異転流転 5


 朝、どういうわけか悟空より早く目覚めたは、ブルマを起こさないようにベッドから抜け出て、外に出た。
 パオズ山から離れてきたが、まだ空気が澄んでいる。
 大きく息を吸い、吐いた。
 昨日、はブルマと一緒に寝た。
 元々シングルサイズのベッドだったため、眠るのに少々苦労しはしたものの、身体の疲れは充分取れている。
 うーんと伸びをして、頭をはっきり覚醒させた。
 天気は良好。
 これなら、ボール探しもはかどりそうだ。

……いるか?』
「悟空!」

 不意に現れた悟空の声。
 姿は見えないが、声だけ聞こえてきている。
『ちくしょう、ばあちゃん、みっけたけど姿は見えねえよ!』
「悟空、どこにいるの」
『オラ、占いババのトコにいんだけど……』
 この間は姿も見えたのに、どうして今回はダメなのだろう。
 はため息をこぼす。
、オラに惚れてねえか?』
「……全くもう。心配はそっちなの?」
 呆れた声を上げるに、悟空が口唇を尖らせるような気配がした。
『オラにとっては大事なんだっ』
「分かったってば。小さい悟空は悟飯みたいな感じがするから、大丈夫だよ」
 実はちょっと危ない気がするとは、さすがに言えない。
 恐らくは、もう1人の『』の気持ちのせいなのだろうけれど。
『もう少し、待っててくれな。オラ、ぜってえ迎えに行くから』
「うん、待ってるね」
『……あ、くそっ、もう時間切れかよ! 、好きだかんな!』
 ぶつんと回線が切れるような音がして、悟空の声がその場から掻き消える。
 好きだって言い逃げされたみたいだ。
 ――本当に、ちゃんと帰れるんだろうか。
 不安になるけれど、でも、悟空や父――界王や占いババが一生懸命になってくれているみたいだし、自分はこちらで精一杯やろうと決める。
「よし、頑張ろう!」
「ぎゃーーーーー!」
 ……なに、今の悟空の悲鳴は。
 家の中に駆けて入ると、ブルマと悟空以外の誰もいなくて、異常も特に見当たらなかった。
 ブルマは悟空に、寝ぼけるな、なんて言っている。
 寝ぼけていたにしては、凄い悲鳴だったけれど……?

 ブルマが身支度を整えている間、悟空は外に出て朝の運動をしている。
「ほら、こっち来なさい。髪の毛結んであげるわ」
「自分でできるよ?」
「いーのいーの。わたしがやってあげたいんだから」
 ちょこんと鏡台の前に座らされる。
 櫛を使って髪を上げられ、ポニーテール状に結わえられた。
「はい、おしまい」
「ありがとー」
「……それにしても、さっきから孫くん、誰かと喋ってない?」
 確かに。
 気になって外を見てみると、悟空が何か――ウミガメと喋っていた。
 あのカメは確か。
(……仙人さまの所のウミガメだよ、ねえ?)
 近寄ってみてみると、やはり仙人さまのカメのようで。
 カメに乞われ、ブルマがバケツ一杯の塩水を彼に飲ませる。
 ウミガメは、松茸狩りにきて他のメンバーとはぐれ、道に迷って1年はあちこちさまよっているのだという。
 へえ、こんな出会い方だったんだ……。
「海なんて、てんで方向違いよ。カメには相当の距離だし……」
 ブルマが地図を確認すると、現在の場所から南へ約120キロある。
 確かにカメには相当の距離だ。
「ふぅーん、じゃあオラが連れてってやるよ」
「えっ、本当ですか!?」
 カメが驚く。
も来るだろ?」
 悟空と離れてしまう気は、にはないため、うん、と頷いた。
 ブルマは時間がないし、完全な寄り道だとごねたけれど――出て暫くしたら追ってきた。
 あんな場所に1人でいられないよね、普通は。


 途中、妖怪(というか怪物)に襲われたりと、多少のアクシデントはあったものの、それ以外は特に問題なく海まで来た。
 ウミガメは感激し、ここで少し待っていてくれと言って沖へと消えて行った。
、海って見た事あったか?」
「うん、あるよ。ああ、飲んじゃダメだって! 辛いから!!」
「ぺっぺっ、か、辛ぇ!」
 だから辛いって言ったのに。
 ブルマは水着を持ってくればよかったとぼやきつつ、海の中へ入る。
 も同じように足だけを海に入れて、波と戯れる。
「なあー」
「んー?」
「なんでもねえよー」
 ニシシと笑う悟空。は首を傾げた。
 変な悟空。

 暫く浜で待っていると、遠くの方に何かが見えた。
「なあ、あれさっきのカメじゃねえか?」
「あんた、あんな遠くのが見えるわけ」
 ブルマが呆れたように言う。
 にもよくは見えない。
 のっそり近づいてくるそれが浜に到着する。
 カメの上に乗っていた老人が、浜に下りた。
「ハロー。グッドアフタヌーン」
「こんにちは、です」
 はぺこりとお辞儀をする。
「おうおう、礼儀正しい娘っ子じゃの。わしは亀仙人じゃ」
 ええ、知ってますよ。
 仙人はカメを助けたお礼にと、不死鳥を呼び出そうとして――どうも不死鳥は死んでいたらしいので、別のものをやる事にしたらしい。
「来るんだ! 筋斗雲よ!!」
 宣言した名は、筋斗雲。
 殆ど間を置かず、亀仙人の元に筋斗雲が飛んできた。
 なるほどー、ここで筋斗雲を貰うんだね。
 亀仙人は、見本を見せるつもりで筋斗雲に飛び乗る。
 ……飛び乗ったつもりで、そのまま突き抜けて思い切り尻餅をついた。
 だめだよ仙人さま……かっこ悪いよ……。
「オラが乗ってみる!」
 悟空が筋斗雲にひょいっと乗った。
「わはっ、乗れた! も乗ってみろよ!」
「うん」
 自分の次元では乗れるけれど、こちらではどうだろう。
 恐る恐る乗ってみると、足の下にはしっかり雲の感触。
 ああ、乗れたよ……よかった。
 何となく査定をされている気持ちになるのは、どうしてだろうか。
「行くぞー!」
「うわ、悟空っ、急に……!」
 いきなり凄い勢いで飛行を始めた悟空に、慌ててしがみ付く。
 舞空術が使えない今、振り落とされたら大変だ。
 暫しの間空を飛び、仙人のところへ戻ってきた。
「凄いなあこれ、ありがとうっ」
「よかったね悟空」
 は微笑み、筋斗雲から下りようとした。
 その手を悟空が掴む。
「別に降りねえでいいぞ」
「そ、そう?」
「ふぅむ、そっちの娘さん……だったかな。お前さんには何をやろうかのう」
「私ですか? 別にカメさんを助けたわけでもないですし、いいですよ」
 それに、後でお世話になるはずだしね。


 亀仙人からドラゴンボールを受け取ったらしいブルマ。
 一旦平地にカプセルを出し、準備をしてから改めて出発する事に。
 は筋斗雲と一緒に外で待っていたのだが、悟空が入って暫くし、いきなり悲鳴が聞こえてきた。
 最初はブルマの、次は悟空の。
 出てきた2人を見て、は目を瞬く。
「……どうしたの?」
「こいつっ、人のパンツ脱がしたのよ! 信じられない!!」
 はじとっと悟空を見た。
 人のパンツ脱がしたんかい、あんたは。
「悟空のえっち」
 ぷいっと横を向くと、悟空は情けない声でを呼ぶ。
 ああもう……こういうトコは同じなんだなあ……。



あれこれ改変しつつ進みます。…と思います。
2007・6・29