ー、頑張ろうなっ!」
 悟空がに至極嬉しそうに笑う。
 その隣で、は悟空やクリリンと同じ朱色の道着を身につけ、空笑いを浮かべた。
(なっ……なんで私、武道会に出ることになっちゃったの……!?)
 それは自分のせいだったったりする。




拡変世界 15




 悟空とクリリンが天下一武道会に出るのは分かる。
 だが自分がここに立っていることに、違和感を感じずにいられない。
 はため息をつき、予選のため、競技台の上に登った。
ー! 頑張れよー!」
 背後から悟空の声援が聞こえてくる。
 応援してくれるのは嬉しいのだけれど……悟空やクリリンみたいに、相手を一撃で吹っ飛ばせるようなことは、絶対にない。
 というかやられてしまう気がする。
 少年2人と違って、がやってきたのは初心者向けの修行だ。
 悟空の勢いに呑まれて、一緒に出場する、と言ったのが間違いだった……。
「……まあ、出たからには頑張ろう」
 うん、と独りで納得し、戦うべき相手を見つめた。
 その人はより随分と大きくて、当然大人の人だった。
「お嬢ちゃん、悪いこと言わないからさっさとお家に帰りたまえ」
 微妙に紳士な発言をする男性。
「頑張るって悟空に約束しちゃったから、頑張ります」
 口を引き結び、構えを取る。
 ……見る人が見れば、全然構えになっていないのだが。
 だって、は何も教わっていない。
 戦い方なんて知らない。
「でもま、とりあえず……お願いしますっ!」
 一礼し、審判の合図を皮切りに一気に駆ける。
 昔、映画でみたのを真似て足払いをかけた。
「うぉ!?」
 男性は面白いほどに転ぶ。
 彼は慌てて構えを取り、攻撃を仕掛けてきたのだが、はそれを頬をかする程度の間合いで避けた。
 不思議と攻撃が見えている。
 なんでだろう?
 たまに悟空にくっついて、ハードな修行をしていたのがよかったのだろうか。
「ごめんなさーい!」
 言いながら男性の胸を思い切り押す。
 彼は奇妙な声を上げて後ろに転がり、そのまま競技台を落ちて行った。
 なんだか不思議なほど強くなっているなあ、なんて思いながら、は台を降りる。
 悟空が嬉しそうに手を握ってきた。
「やったな、っ!」
「う、うん……」
「なんだ? あんまし嬉しそうじゃねえなあ」
 そんなことはないのだけれども。
「……ええっと……普通の女の子から外れてるなあと、思いまして」
ちゃん……いや、まあ……確かに」
 クリリンが苦笑しつつ、に同意した。
「確かになあ、あんまり強いと結婚もできなくなっちゃうかも……」
 恐ろしいことを言うクリリンに、が顔を青くした。
 おろおろとあちこちに視線を彷徨わせていると、悟空が首をかしげてクリリンに問う。
「なあクリリン、その『ケッコン』てのはしねえと駄目なんか?」
「いや、駄目っていうわけじゃないけどよ。女の子の夢、とかって言うし」
 別にそれが夢でない女子も沢山いると思うけど。
 特に何も言わないでいるに、悟空はうーんと唸り、
「じゃあ、が凄ぇ強くなっても困らねえように、オラがとケッコンってのをする」
 とんでもないことを言い出した。
 は一瞬、何を言われたのか分からなかったが、理解が及んだ瞬間に顔を真っ赤にした。
 クリリンも釣られたように顔を赤くする。
 悟空だけが、独りいつも通りで。
「き、気にしなくていいからっ。もう全部忘れて! わ、私次の試合相手見てくるね!」
 大慌てでその場から離れるに、悟空は大声で言う。
「オラとケッコンすんだからなー!!」
 そんなことを大声で言わないでっ!!


 競技台の上、は次の対戦相手を前にして目を瞬いた。
「……お名前は、ジャッキー・チュンさん?」
「ほいほい。お前さんがわしの相手じゃな」
 白髪の老人は、手を後ろで組んで静かに立っている。
 何故だか不思議とこの人を知っている気がした。
 審判が開始の合図を告げ、は構えを取る。
 悟空とクリリンの応援を背に受け、地を蹴った。
 思い切り拳を繰り出し、それはあっさり防がれる。
 右足を軸にして飛びあがり、くるりと回転して左足を顔に叩き込もうとしたが――気付けば足を掴まれていた。
「わ、わ!」
っ」
 悟空が叫ぶ。
 掴まれた方とは逆足でジャッキーの頭を蹴り飛ばそうとして、思い切り避けられた。
 ジャッキーに背中を向けた状態になったを、彼は渾身の力を込めて殴る。
 背中に痛みが走り、かと思うと目の前に悟空の姿が。
「………あれ?」
、でえじょぶかっ?」
「ええっと、悟空」
 周囲の状況がよく分からなくて、思わず周りを見回した。
 競技台がの視線の高さにあった。
 つまり――ジャッキーの手によって、落っことされたのだ。
 それを、悟空が受け止めてくれた。
「……ああ、負けちゃったのか」
 ちょっと残念だなあ。
 カリカリと後頭部を掻き、悟空から離れれる。
 競技台の上のジャッキーは、何故だか満足そうに頷き、に背を向けて立ち去った。
 うーん……不思議な感じのする人だったなあ。
?」
「え、あ、うん、ごめんね、負けちゃって」
 悟空はの手をぎゅっと掴み、首を振る。
「いいんだ、おめえが怪我しねえでよかった。……痛いとことか、ほんとにねえか?」
「うん、だいじょぶ。助けてくれて、ありがと」
 は笑み、悟空につかまれていない方の手で服の埃を叩いた。
「ところで、クリリンは?」
「今試合中だ。もう終わっちまったかなあ」
 彼はくいっとの手を引き、歩き出す。
 彼女を見ぬまま、悟空は言った。
「なあ
「うん?」
「ケッコンってさ」
「……まだ言うか」
 呆れるに、悟空は嬉しそうな声で、
「好きな奴同士がするんだろ? ずーっと一緒にいられるんだろ?」
 間違ってはいない。
 誰から聞いたかと問えば、クリリンが教えてくれたと。
 一般常識という意味では、知のはいいのかも知れないが。
 にとっては、非常に恥ずかしい話題である。
 なんというか、好きな相手に言われると物凄く応える。
「どした? オラ、なんか間違ってっか?」
 無言のに、悟空は足を止めて顔を近づけた。
「あ、えーと。間違っては……ないよ」
「オラ、のこと好きだし、ずっと一緒にいてえし。だからケッコンしよう! いいだろ?」
 キラキラした目を向けられて、はたじろぐ。
 大好きな人にこんな風に言われて、駄目だとか言えなくて。
 悟空も自分もまだ小さくて、先がどうなるかなんて分からないけれど、でも。
「………うん、よろしくお願いします」
 ぺこりとお辞儀をした。
 それを試合を終えて戻ってきたクリリンが見て、妙に肩を落としていたとかなんとか。



 予選を勝ち抜いた悟空とクリリンは、天下一武道会本戦が始まる前に、一旦観客席の方へ向かうことにした。
 も彼らの後についていく。
 悟空が亀仙人を見つけ、の手を引いてそちらに駆けた。
 仙人の側には、ブルマやウーロン、プーアルもいる。
 悟空は大声で彼らに呼びかけた。
「みんなー! 久しぶりだなっ!!」
 気付いたブルマたちが一斉に振り向く。
「わあ、あんたなんでこんなトコにいるのよ!」
「選手で出てんだ。ヤムチャにも会ったぞ。こっちがクリリン、こっちは……知ってるよな、だ!」
 紹介する悟空。
 は仙人の服の袖を引いた。
「仙人さま、悟空とクリリン、それからヤムチャさんは本戦出場です。私は駄目でした、ごめんなさい」
 少々肩を落とす
 仙人は口端を上げて笑み、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。
「よいよい。今後も精進すれば、もっと強くなれるじゃろう。お前さんが望みさえすればの」
「はい!」
 丁度その時、場内アナウンスが流れてきた。
 本戦出場者は武道寺本館とやらに集合らしい。
「ねえ、あんたわたし達と一緒にいるわよね? 本戦に出ないんでしょう」
 ブルマに肩を叩かれ振り向く。
「中から見れればいいんだけど……できないから、一緒にいる」
「ブルマー、に怪我させねえでくれよな」
 言いながら悟空は壁を乗り越え、に手を振ってから姿を消した。
「……ねえ、孫くんは一体どうしちゃったわけ? 前からあんたに対して過保護だったけど、なんていうか……」
 うんうんとウーロンが頷く。
「あれだよな、ラブラブ」
 ……ウーロン。
、あんた達付き合うことにでもなったの?」
「付き合うっていうか……け、結婚しようって。私もうんって言ったし……」
「けっ……」
 絶句するブルマとウーロン、プーアルまでもが息を飲み込んでいる。
 妥当な対応かも知れない。
「あ、あいつ意味分かってんのかしら?」
「一応、分かってるみたいだけど……先のことなんて分からないし。うん、えっと、とにかく、そういうことで」
 どういうことだか全く説明になっていないが、それ以上にも説明できない。
 追及を逃れるみたいに、ブルマの手を引いて観客席へと移動した。





既にキャラ崩壊もいいとこですが…。次回は大会終了まで飛ぶかと。
停止しているかという勢いでまったり更新だと思いますが、こっそり頑張りたいと思います。
…中篇なのに50話とか突破したらどうしよう。

2009・6・19