異転流転 7



「で、ウーロンも連れて行くんだね」
「まあね、だってあの変化の力は役に立ちそうだし」
 全てが片付き、村を出た一行は、次なる目的地へと向かって川を走っていた。


 は後部座席に腰を据えて、勢いよく通り過ぎる風に髪を揺らす。
 悟空を真ん中にして、左右にとウーロンが座っている船。
 運転席のブルマはともかく、後部の3人は結構きつきつで詰まっている。
 悟空と密着しているのが、何だか気恥ずかしい。
 それにしても、微妙に頭が痛い。
 つきん、つきんと刺すような痛みがあり、は首を振った。
、どうかしたんか?」
「え? ううん、なんでもないよ」
 平気だと笑みかけると、悟空はそれで納得してくれたようだ。
 偏頭痛なんて持っていないし、子供の頃に頭痛を起こした覚えは、にはない。
 風邪でもひいたのかな?
 それはそれで、困ってしまうけれど。
「おいお前、そのって奴とどんな関係なんだよ」
 ウーロンが邪推するような瞳で、悟空とを見やる。
 2人は顔を見合わせた。
「オラと、一緒に住んでんだ」
「家族って感じじゃねえだろ」
 はぷるぷる手を振る。
「ウーロンが考えるような、変な事はないよ」
 言うと、非常につまらなそうな顔をされた。
「割に、必死で護ろうとしてるよなあ、こいつ……」
「なにがだ?」
 きょとんとしている悟空に、ウーロンは「なんでもない」と言い、話題を変えた。
「一体お前ら、どこに行こうとしてるんだよ」
 運転しながら、ブルマが地図を取り出す。
 よそ見運転しながら、位置を確認した。
「まだまだかなり遠いわよ。あと3日ぐらいはかかるかしら。……ええっと、フライパン山は……この辺りね」
 フライパン山。
 その単語に、ウーロンが物凄い声を上げて驚いた。
 別の意味で、も驚いていたのだけれど。
「あああ、あんなトコに行くつもりだったのかよ!」
「お前、そこ知ってんのか?」
 悟空の問いに身体を端っこに寄せ、ウーロンは激しく叫ぶ。
「お前ら知らんのか!? フライパン山には、めめ、滅茶苦茶恐ろしい牛魔王がいるんだぜ!」
 ブルマはそんなもの悟空が倒してくれると言うが、ウーロンはブルブル首を振る。
 確か、フライパン山は……。
(……確か、なんだっけ?)
 チクチク刺さるような頭痛が邪魔して、上手く考えが纏らない。
「オレはいやだぞ!!」
「あっ!」
 ウーロンは魚に変化すると、川に逃げ込んでしまった。
 本気で嫌みたいだ。
 始めは悟空が潜って探すと言っていたのだが、ブルマがそれを止める。
 彼女は釣り竿(餌がパンツ……)でウーロンを吊り上げた。
「しっ、しまった!」
 しっかり口にブルマのパンツを加えているウーロンを見て、は思わず
「……おばか?」
 素直に観想を口にしたのであった。

、ほんとにでえじょぶなんか?」
 船の縁に頭を預けている
 悟空に心配され、精一杯の笑みを浮かべた。
「だ、だいじょぶだよ。なんでもないんだから」
 言い、軽く息を吐く。
 ブルマもを見て、小さく眉を潜める。
「あんた少し、顔色悪いわよ。気分悪い?」
「だいじょぶだから、ほんと……」
「オラの肩に頭乗っけて、少し寝てろよ」
 ほれ、と肩を示す悟空。
 は少しだけ迷い――彼の進言に従う事にした。
 意地を張っていても仕方がない。
 ほんの少しのつもりで肩を貸してもらって、瞳を閉じた。
 これは本気で頭痛薬が必要になるかも知れない。


「ん……あれ?」
 寝てしまっていたらしく、気がついたら既にボートの上にはいなかった。
 体の下にあるふわふわした金色のものは、筋斗雲のようだ。
 起き上がると、ブルマや悟空たちが歩いている。
「みんな……ここ、どこ?」
「オッス! 、起きたんか。カラダは平気か?」
「うん、心配かけてごめんね。それで、ええと……?」
 ブルマが物凄く疲れた素振りで、今までの事情を説明してくれた。
 船を下りた時にカプセルケースを川に落とした事に気付き、始めはウーロンにバイクにでも変身してもらおうと思ったのだが、全く役に立たず。
 フライパン山に行くには、どうしても今歩いている場所(殆ど砂漠……)を行かねばならず、筋斗雲に乗れないブルマとウーロンに付き合って、悟空も歩いている、だそうだ。
 は船から悟空に抱っこされて下りてから、筋斗雲でずっと連れられていたのだと。
 自分ばかり楽してしまって、申し訳ない。
 あの頭痛は、今は引いていた。
「じゃあ、私も歩くよ」
「無理しないで乗ってなさいよ」
 ブルマが言うけれど、は筋斗雲から下りた。
 皆が歩いているのに、自分だけのうのうと楽していられない。
 無理をしないと約束させられ、そうして全員で歩き出す。

 ずーっとずーっと歩き続ける。
 適度に水場があればいいのだが、それもない。
 手持ちの水で、何とか誤魔化して歩き続ける。
 今のは普通の女の子程度の体力しかなく、歩き続けるうちにどんどん口数が減ってきた。
 一番最初にダウンしたのは、ブルマだった。
 都会育ちの彼女には、これは相当こたえたらしい。
 もう駄目とへたり込んでから、寝るまでが物凄く早かった。
 岩の影の部分で、ぐーぐー眠り始める。
「……今日はここまでだね」
 は汗を拭い、ぺたんと砂の上に座る。
 悟空もウーロンも同じように座った。
「オラ、腹減ったぞ……」
「この辺には、食べられそうなもの、見当たらないね……」
 周囲を見回してみても、木の実などは全くない。
 探せばあるかも知れないと、悟空が立ち上がった。
「なあウーロン、ブタ肉好きか?」
「好きなわけないだろっ!!」
 ……ウーロンは豚だしねえ。
 動くものがないかと遠くを見つめたの目に、砂煙と何かが映る。
「うん? 悟空、誰か来たよ」
「ん?」
 バイク(確か、ジェットモモンガっていう機種だったような)に乗った男性が目の前に来る。
 長髪の男性。
 あれ……ええと……。
 見た事があるような。
「なんだ? おめえ」
 男性はバイクから降りると、剣を取り出して立つ。
「ふふ……オレはこの荒野を根城にする、ヤムチャってもんだ」
 ヤムチャ!!
 は彼をまじまじと見て、納得した。
 髪が長くて瞬時に判断できなかったが、確かにヤムチャだ。
 の驚きなど露知らず、彼は口の端を挙げると片手を差し出した。
「ガキを相手にじゃサマにならねえが、生きて荒野を出たければ、金かカプセルをよこすんだな」
 おお、立派に悪人だ!
 仲間のヤムチャしか知らないとしては、なんだか妙な気分。
 悟空の横にいたウーロンは、ヤムチャの隣にいたネコのような生き物―――つまりプーアルと知り合いだった。
 南部変身幼稚園、という所に2人とも通っていたらしい。
 これはも初耳であるのだが、ウーロンは女の先生の下着を盗んで、幼稚園を追い出されたのだそうだ。
 今も昔も変わらんのね。
「ふん、まあそんな事はどうでもいい。早く金かカプセルを出せ」
 ウーロンは悟空に強いのかと確認し、彼が強いと言うと、急に強気な態度に出始めた。
 金もカプセルもやらない、とっとと失せろ。
 言うウーロンにニヤリと笑みをこぼし、ヤムチャはずらりと剣を抜いた。
 鋭い刃が抜き身になり、それだけでウーロンなどは威嚇されている。
 自分の世界では完全に仲間のヤムチャなだけに、は困り、悟空の横に立ったまま彼に声をかけた。
 ちなみに、ウーロンは既にブルマの寝ている岩陰に退避している。
「ヤムチャ……さん。あの、私たち、なにも持ってません」
「それはどうかな?」
 鋭い光りを放つ剣の先を、彼はに向けた。
「ヤム……きゃんっ!」
 いきなり引っ張られ、は幾分可愛らしい悲鳴を上げた。
 見れば、悟空が前に立っている。
 どうやら庇ってくれたよう。
に触んなっ! こいつ弱っちぃんだからな!」
 あ、相変わらず弱いを強調するなあ、悟空……ちょっとショックだぞ。
 ウーロンに引っ張られ、も岩陰に入った。
 悟空は如意棒を取り出し、臨戦態勢に入る。
 うぅん、大丈夫だろうか……ヤムチャが。

 悟空とヤムチャの戦いは、腹が減っている悟空が微妙に劣勢だった。
 ジャン拳を使ってヤムチャを吹っ飛ばすが、腹減り中の、力の落ちている攻撃では相手を怒らせただけで。
 雄叫びを上げて悟空に向かうヤムチャに、ははっと気付いた。
 確か彼は、一番最初は女の子が苦手だったと聞いた!
「ヤムチャーーー! 見なさーーーい!」
 はブルマを引っ張り、無理矢理彼女を起こすとヤムチャに見せる。
 途端、彼の顔は真っ赤になり、その場からプーアルと共に逃げるように立ち去ってしまった。
 ……ほ、ほんとにダメだったんだね、女の子。



2007・7・27