拡変世界 12 なんとか崩れる洞窟から脱出した一行は、手近な島にいったん移動した。 戦利品は、ドラゴンボール(探していた四星球ではなかったけども)と、ブルマがこっそり持ち帰ってきていた、数百億ゼニー相当の特大ダイヤ。 「残念だったね、悟空」 「しょうがねえさ」 息をつく悟空に、ブルマが呆れたような声を上げる。 「四星球が見つかるまで、ボール探しする気?」 「あったりまえだ」 命知らずがいるわ、とブルマは溜息をついた。 「ところで、あんたこれからどうするの」 濡れた服が気持ち悪くて、裾をぱたぱた動かしていたは、ブルマの問いに首を傾げる。 「どうって……?」 「だから、今後も孫くんに付いて行くのかって意味で聞いたのよ」 「そのつもりだけど」 ブルマは大仰に肩をすくめる。 「止めときなさいよ。レッドリボンに狙われてるのよ? 危ないわよ」 「オラが守るからでえじょぶだって」 筋斗雲の上で笑う悟空だが、ブルマの方は険しい顔だ。 「あんたが守りきれない状態になったら、一体どうするのよ」 「そうならねえように、強くなるさ」 「……、考え直しなさいよ。うちにいなさい、ね?」 ブルマは今回の件で、いかに悟空が危険な旅をしているかを知った。 世界最凶と名高いレッドリボン軍。 彼らから付け狙われていては、いついかなる時、死の淵を覗くか分かりはしない。 そう思うからこそ、ブルマはを自分の家に留めて置きたかった。 妹のように思えばこそ、危険に巻き込まれて欲しくはなかった。 けれど、は微笑み首を振る。 「私ね、悟空と一緒に強くなりたいの。だから、がんばる」 決して、ブルマの気持ちを軽んじているわけではない。 それでも悟空と一緒にいられるのなら、それは譲れないことだった。 「……ったく、しょうがないわね。孫くんと結婚の約束までした甘々ぶりだもの、仕方ないか」 「けっ……結婚は……かんけいないよ……」 その2単語に恥ずかしくなって、は筋斗雲を見つめる。 クリリンはひとり、悟空を羨ましがっていた。 「とにかく帰りましょう。幸い、レッドリボンの飛行機があるし」 無事にカメハウスに戻ったは、悟空の手を借りて筋斗雲から降りた。 ブルマは例の特大ダイヤを亀仙人に渡した。 洞窟の中で壊してしまった(崩壊したんだから、きっと壊れたはずだ)の代わりにしてくれとういうことらしい。 仙人は、毎日ストリップを見ても、何年かかって使いきれるかわからない、なんて言っていて。 「なあ、すとりっぷってなんだ?」 「なんだろう。うんと……たぶん、仙人様が喜ぶようなものだと思う」 「じゃあえっちなことか」 ずばり言う悟空。 実際はどうか知らないが、仙人様だからそうかも知れないと、は思う。 「おいてめえら、死にたくなかったら動くんじゃねえぞ」 「あっ」 横合いからの発言に、は思わず声をあげる。 いつもは紺色の髪のランチが、金髪になっていた。 クシャミをすると、性格がその都度豹変する彼女。 基本的にには優しくはあるけれど、お金が絡んでいる今、完全に悪人モードに変わってしまっていた。 ランチはダイヤを奪い取ると、レッドリボンの飛行機に乗って、さっさと島から飛んで行ってしまった。 「お、追いかけなさいよ!」 「だいじょぶだよブルマ。クシャミしたら、きっと戻ってくるから」 「……は?」 「あのね、ランチさんはクシャミして、善人と悪人が入れ替わるの」 「…………変な人ね」 それは同意します。 「よし、次のドラゴンボール探しに行こうぜ!」 「うん」 悟空はの手を掴み、それから気付いたみたいに亀仙人に呼びかける。 「じいちゃん、ドラゴンボール預かっててくれな」 「うむ、よかろう」 クリリンはブルブル首を振る。 「そ、そんなの預かったら、レッドリボン軍が襲ってきますよ!」 「やっつければいいじゃろ。わしは天下の武天老師じゃぞ」 確かにそれはそうかも知れない。 クリリンの言も確かに一理あるが。 「……え?」 手に、なにかが触れた。 思った瞬間、身体が締め付けられて息を吐き出す。 自分の身体を締め上げている物が荒縄であると認識する。 いつの間にやら、と手を繋いでいた悟空も、帰ろうとしていたブルマも、クリリン、亀仙人、挙句はウミガメまで、同じように荒縄で捕縛されていた。 「なっ、なにーー!? どうしたのよーーー! 孫くん!!」 「お、オラが知るかよ!」 「ほっほっほ、また会ったわね」 覚えのある笑い声。 横を見て、は驚愕した。 ブルマや悟空も同感だったらしく、驚きのままに叫ぶ。 「レッドリボンの!!」 「生きてたのかっ!?」 崩れ落ちる、あの状態の洞窟から脱出は難しかろう。 だが彼は出てきた。なんらかの方法で。 ブルー将軍はドラゴンボールを探すため、カメハウスの中に入っていく。 「や、やばい……殺されるわ、絶対!」 「ぎぎぎ……! ほ、ほどけねえ!」 「んんんぅっ!! イタタ……」 は思い切り手首を捻って隙間を作ろうとしたが、成功しなかった。 ぎっちり締め上げられており、しかも亀仙人いわく、力が入りにくいように縛ってあるとのことで。 「ど、どうしよう悟空……」 「、あのさ、洞窟ん中でオラを助けてくれた力で、この縄ほどけねえか?」 洞窟の中で助けた? 「ケガを治すのと似た力だ! あいつの超能力から、オラを助けてくれたろ!?」 動けなくなった悟空を守ろうとした折、身体の芯が熱くなった。 その時に使った力を、もう一度使えと悟空は言っている。 どうやったのか、当人すら理解していないのに、どうやって? 「あの時は、確か手を動かし……手が動かせない……」 今はがっちり縛られていて、手が動かない。 どうしよう……悟空の力になりたいのに。 焦るを無視するみたいに、ブルー将軍が家から出てくる。 手にはドラゴンボール。 「ほほほ、3個あったわ。遠慮なく頂いて行くわよ」 「あんたたちっ、ドラゴンボール集めて、一体なにを企んでるのよ!」 ブルーは、砂浜にお尻をついてもがいているブルマをちらりと見た。 「レッド将軍のお考えは、わたしたちの知るところじゃないわ。……さて、お世話になったお礼をしないとね」 不敵に笑むブルー。 嫌な予感がする。 彼は、もう片方の手に持っていた、四角く黒い物体のスイッチを押し、ブルマの側に置く。 時計盤らしきものが付いており、チッ、チッと、こう、嫌な音が……。 「強力な時限爆弾ちゃんよ。5分後にセットしてあげたわ。たっぷり恐怖を味わってね」 高らかに笑い、ブルーはカプセルを展開すると飛行機を出し、さっさと乗り込んで飛んで行ってしまった。 「たっ、助けて誰かーーー!」 ブルマは叫び、悟空は必死に縄をほどこうと悪戦苦闘。 「くっ、くそぉ、ほどけねえっ! 逃げろ!」 「そ、そんなこと言ったって……」 集中して、悟空を助けた時の不思議な力を引き出そうとするものの、気が急いてか、そもそもそんな力がないからか、全く超能力で制御されている綱が外れることはない。 「お、おい、なにか飛んで来たぞ!」 クリリンが上を見る。 同じように見ると、ランチが乗って行った飛行機だ。 飛行機はじれったいほどゆっくり降りてきた。 急いで欲しいと願う時ほど、時間が超高速で進んでいる気がしてならない。 「あら? 皆さん一体なにをなさっているの?」 「はやくっ、早くこの爆弾を捨ててくれっ!」 悟空が示した爆弾にランチは首を傾げながらも、とりあえず手に取る。 だがやたらと重たいらしく、ゴミ箱に捨てるなんて言い出した。 ゴミ箱に捨てたって、爆発したら一貫の終わり。 「オラの縄をほどいてくれっ!」 悟空が叫ぶ。 ランチは彼の背後に周り、一生懸命に縄を解こうとしている。 そうしている間にも、どんどん時間は過ぎていく。 は冷や汗が額を流れて行くのを感じながら、ぎゅっと奥歯を噛んだ。 「ナイフで切るんじゃ!」 「は、はい」 ランチは持っていた(多分、金髪ランチさんの所持品だろう)ナイフで、必死に悟空の縄を切る。 「ひぃぃ! 後5秒!!」 クリリンが悲鳴を上げると同時に、悟空を縛るものが切れた。 彼はすぐさま爆弾を掴み、空高く投げた。 剛速球となって飛んだそれは、空中で大爆発を起こす。 遠いはずなのに、熱風が飛んできて顔に当たった。 「!」 「悟空……よかった、ありがと……」 自由になった悟空は、ランチからナイフを借りてを自由にし、筋斗雲を呼んで彼女と一緒に雲上へ。 筋斗雲はふわりと浮き上がり、悟空の意思に従って進み始める。 背後に亀仙人の制止する声があったが、悟空はそれを振り切ってブルーを追う。 は悟空の背後で、筋斗雲のトップスピードに目を細める。 視界に飛行物体が入った。 「悟空、いた!」 「よぉし!」 筋斗雲と飛行機の速度差で、どんどん間が詰まる。 「ドラゴンボール返せーーー!」 果たして、悟空の張り上げた声は、彼に聞こえていただろうか。 2015・3・30 |