拡変世界 2 天下一武道会は順調に進み、夕暮れが薄闇に取って代わる前には終了した。 途中、悟空が夕月を見て大猿になったりもしたが、その時の対戦相手、ジャッキー・チュンが強烈なかめはめ波で月を吹き飛ばし、事無きを得、最終的に悟空は負けてしまった。 それにしても、大猿になる悟空って、何者なのだろう? 考える。以前はその答えを知っていたような気がするけれど、今は思い出せない。 きっと、もう1人の自分が知っていたのだろう。 悟空に関する何かを。 亀仙人に夕食を奢ってもらった後、は悟空やブルマたちと一緒に車に乗って、飛行カプセル展開場まで向かった。 車の揺れとはなかなか強烈で、お腹一杯になっているせいもあって、微妙に眠い。 「、眠いんか?」 「んー、少し。まだ平気」 「そっか」 よしよしと頭を撫でられる。 彼は12歳で確かに自分より年齢が上だけれど、子ども扱いされるほど年は離れてないのに。 嫌だというより、気恥ずかしさでいっぱいになる。 嬉しくて安心もするけれど、こうやって車の中で仲間と一緒にいる時だとからかわれるから――。 かといって、手を払うことは出来ないのだけれど。 ニヤニヤするブルマの視線を極力無視し、これからのことを考えた。 クリリンは亀仙人の元で、今しばらく修行をするという。 「悟空はどうするんだ?」 ヤムチャの質問に、 「オラはじいちゃんのドラゴンボールを見つける!」 「あんた、まだあれを探す気なの」 ブルマが驚き、クリリンがドラゴンボールについての説明を求めていた。 「ところで、はどうするの?」 が口を開く前に、悟空が割り込む。 「とオラは一緒にいんだよな」 クリリンが眉をひそめる。 「ご、悟空、お前修行の旅にちゃんを連れてく気なのか?」 「うん」 至極あっさり答える悟空。 「私、ついて行っていいの?」 「ああ、だってオラ、おめえとケッコンしたんだから、ずーっと一緒だろ」 …………いつ結婚しましたっけ。 運転手のヤムチャが突然乱暴な運転をしたり、悟空を除く全員が目を丸くしているのも当然の発言だ。 車がひどい音を立てて停止する。 一応、目的地には着いたようだ。 「ごっ、悟空……私、まだ結婚して、ないんだけど」 「え!? そうなんか、じゃあしよう、今すぐ! オラ今すぐしたいっ!」 両手を拳にし、胸の前で一生懸命上下に振る悟空。 真っ赤になるの手を掴み、悟空がどうすればケッコンしたことになるのかと聞く。 ブルマがため息をつき、悟空の頭をゴチコンとグーで殴った。 「ってえ! ブルマ、何すんだよ!!」 「あんたがっ、馬鹿なことを言うからよッ。お子様の分際で結婚なんて出来るわけないでしょう」 「えーーー! なんで? なんでっ!」 文句を言う悟空を背中に、とりあえず車から降りる。 皆それぞれ降り、車をカプセルに戻した。 「なあブルマ、なんでオラとケッコンできねえんだ」 「子供だからよ。結婚のなんたるかすら知らない癖に、そんなもん出来るわけないでしょう」 言うブルマだが、当然彼女も結婚のなんたるかは分かっていない、と思う。 には当然分からない。 「……じゃあいつならできんだ」 口唇を尖らせて子供らしい表情を見せる悟空。 ヤムチャは悟空の頭を撫でた。 「もっと――そうだな、悟空が18歳ぐらいか、大きくなったらだな。それまで悟空は、もっと強くならないと。ちゃんを守れるように」 女の子にだらしない男の台詞だとは思えない、なんてブルマは言うが、悟空はそれで納得したようだ。 「じゃあ、オラもっと強くなって、を護る男になる。18ってえと……ひいふう……後5つトシとりゃええんか」 「……悟空、6つだよ」 は苦笑した。 「とにかく、悟空についてく。私も修行頑張るから」 「おう! なあじっちゃん、オラとの荷物、そこに入ってんだろ?」 「お、おお、もしかしてもう行くつもりか?」 「ああ」 悟空は亀仙人の荷物の中から如意棒と手荷物を取り出し、筋斗雲を呼ぶと飛び乗った。 も同じように、荷物から腰ポーチを取り出して身に付ける。 悟空がに手を差し出し、彼女は彼の手を借りて雲に乗る。 「、ほら、ドラゴンレーダー。あんたが持ってなさいよ、孫くんだと直ぐ壊しそう」 ブルマからレーダーを受け取り、腰のポーチの中に入れた。 「それじゃあ、またね!」 「みんな、また会おうなっ!」 悟空とはブルマたちに手を振り、その場から飛び去った。 夜空の下を飛びながら、は腰ポーチからレーダーを取り出し、スイッチを押す。 レーダーに反応がないため、範囲を拡大してみた。 「ええっと……こっから東かなあ、ちょっと遠いみたい」 「よし、東だな!」 悟空は方向転換し、最初のボールに向かっていった。 「……あふ……眠くなってきちゃった……」 ねむねむと目を擦るを振り返り、悟空はちょっと首を捻る。 筋斗雲のスピードを徐々に落とし、ついには止めてしまった。 「悟空?」 「、おめえオラの横さ来いよ」 「う、うん」 雲に手をついて移動し、彼の横にちょこんと座る。 「横んなっちまえ。平気だから」 「だ、大丈夫かなあ。悟空が狭くなっちゃわない?」 「平気だって。ほら」 お言葉に甘え、なるべく小さく丸まりながらころんと横になる。 悟空は寝そべったの肩を支えた。 「寝辛くねえか?」 「私より悟空の方が……ね、寝れなくない?」 「オラは平気さ」 そうして話しているうちにも、の目蓋は落ちてくる。 筋斗雲が温かい布団みたいに気持ちよくて、どんどん眠りに誘われて。 「ん……ごめん、寝る……」 「ああ、お休み」 悟空の手が温かくて、は笑み、安心して目を閉じた。 翌朝。意識が浮上したは、温かなものに包まれていた。 なんだか凄く気持ちよくて、目を開けないとそのまま、また寝そうだと思う。 目を擦ろうとして――腕に何かが乗っかっていることに気付く。 「……ん、ん……ぅ……?」 しょぼついた目を開ける。 すると、目の前に悟空の顔が。 それも余りピントが会わないほど近い。 腕に乗っている何かは悟空の手で、彼はどうやら自分を抱きしめて寝ていると気付き――は飛びあがって起きた。 心臓が激しく波打っている。 「……そういえば、筋斗雲の上で寝てたんだっけ」 悟空の横で寝ていたはずなのだが。彼も眠くなって、横になったみたいだ。 彼にしてみれば、抱きしめて寝るなんて大した意味がないのだろうけれど、には刺激が強い。 息を吐き、気持ちを落ちつける。 腰ポーチに付けてある時計を見ると、7時半を回ったところだ。 筋斗雲は悟空が眠っていても、方向を認識しているみたいに目的地に向かっているようだった。 レーダーでドラゴンボールの位置を確認すると、遠かったボールの位置が、かなり近くになっている。 は指先で目を擦り、悟空を揺り起こした。 「悟空、起きて。そろそろドラゴンボールのある場所に着くよ」 「うー……んん……。……?」 「うん、おはよう」 「オッス、おはよ」 悟空は目をぐりぐり擦ると、大きくあくびをした。 は、どうして抱っこして寝てたのかと聞きたかったが、なんだか聞き辛いのはなぜだろう。 「ね、ねえ悟空、あのね」 「なんだ?」 「あの、どして私を抱っこして寝てたの」 彼はきょとんとし――にぱっと笑う。 「ちっと寒そうだったしさあ、それにおめえの寝てるカオ見てたら、ぎゅーってしたくなっちまって」 みるみるうちに顔が赤くなる。 ブルブル頭を振り、自分の頬を軽く叩く。 「?」 「ん、なんでもない。ボールの位置、レーダーで見てみて」 「おう」 ……悟空がどこまで本気なのか分からない。 2010・4・9 原作沿いとあからさまに違いますが、深く考えず読んでくださるとありがたいです…。 |