君といられる日々




 太陽は輝き、風が流れる。

 グレミオは昼食を作りながら、窓から見える景色に幸せを思った。
 ぐつぐつと煮えるスープは、かぐわしい香りを立ち上らせ、付け合せのサラダは、既に完成しており、盆に乗っている。
 全員分のオムライスを作り終える頃には、も帰ってくるだろう。

「…また、ボロボロになってなきゃいいんですけど…」

 外を見ながら、グレミオはぽつりと呟いた。




! 左ががら空きだぞ」
 人間、苦手な方向から来た攻撃には、瞬時に反応できない場合があったりする。
 今回のの攻撃は、にとっては苦手な部位へのものだった。
 ある程度加減しているとはいえ、子供にとっては容赦のない攻撃に、彼女の体は軽く跳んだ。
 土埃をたて、の体がころころっと転がる。
 それに鞭を打つように、母親であるの紋章術がヒットした。
 に炎が、纏う様に絡んでいく。
、焼け死ぬわよ!」
 とはいえ、コレも勿論加減しているが、ヤケドする程度の魔力を乗せている。
「っ……風の紋章よ……切り裂きぃ!!」
 の声と共に、紋章が輝き、炎を風が切り裂いていく。
 すっかり炎を吹き飛ばしてしまうと、彼女はぺたん、と地べたに座り込んだ。
 服はボロボロ、髪の毛はぐしゃぐしゃ。
 スパルタ教育の割に、彼女は泣きもしなければ、嘆きもしなかった。

 が顔を見合わせ、うん、と頷きあう。
、お昼食べに帰ろうか」
 その言葉に、ぱっと顔が明るくなる。
 先ほどまで座り込んでいたにも関わらず、今では疲労のひの字も見せぬほど、元気よく飛び跳ね、両親に抱きつく姿が、そこにあった。



 帰って悲鳴を上げたのは、グレミオだった。
「まぁた服をボロボロに…! 嬢ちゃん、お風呂に先に入ってくださいね!」
「はぁい…」
お腹をクルルと鳴らしながらも、グレミオの言い付け通りにお風呂場へと向かう。
は、苦笑いしながらグレミオを見た。
「…まったく、お二人とも、ちょっとスパルタですよ。まだ五歳なんですからね。本当は棒術だけだって一杯なのに…」
「……まあまあ、坊ちゃんだって、ちゃんだって色々考えてるんだから」
 クレオのそんな言葉に、深いため息をつき、グレミオは料理の盛り付けに戻っていった。
 しっかり、二人にも、ご飯の後には汗を流すように言いつけて。
 父母になった今でも、グレミオにはしばしば、子供扱いされる。
 ……毎日かもしれない。


 がお風呂に入っている間、は自室に戻っていた。
 イスに座り、フゥ、とため息をつく。
 二人とも、いつになく真剣な顔だ。
「……ねえ、。私達、いつまであの子の側にいられるかなぁ」
「…今しばらくは、まだ、大丈夫だろうね。小さいし」
「それまでに全部覚えてくれるかな、私たちの教えた事。教えられる事」
「大丈夫、は賢いから」
 クスクス笑いながら、の頬を優しく撫でる。
 その手には、不老の証、ソウルイーターが存在を主張している。
 の手にも、その直下眷属がある。
 彼らは、不老。
 いつかは、娘が自分たちの姿を越え、そして、死ぬ日が来る。
 その日が、無性に怖いのは、言うまでもない。
 二人は寄り添いあい、そっと口唇を重ねた。
「…いつかは、を置いて、皆を置いて出て行かなくちゃいけない僕らだけど、それまでにやれる事は、やろう」
「そうだよね。出来る事、まだ、たくさんある」
 そっと瞳を閉じる。
 それと同時に、とたとたと可愛らしい足音が聞こえてきたかと思うと、ぱたん、と扉が開く。
 扉の前には、髪がまだ濡れたがいた。
「お父さんお母さん、グレミオがご飯できてるって!」
「ああ、今行くよ」
 言いながらも、とくっついているを見て、はにっこり微笑み、きゃーと声を上げながら、抱きついてきた。
「わっ、!」
「お父さんとお母さん、仲よくて、いいな!」
「そう?」
「うん、そう!」
 嬉しそうに言う我が子に、二人の顔が緩む。
 は立ち上がり、タオルを取り出して、の濡れた髪を優しく拭いてやる。
 は娘のほっぺたを撫でたり、突付いたりしてクスクス笑顔を零す。
「こら、暴れないの〜」
「だって、お父さんが」
〜、髪の毛拭けないでしょー」
のほっぺ、ぷにぷにしてて面白いんだよ」
 あははと笑い、はくすぐったそうに、身をすくめる。
 苦笑いしながら、は髪を拭いていく。

 幸せな日々。
 いつまでも、続いて欲しい日々。
 いつかは終わりを告げてしまうけど、その日まで。

 この日の笑顔は、ずっと、いつまでも、本物だから。

「三人とも〜! ご飯冷めちゃいますよ〜!」
 グレミオが呼びに来るまで、親子三人は、じゃれあっていたとか何とか。



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坊ちゃんです。親子話だったりもします。ほのぼの?
2003・12・7
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