拡変世界 13 「……飛行機ごと岩山にぶつかって、無事なんだね、あの人」 ドラゴンボールを探して、飛行機の残骸をひっくり返している悟空の背中を見ながら、は思わずそう呟いた。 筋斗雲でブルー将軍を追走していた折、彼の乗った飛行機の背後に回った悟空たちはロケットエンジンの勢いで空中に放り出された。 しかしスピードを出しすぎていたブルーは、そのまま岩山に激突。 普通なら死んでもおかしくない。 だが、落ちた先からたちがその場に着いた時、彼の姿はそこにはなかった。 つまりどこかへ逃げてしまったのだった。は息をついて腕を組む。 「うーん、ドラゴンボールもないね。探さなくちゃ」 「あいつどこ行きやがったんだ」 周囲を見回すと、背後の道から凄い足音が聞こえてきた。 と同時に、「おーい」と呼ぶ声も。 声の主を探して見れば、先ほど、一度筋斗雲から落ちた際に出あった少女と、空中を飛ぶ2人の子供が猛スピードで駆けてきていた。 「あいつらって……さっき会った奴らだよな?」 「う、うん」 その通りだったので頷く。 紫色の髪の少女はなにが面白いのか満面の笑み。明るい性格なのだろうと思わせるには充分。 空中を飛ぶ子供の方は、背中に羽が生えていて人間かと言われると首を傾げてしまうけれど、笑顔でいるのは一緒だ。 ――それにしても。 「ね、ねえ、あなた走ってきたの?」 「うん!!」 軽やかな返答に、悟空もも驚愕する。 自分たちは凄いスピードで飛ぶ筋斗雲に乗っていたのに、それと同じぐらいの速度で彼女は走っていたと? 信じられないが、今こうして目の前にいるのだから事実なのだろう。 「お前、どこで修行したんだ!?」 悟空が聞くが、彼女は修行というものがさっぱり分からない風で。 修行もしないで、あんなに凄い走りを見せる人がいるんだ……。 世の中広いと、は妙に感心してしまった。 「ねえっねえっ、ここでなにして遊んでるの?」 「遊んでるんじゃねえよ。オラ、悪い奴を探してんだ」 彼は息を吸い、大声で筋斗雲を呼ぶ。 上空をぐるぐる回ってブルーを探していた悟空は、結局見つからずにの元へと降りてきた。 「だめだ、見つからねえ」 「そういえばあの人、ドラゴンボール持ってるよね。だったらレーダーで確認できるよ!」 「そ、そっか! 3つ映ってるとこが、あいつのいるとこだな!」 は頷き、腰に付けている小さなバッグからレーダーを取り出す。 ヘッドのスイッチを押して反応を見る――見ようとしたが。 「……嘘、どうしよう、なんで?」 何度も押すが、いっかな動かず。 一度直してもらってから、そんなに酷い扱いはしていないはずだ。 いや……確かに、海賊の洞窟で多少無茶したかも知れないが。 ――ぶつけたりとかしてない、と思うんだけど。 「ごめん悟空……また私」 「謝るなって。おめえのせいじゃねえ。……しかし弱ったなあ」 なにも映らない画面を見、悟空は後頭部を掻く。 きょろきょろ周りを確認し、それから近場にいるあの凄まじく早く走るらしい少女を見た。 「なあ、ここどこだ?」 「ペンギン村だよ」 と悟空は顔を見合わせる。 ペンギン村? 聞いたことがない。 亀仙人との修行の折、こちらの世界に疎いは勉強してそれなりに地図を覚えていたが、ペンギン村は知らなかった。 「あの、あの、亀仙人という人、知ってる? 武天老師でもいいよ」 は少女に問う。 もし知っているのなら、おおよそでもカメハウスの場所を知っているのでは、と思ったのだ。 しかし彼女は首を振り 「知らないよ」 にべもなく言う。 がっくり来る。 「ねえねえ、それ壊れちったの?」 ドラゴンレーダーを示して少女が言う。頷くに少女はにぱっと笑った。 「はかせだったら直せるよ!」 「ほんとか!? その人んち教えてくれっ!」 「へへへ〜、あたしもそれに乗せてちょ!」 彼女は悟空の横に浮いている筋斗雲を示した。 「悟空、彼女も乗せて移動しようよ。そっちのがたぶん早いし」 「そうだな。でも……乗れるかなあ?」 まずは悟空が乗り、次いでが乗る。 それから少女がの手を借りて乗り、2人の空飛ぶ子供も筋斗雲へ。 「あ、おまえたちよい子だな!」 わくわくしているらしい少女。 そういえば名前を聞いていなかったと、は後ろを向いて訊く。 「私は。こっちは孫悟空。あなたたちの名前は?」 「あたし、アラレ! そんでもってね、こっちはガッちゃん」 「2人ともガッちゃんなの?」 「うん」 「、行くぞ!」 悟空が言うが早いか、筋斗雲は猛スピードで上空に浮き上がる。 「なあ、はかせって人はどこにいんだ?」 「うんとねえ、あそこの家だよ!」 広い敷地(というより、たぶんご近所が遠いだけかも知れないが)にある1軒を示すアラレ。他の家から比べると、結構大きめの家に見える。 「よーし、じゃあ行くぞ! 落っこちるなよ!」 微か、後に引っ張られるような感覚がし、周囲の景色が一気に後ろに通り過ぎていく。 はもう慣れたものだが、後の2人はどうだろう? 後ろを見ると、彼女たちは全員喜んでいて楽しそうだ。 悟空はアラレたちを楽しませようと思ってか、空中回転を幾度か繰り返し、筋斗雲をトップスピードに乗せてから目的地へと接近した。 家の前に筋斗雲を止めて降りる。 「気持ちよかっただろー!」 「うんっ!」 アラレもガッちゃんも満足顔で、ぷぅ、と息を吐いた。 なにやら視線を感じたは、見られているであろう方向を見た。 家の敷地内、飛行機の側に、金髪の綺麗な女の人と、帽子を被ったちょっとお腹の出ている、けれど人の良さそうな男性がある。 よくよく見ると、ガッちゃんの如く宙に浮いている可愛らしい赤ん坊もいた。 ……どうやって飛んでるんだろう。 は悟空の裾を引く。 「ねえ、あの人が博士かな」 聞く横からアラレがひょいとそちらを見て頷いた。 とにかくレーダーを直してもらわなければ。 悟空とは連れ立って歩き、不思議そうにしている男性と女性、赤ん坊の前に立つ。 はお辞儀をし、悟空はレーダーを持って女性に向かう。 「オッス……じゃなくって、こんにちは!」 「はい、こんにちは」 柔らかい声。優しそうな人だ。 レーダーを差し出そうとする悟空。 「ちがうよ、はかせはこっちだよ?」 「え?」 アラレに指摘され、女性の横に立っていた男性を見た。 彼は目を瞬き、ごほんと咳払いをする。 悟空やはブルマのイメージがあるため、つい女性の方に目が行ってしまっていた。先入観とは凄いものだ。 「あのね、これを直して欲しいんだって」 アラレが悟空の持っていたレーダーを示しながら言う。 男性――則巻千兵衛――はそれを受け取りながら首を傾げた。 「なんだこれは?」 「ドラゴンレーダーだ!」 「悟空、説明になってないってば」 博士にどういう物かと問われ、ドラゴンボールがどこにあるか分かるようになっている物と答えるが、それも説明になっているような、いないような。 なにも知らない人には、全くもって不親切な説明である。 宙に浮く赤ん坊は、なにに対してか1つ頷いた。 「特殊な周波をキャッチするためのレーダーみたいでしゅね」 赤ん坊が難しい言葉を話した、というより、あんなに小さい子がベラベラ普通に喋っていることに驚く。 博士は頷き、レーダーの内部を見ることにしたようだった。 飛行機の作業用にと出してたらしいテーブルの上で、手際よくネジを外す。 蓋を開けて内部を見た博士は、驚愕の声を上げた。 「なっ……なんじゃこりゃ! 物凄く高度なメカじゃないか……。こ、これを作ったのは、一体どういう人なのだ……?」 「ブルマっていう女だ」 女、という単語に博士はショックを受けたのか、背後に『ガーン』という文字が入りそうな顔をしていた。 2015・6・13 |