拡変世界 4 一瞬、ついて来なきゃ良かったと思った私は、意気地なし? 銃弾の雨あられを、如意棒で弾き返す悟空の後方を走りながら、は思った。 ……銃撃なんて受けたら、さすがに死んじゃうよねえ。 少なくとも、私は死んでしまうだろう。 マッスルタワーとやらに入って直ぐ、ガラの悪い者たちから攻撃を受けた。 彼らは一様に、悟空とを子供と侮り、激しく簡単に吹っ飛んでは気絶してしまった。 殆どは悟空が倒したが、銃を持たない数名の相手は、の手でもって倒した。 いくら修行したとて、は女の子。 さすがにナイフといった凶器を持つ相手には多少の尻込みはしたものの、悟空に頼り切りになってしまい兼ねないと自分を奮わせ、拳を揮った。 すっかり静かになったフロアで、悟空とはスノに貸して貰っていた防寒具を脱ぐ。 タワーの中は、空調設備が整っていて、着込んだ格好では暑いぐらいだ。 「ぷぅ、これで身軽になったな!」 「借り物の服だから、後で取りに来ないとね」 悟空が脱ぎ捨てた防寒具も、自分のものも、きちんとたたんでテーブルに置いた。 「よし、そんじゃ行くぞ!」 「はい!」 引率者みたいに、悟空はの手を引いて、部屋の端にある階段で上階へ。 少しだけ長い階段を上りきると、いきなり「ウェルカム」と言われた。 「およ?」 「すっごく大きな人だね」 今まで椅子に座っていたその大きな人は、立ち上がったら更に巨大に見えた。 普通の男の人の、2倍分以上ありそうな感じだ。 「オレはメタリック軍曹だ。上へ行く階段はそこにある」 言い、彼は階段を示した。 「上へ行きたいなら、このオレを倒して行け」 「勝負するのか?」 「死ね」 悟空の問いに、全く返答になっていない言葉を返す軍曹。 いきなり拳を悟空に向かって打ち込んだ。 ひどい音がして、地面にヒビがいる。 瞬時に避けた悟空は、を抱え、天上付近に下がっているチェーンに掴まっていた。 は、どちらかというと悟空に抱えられたことに驚いていたが、鎖に手をかけ、ぶら下がる。 「オラ、ちっと行って来んな!」 「うん」 彼はにかっと笑い、鎖から手を離すと一直線に落ち、軍曹の肩に着地。 左頬に向かって、痛烈な一撃を喰らわせた。 スローモーションみたいな動きで、軍曹の体が右に流れ、思い切り地面に叩き付けられた。 「あれー、すごく大きいだけだったのかな……?」 は鎖にぶら下がったまま、下の様子を見る。 すると、既に倒したものとして、次の階へ向かう気合いを入れている悟空の背後で、軍曹がのそりと起き上がった。 「ご、悟空あぶない!」 「へ? ふぎゃっ!」 悟空は握りつぶされたみたいな声を上げた。 軍曹の両手に、実際潰されるも同然の状態。 「んのっ……悟空を放せっ!」 は鎖から手を離し、落ちる勢いを合わせて踵落としを喰らわせた。 軍曹の頭はやたら滅多ら硬くて、足がじんとする。 が、悟空を解放することには成功した。 「ひゃあ、助かった。サンキューな!」 「い、いいから余裕かましてないでよぅ。心臓に悪い……」 「そうだな、よぅし、思いっきりやっちゃうもんね!」 悟空は頭を振っている軍曹を睨み、膝にぐっと力を入れて、思い切り地面を蹴った。 力を込めた一撃は、軍曹の胸部にまともに入った。 吹っ飛び、壁に打ち付けられる――が、すぐさま何事もなかったみたいに、彼は立ち上がる。 は驚いて目を瞬いた。 「悟空の攻撃を受けて、あんなにへらっとしてるなんて……すごい」 いや、凄いで済ませてはいけないのだが。 軍曹はぎろりとを睨み、風圧すら感じさせる勢いで彼女を払う。 「わ、わ!」 「!」 慌てて駆け寄ろうとする悟空には、踏みつけ攻撃を仕掛ける。 急いて飛び上がり、避けた悟空に、軍曹は拳を見舞う。 悟空はいったん床にバウンドし、顔面から壁に突っ込んで、どさりと床へ。 は青くなりながらも、踏みつけて止めを刺そうとしている軍曹の足にしがみ付く。 一瞬だけ動きが止まった隙に、悟空は体勢を立て直し、軍曹の顎下に頭突きを喰らわせた。 再度倒れる軍曹。 「悟空、だ、だいじょぶ!?」 「いっちーーー! なんつー硬いカオだっ!」 悟空のダイヤモンドヘッドに痛みを与えるとは……。 が目を瞬いていると、軍曹はすぐさま立ち上がり、口をかぱっとあけた。 その口が火を噴く。 じゃなくて。口から、ミサイルが飛び出してきた。 あっと驚いている暇もなく、は悟空と一緒に大きな柱の後ろに身を隠した。 どっかんと壁が壊れて、外から冷たい風が入ってくる。 「ぷひゅー、危なかった……、でえじょぶか?」 「だいじょぶ。すっごー、ミサイル口から吐き出したよ……」 兵器か何かなんだろうか、彼は。 それともこちらの人間は、口から普通にミサイルを吐き出すんだろうか? ……まさか。 「よぉし、オラ、かめはめ波しちゃうもんね!」 息巻いて出て行く悟空を、は止めるべきかと考える。 あんな凄い技を打ち込んで大丈夫だろうか……。 死んじゃう……? 「波ーーーぁっ!」 「あ、遅かった」 青白いエネルギーの塊が、軍曹を襲う。 過ぎ去った時、頭部が……。 「か、カオが取れちゃった……悪いことしちゃったかな」 悟空の側に駆け寄り、は叫ぶ。 「ば、ばか悟空! 死んじゃったんじゃ……あれ?」 軍曹を冷静に見て、あることに気付く。 なんとも気持ちが悪くて、近づく気にはなれず、少しばかり距離を置いていたけれど、それでも分かる。 彼の首の部位から、コードらしきものが出ていることは。 それに、胸部の肌色が剥がれて、鉄色が見えているし。 「悟空、この人、ロボットだよ」 「へ? ロボット?」 「そう。だから死んでは――」 いない、と最後まで言い切らぬうちに、悟空の顔面に軍曹のロケットパンチが飛んで来た。 「い、ってえ……!」 軍曹は、間をおかずにまだ付いている右腕で攻撃を繰り返す。 その度にと悟空は飛びあがり、それを避ける。 「どどど、どうしよう悟空、やっぱかめはめ波で粉々にしちゃうっきゃない!?」 「そ、それしかねえんかなあ」 もかめはめ波を使えればいいのだが、残念なことに使えない。 修行不足なのか、格闘センスのせいかは分からないが。 ひょいひょい避けながら、数分が過ぎた頃。 唐突に軍曹の動きが止まった。 「あり? 、こいつ止まっちまったぞ」 「……壊れたかな」 電池切れで動かなくなったとは知らない2人は、とりあえず次の階へ上ることにした。 次の階に上がった悟空とは、いきなり室内に庭園があることに驚いた。 純和風。 どことなく懐かしい気分になっていると、足元に向かって何かが飛んで来た。 悟空と2人、跳ねて避ける。 地面に突き刺さっている物を見て、は首を傾げた。 「?」 「……これ、なんていうんだっけ……ええと手裏剣じゃなくて……くない?」 確か、まだもとの地球にいた頃に見た漫画に、これとそっくり同じ物が載っていた。 「悟空、たぶんここの敵さんは、忍者だよ」 の言葉通り、その階を守っているのは忍者だった。 悟空は、隠れているそいつを見つけ、石を投げる。 犬の悲鳴みたいな声をあげ、忍者が木の上から落ちてきた。 「みっけた」 「おー、さすが悟空!」 はパチパチと拍手をする。 落ちてきた紫色の衣装に身を包む男性は、薄ら笑いを浮かべた。 ちょっとだけ、泣いている気もする。 「よ、よく分かったな、まぐれだろ」 「まぐれじゃないよ、ちゃんと見えたもんね」 「嘘こけ! 素人のお前なんぞに見えるはずがない! 女の子とチャラチャラしとる生意気な小僧め!」 と悟空は顔を見合わせる。 「オラもも、一緒に修行してんだ。一緒にいるに決まってるさ」 悟空は、答えになっているような、いないような返事を返す。 紫色の忍者は、何が悔しいのか地団太を踏み、煙球を投げつけて煙幕を張る。 危うく煙を思い切り吸い込みそうになった。 悟空の方は、思いっきり吸ってしまったようだが。 煙を撒いた時、忍者の姿はそこになかった。 「あれ? どこ行った」 「隠れたみたい……だね、うん、隠れてるつもりみたいだよ」 悟空と2人で、木の前に行く。 物凄く目立つ掛布がしてある木。 「……ねえ、隠れてるの?」 に問われ、それでもまだ布を手放さない忍者。 蚊の鳴くような声で、何故分かったかと問う。 「だって派手だよ。どこぞの国旗だし」 「なんだと!?」 忍者は慌てて自分が掴んでいるものを確認する。 そして焦って布をしまった。 「ま、間違えたんだ。本当はこの木と同化する、木目柄のはずだった」 「ふぅーん」 「次こそ、本物の忍者の技を見せてやる」 「別にいいから、早く次への階段……って聞いてないし」 またも目くらましをし、消えてしまう。 煙が消えたとき、今度はすぐには分からなかった。 ……この隙に、上の階へ行っちゃ駄目かなあ? 「、早くアイツ探そうぜ」 「んー……悟空がそうしたいなら、いいよ」 正直に探すことにし、1件だけある家の付近に近づく。 すると、何やらコーホーという、一生懸命息をするような音が。 「なあなあ、コレ」 「……」 無言で息をつく。 紫色の忍者は、どうやら堀池にいる。 水頓の術の真っ最中だ。 忍者の技というと、なんだか魔法みたいに思っていたは、実際の術を見てほんの少しがっかりした。 隠れているのだろうけれど、とっても分かり易い。 彼が忍術ベタなだけかも知れないが。 悟空は、家の中から熱湯を持ち出し、水の中から唯一出ている筒の中へ湯を注ぐ。 「うわ、熱い!」 「ひぃーーーー!!」 熱湯攻撃に舌を真っ赤にした忍者が、水の中でのたうっている。 「あ、危ないじゃないかっ! 死ぬトコだったぞ恐ろしいガキめ!」 「…………忍者って、本当はこんななのかな」 ガックリ。 その後も、忍者――ムラサキ曹長というらしい――は、ひどく微妙な忍術を連発し、最後には悟空とに5人がかりで(5つ子だって。初めて見たよ)攻撃を仕掛けたが、難なく撃破。 なんともあっけない終わり方であった。 2010・6・4 うーむ。超箇条書きっぽい。 |