拡変世界 3



 先ほど攻撃してきて、見事に返り討ちにあった、レッドリボン軍のぎんいろ大佐……じゃなくてシルバー大佐を跨いで、は悟空の側による。
 悟空は、シルバー大佐の拠点であっただろう建物の中から、カプセルケースを持ってきていた。
「ねえ悟空……こういうのは、泥棒っていうんじゃないのかなあ」
「でも、こいつに筋斗雲ぶっ飛ばされちまったし、乗り物は必要だろ?」
 筋斗雲をロケットランチャーらしき物で消されてしまった今、確かに別の乗り物が必要ではあった。
 レーダーで確認すると、次のドラゴンボールまではそれなりに遠い。
 完全に気を失っている為、無駄だと分かっていながらも、は大の字で地面に転がっているシルバー大佐に話しかけた。
「カプセル、貰いますね」
 当然ながら、返事はなかった。

 最初に投げたカプセルの中には、ロボットが入っていた。
 彼(?)の指示通り、カプセルを投げて飛行機を出す。
 だが、悟空もも操縦が出来ないため、ロボットに頼んで、目的地までつれて行ってもらうことにした。
 北方面に向かうにつれて、どんどん寒くなってくる。
 最初は我慢できる程度だった。
 しかし、窓も何もない飛行機なだけに、吹き込んでくる風が限界を超えた頃、操縦していたロボットが凍結し、飛行機は制御不能に。
 当然、行くべき場所は――下だ。
 墜落する、と頭の隅で考える暇こそあれ、は寒さで咄嗟に動くことができなかった。
 悟空が何事かを叫んで、を抱えた。
 彼に抱き締められて視界が見えなくなった後のことを、は覚えていない。



「………っ!」
 側近くで聞こえた悟空の声に、は驚いて目を開いた。
 一瞬ひどく体がぐらついて前のめりになる。
 自分がどんな体勢をとっているか分からないまま、は床に倒れ込みそうになった所を、悟空に助けられた。
 彼はの両肩を掴み、ホッとしたように笑んだ。
「あ、え……悟空?」
「よかった! オラ、めちゃくちゃ心配したぞ!」
 何がどうなっているのかさっぱり分からず、は目を瞬いた。
 彼に言われ、今しがたまで座っていた椅子に、再度座る。
 悟空の背後で、くすくすと笑う声が聞こえ、そちらに目を向けた。
 橙色の髪色をした女の子と、優しそうな女性が立っていた。
 女の子は悟空の横に立つ。
 彼女は、手に持っていたカップを、に渡した。
「あ、ありがとう……」
 礼を言い、カップに口を付ける。
 温かくて柔らかい味のスープが、体を温めていく。
「わたし、スノよ」
「私、です。ね、ねえ悟空、一体何がどうなったの?」
 彼はうーんと唸る。
「飛行機が落ちたの、覚えてっか? オラたちスノに助けてもらったんだ」
「あのままだと凍え死んじゃうと思って、わたしの家に連れてきたの」
「そ、そうだったんだ……」
 それほどまでに危機的状況に陥っていたとは。
 は深々とお辞儀をした。
「ありがとうございました」
「いいのよ。悟空から聞いたんだけど、ちゃんもドラゴンボール探してるんですって?」
 スノに訊かれ、頷く。
 寝ている間に、どうやら悟空があらましを説明したみたいだ。
「この辺りにもさ、1個落ちてるはずなんだよな」
「じゃあ、探す?」
 それを聞いていたスノは、2人に向かって大きく左右に首を振った。
「だめよだめよ! レッドリボンの奴らが同じ物を探してるのよ!?」
 スノの母も、心配そうに言う。
「そうですよ。村の男たちだって、脅されて無理矢理に探させているのよ? 危険だわ」
 悟空とは顔を見合わせた。
「なあ、じゃあソイツ達をやっつけちまえばいいじゃねえか」
「レッドリボンはすっごく強いのよ! やっつけられっこないわ。それに――ほら見て」
 スノが、窓の外を示す。
 は椅子から立ち、彼女の示す方を見やる。
 視線の先には、大きな茶煉瓦の塔が建っていた。
「あの基地には村長さんが人質として掴まってるから……」
「逆らうと、村長さんが危ないんだね?」
 の言葉に、スノは頷く。
「ねえ悟空、どうする?」
「困ってるみてえだしなあ……。よし、オラがそいつらやっつけてやるよ! とオラを助けてくれたお礼だ!」
「じゃあ私も行く」
 ぐっと拳を握り締める
 その横で、スノが叫ぶ。
「あ、あなた達何を言ってるのよ! 相手は大人なのよ!? 子供のけんかじゃないんだから!」
 分かってるよ、とが言おうとしたのと丁度同時に、いきなり玄関が開いた。
 開いたというより、乱暴に開けられたといった方が正しい。
 入って来たのは、ひどくガラの悪そうな男と、動物タイプの男。
 手には銃を持ち、いかにも悪役ですといった表情を顔に張り付かせている。
「小僧! やっと見つけたぞ。お前、いいもの持ってるらしいな」
 ガラの悪そうな……じゃなくて悪い男は、銃をスノの母に向けた。
 息を詰めるスノの母。
 スノの方は、悟空とに、逃げろと叫ぶ。
 どうしようかと、視線をあちこちに移動させるに、男が銃口を向けた。
 瞬間、悟空の視線が鋭くなる。
に何すんだっ!」
「うるせえガキ! いいからさっさとドラゴンボールを寄こさねえと、この娘を」
「こいつに触んなっ!!」
 更に銃口をに近づけようとする男に、悟空は一気に詰め寄る。
 目にも止まらぬ速さで、その男、そしてもう1人の男を攻撃して、簡単に伸した。
 驚きに目を瞬くことさえ忘れている、スノとその母親。
 だけは、パチパチと拍手をした。
 スノが、倒れた男2人から目を離さぬまま、悟空に訊く。
「な……なに? 今、なにをしたの?」
「えーと、パンチが6発、キックが……4発だな!」
「すごい……全然見えなかった」
「そんじゃオラ、行って来る」
 1人で行こうとする悟空の手を、はぎゅっと掴んだ。
「私もいく!」
「駄目だ。危ねえ」
 きっぱり言われ、さすがに詰まるだったが、ぶるぶる首を振る。
「いく! 私だって、強くなりたいの!」
 悟空の迷惑になるかも知れないが、もしかしたら助けになれるかもという希望を込めて。
 それに、せっかく修行の旅に同行しているのだから、強くなりたいではないか。
 悟空が強さに対して一生懸命であるように、だって、彼に近づこうと一生懸命なのった。
「……しょうがねえなあ、危ねえって思ったら、逃げんだぞ?」
「うん!」



2010・5・8
文章がこなれていない気がする…。