の兄であるを討伐しようとしているとか。
 噂で色々な憶測を耳にしているが、実際はどうか分からないが、ただ1つ確実な事がある。
 ビッキーがここにいるなら間違いない。
 これは、宿星に関わりのある戦いだ。
「ねえちゃん、王子を助けてあげてよ。すっごく大変そうなんだよ? ね、ね。ちゃんの『紫魂の紋章』はとっても強いんだし」
「……でもなあ」
 今は姿を消している紋章を見つめる。
 紫魂の紋章。
 生と死を司る真の紋章に愛されし、直下眷属。
 オベルでの闘いでも、それなりに使用してはきたが、おいそれと使えるようなものでもなし、第一、
「仲間になるにせよ、その王子さんに会わないと」
 事情も話しておかないと――なんて思っていると、背後から声がかかった。
「僕なら大歓迎だよ」
「うわ! びっくりした……」
 飛びのいて、声をかけてきた人を見る。
 綺麗な銀髪に、赤色を基調とした服。
 腰に着けているのは三節棍のようだ。
「初めまして、僕は
 手を差し出され、握り返した。
 奇妙な感じがして手を見やり――そうしてから彼に挨拶する。
「初めまして、です。……あなた、紋章継承者?」
 は驚いたように目を瞬く。ビッキーが後ろで笑った。
ちゃんはね、真の紋章の――」
「ストップ、それは私が後で言うから」
 彼は苦笑し、そうしてからの問いに頷いた。
「真の紋章とは違うようだけど、強い力を持った紋章を宿してはいるよ」
「うん、そっか。……ええと、王子、私もあなたの軍に協力させてください」
「勿論」
 査定などもなく、案外あっさりとの軍に受け入れられた。

「……とにかく、戦いの間にレックナートが関わってくるはずだし、その時に意地でもどうなってるのか聞きださなくちゃ」


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いきなり普通に短編話でもよかったんですが、とりあえず基本儀礼として本拠地編。あれこれ調整取りつつ、また更新したいです。
2006・4・14