注意:このシリーズの話は、悟チチ好きさんには物凄くお勧めしません。 チチさんが痛いです。ちょっとドロっとしたのが苦手な方はすぐさま戻りましょう。 見てから文句言われてもどうしようもありませんので…よろしくお願い致します。 「はぁー、見事な食いっぷりだなぁ」 呆れ声で言うチチの横で、ちまちま食事をしているは苦笑を禁じえない。 確かにチチがそう言うのは当然で、皿の上に山となっている料理の数々を、次から次へと胃袋に収めてゆく2人の悟空の姿は、ある意味、壮観ですらある。 皿の上に乗った数ある料理がなくなっていく姿を見やりながら、はチチに小さく呟いた。 「ご、ごめんなさい……」 多重次元 5 すっかり食事を終えた悟空2人は、風呂に入ると、さっさと与えられた寝室へと入っていった。 一応客分とはいえ、さすがには、自分の夫が残した膨大な汚れ食器を、放り出していくわけにもゆかず、チチと一緒になって食器の後片付けをしていた。 けっこうな量の皿やお椀だが、2人でかかれば時間も半分である。 チチは食器を拭きながら、大きくため息をついた。 「まったく……悟空さは、なんでもひとりで決めちまうんだからな」 ブツブツと言う彼女。 は申し訳なさで肩をすくめた。 泊まる所がある、とか、自分たちでなんとかできるからと言えば、こんなことにはならかっただろうという、ちょっとした負い目があるからだ。 チチの言葉に微妙な棘を感じるのも、多分気のせいではない。 「ご迷惑おかけして、本当にごめんなさい……」 気落ちした声に、チチが苦笑する。 「あ、ああ……いや、おめえさんに文句を言ってるわけじゃねえだよ」 「でも、迷惑をかけてるのは事実ですから」 とて主婦の端くれ。 食いぶちが増えることの大変さは、分かるつもりだ。 なるべく早くお暇しなければと思うのだが、どれほど時間がかかるのかは不明瞭。 急ピッチでラインを繋げて、失敗して、また別のどこかに飛んで行ってしまってはお話にならない。 考えながら皿をちゃかちゃかと洗っていると―― 「なんだか、妙な感じだべ」 チチが呟いた。 「なにがですか?」 「悟空さの隣に、自分がいない世界があるだなんて、ちっと信じられねえだよ」 ――これには苦笑するしかない。 心境は似たようなものである。 「とにかく、なるべく迷惑かけないようにしますね」 与えられた適度な広さの部屋には、左右の壁にひっつくようにして、ベッドが置かれていた。 部屋の真ん中には仕切りがあり、場合に応じて二分できるようになっている。 先に部屋に入ったチチは仕切りを閉じ――既に眠りに入っているのだろう――時折衣擦れの音がするだけで、他はこそりとも音を立てない。 静かな薄闇の中、は上着を脱いでインナーとズボンだけになり、もそもそとベッドに潜り込む。 冷えた布団を肌に感じながら、ふぅ、と小さく息を吐いた。 ――なんだかとても疲れた。 気にしなくていいのかも知れないが、チチのことが気になって、神経を尖らせていた自分に改めて気が付く。 (……眠らなくちゃ。明日からは力を使わなくちゃいけないんだから) 体は疲れているのに、頭が目覚めているのか、なかなか睡魔がやってきてくれない。 やるべきことは分かっているし、そんなに頭を覚醒させていなければいけないことなどないのだけれど。 もう一度息を吐き、ころんと寝返りを打つ。 仕切りの方に背中を向けて、丸くなった。 目を閉じてじっと睡魔を待つものの、じりじりとした焦燥感が体を蝕んでいるようで、どうしても寝付くことができない。 「……はぁ」 嘆息し、は体を起こした。 閉められたカーテンの間から、月の光が薄く差し込んでくる。 これで雨でも降っていてくれたならば、無理矢理にでも寝てしまおうという気になるのだろうけれど。 なるべく足音を殺し、気配を覚られぬよう注意を払い、サイドテーブルにある『時空転移マシン』を持って部屋を出る。 そのままリビングを抜け、外へ出た。 出てから、上着を脱ぎっぱなしだったことにきづいたが、誰がいるわけでもないと思って気にしないことにする。 家からほんの少し離れたところにある木に寄り掛かり、は夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 マシンを置くと、そのまま木の根元に座り込む。 すぅ、と息を整えて集中すれば、弱々しいラインが見える。 は天界でそうしたように、その線に向けて異能力を――補強する形で――放射した。 力を送り続けていれば、徐々に線が太くなってゆく。 けれどやめてしまうと、あっという間に線は先細りしていってしまう。 「うーん。どっから出てるのか確認して……そこにある程度溜め込んでおかないと駄目かなぁ」 呟き、マシンを見やる。 幸いにして月の光は明るく、機械の各部が良く見える。 どこにラインが繋がっているのかを確認し、その場所に向けて力を放出すると、線はある一定の時間、細々ながらも光を保持し続けていた。 この方法ならば、悟空と自分、2人を元の場所に戻すことは可能だろう。 2人分を送るほどの力をためるのに、少し手間取るだろうけれど。 先細りしたライン。 まずは、それに沿うように力を乗せた指を動かし、少しずつ少しずつ、線を太くしてゆく。 こちら側へ飛んでくるのと同じ太さか、それ以上が必要だろう。 少なくとも、親指大の太さが必要である。 今は、髪の毛ほどの細さしかない。 蓄積するべき場所に力をある程度蓄えながら、光の帯を強く、太くしてゆく。 ――しかし。 「っ……ふぅ」 手を地面につき、前かがみになって荒い息を吐く。 本来なら大して苦痛でもないはずの力の解放が、やたらと体にひびく。 息を整え、後ろにある木に背中を預けた。 「そういえば……空間移転の能力を……こんなふうに……自分外に使うのって……初めてかも」 今までそんなことをする必要がなかったからだが、これは案外の体に負担をかけるようだった。 とはいえ、自分以外にこの状況を打破できる力がある者などおらず。 この世界の悟空やチチに、不必要な迷惑をかけないためにも、己の体に鞭打とうが、一刻も早くラインを完成させる必要があると、は思っていた。 ――結局その日、は時空転移マシンに力を与え続け、貸してもらったベッドの上ではなく、木の根元で樹木に寄りかかるようにして眠ってしまうのであった。 もちろん、翌日、チチや悟空2人に呆れられるのであったが。 2012・9・9 |