注意:このシリーズの話は、悟チチ好きさんには物凄くお勧めしません。
チチさんが痛いです。ちょっとドロっとしたのが苦手な方はすぐさま戻りましょう。
見てから文句言われてもどうしようもありませんので…よろしくお願い致します。



多重次元 4




 天界からの帰り道、ため息をついているに悟空さんが問う。
「なあ、おめえたち帰るのに時間かかんだろ?」
「うん……少なくとも2日は、確実にかかりそう」
 たった2、3日のために、住居カプセルを買うつもりはない。
 第一、この次元はや悟空のそれとは違うのだから、銀行に行っても貯蓄は全くないし、第一現状にしたってお金がない。
 何日かの間で解決するだろうから、パオズ山で隠遁生活するか、神殿にお世話になるか――どちらにしても、悟空に相談する必要がある。
 考えていると、悟空さんがひとつの提案をした。
「じゃあさ、オラんち泊まれよ」
「へ? で、でも……チチさんが」
 少なくとも自分は歓迎されないのではないか――と思う。
 己とて、自分の夫そっくり男性の横に、別の女性が並んでいるのは、複雑な気分がするので。
 だが悟空さんは明るく笑い、気にするなと言い放つ。
「じゃ、じゃあ……えっと、チチさんに聞いてからにするね……」
「別にオラは構わねえんだけどなぁ」
 女心の複雑なところである。


 帰りの空の上。
 橙から紺に変わりつつある空の色を横目にしながら、悟空はに声をかける。
「スピード速えけど、こええか?」
「ううん平気。私用の筋斗雲がここにもあったらよっかたんだけどね……」
 悟空は驚き、彼女の方を見やった。
 は黒髪に夕陽の色をうつして、悟空をきょとんとした様子で見やる。
「どうかした?」
「おめえ、筋斗雲もってんのか?」
「うん。カリン様に貰って。でもここじゃ駄目みたい」
 苦笑気味に言う彼女。
 ――驚いた。
「じゃあ、はカリン塔に登ったんか」
「違うよ。えっとね、天界からカリン塔に降りたんだけど……説明が難しいなぁ」
「ふぅん。ま、いいけどさ。戦ったりするんか?」
 うん、と彼女はごくごく簡単に答えた。
「といっても、たまに悟空――うちの旦那様と、組み手したりする程度だけどね」
 えへへと微笑む彼女。
 の夫が羨ましいと、悟空は思った。
 チチはどうも武道に関して、嫌悪――までは行かないにせよ、あまり快くは思っていない節があるので。
「おめえ、つええのか?」
「まさか。悟空とタメ張れるほど強くないよー。頑張ってはいるんだけど」
 全然敵わないのだと彼女は言う。
 それでも、組み手の付き合いをするほどなのだから、そう弱いものでもないのだろう。
「オラ、ちょっとおめえと戦ってみてえなぁ」
 彼女はうーんと唸り、
「でも、せっかく自分がいるんだから、うちの旦那様と戦ってみた方がいいんじゃないかなぁ。――あ、チチさん怒るかな」
 余計なことを言ったかもしれないと、肩をすぼめる。
 そうか。
 せっかく自分がいるのだから、そちらと手合わせすればいい。
 普通に考えたら、できたものでもないのだし。
 時間があるかどうかは、分からないけれど。
「帰ったら聞いてみっか。……さ、あんまチチのこと気にしなくてもいいんじゃねえか?」
 先ほどから、ひどくチチを気にしているらしいに告げるが、彼女はバツが悪そうに笑う。
「だって……いろいろ気にしちゃうんだもん」
「なにが」
「悟空さんはチチさんの夫で、でももうひとりの悟空は私の夫で。ちょっと変な感じがするし――。悟空さんは気にならない?」
「……なんか気になるんか?」
 さっぱり彼女の意図が分からないので、そう言ったのだが。
 は苦笑した。
「えっと、だから、チチさんが自分じゃない自分の隣にいること」
「? 別に……気になんねえけど」
「そ、そうなの?」
「おめえんとこのオラは、気にすんのかなぁ」
 うーんと考える素振りを見せ、答えが見つからなかったのか、は頬を掻いた。
「あんまり歓迎はしない気がするけど……どうかなぁ」
 の話を聞いていると、自分との夫である自分は、姿かたちはそっくりにせよ、内面的には結構違うのかも知れなかった。
 少なくとも自分はチチの隣に誰がいようが、あまり気にしない。
 ましてや自分そっくりの人間が隣にいるのなら、なおのことだ。
「じゃあさあ、2日とか3日とか、間あけて修行に出たりするか?」
「うちの旦那さま?」
「ああ」
 これにはすぐに答えが返ってきた。
「ううん、ないよ。結構心配性なのかな……。私は仕事を持ってるんだけど、あんまりにも帰りが遅いと、迎えに来てくれたりするし。まあ、以前目の前でいきなり消えたりした前科があるから、分からなくもないんだけどね」
 ふ、と息を吐く彼女。
「うーん、どちらにせよ、悟空のほうが家を完璧に空けちゃうのは、私には考えられないかも。出かけるなら出かけるってちゃんと行っていくし……それに私には物理的な距離ってあんまり関係ないから」
 首をかしげる悟空に、は言う。
「私ね、悟空のところなら大体は飛んでいけちゃうの。なんていうのかなぁ、ここからパッと消えて、悟空の側に現れる、っていう移動の仕方ができるのね」
「へぇ〜、便利だなぁ」
「でもないよ。悟空限定だから。そういえば、チチさんは仕事してるの?」
「いんや。牛魔王のおっちゃんの財産があるから平気なんだと」
「いいなぁ」
 羨ましいと言う彼女。
 悟空が物凄く食べるから、結構大変なんだよねぇと言いながらも、幸せそうに微笑んでいた。


「たでえまー」
「今戻りましたー」
 返ってきた2人を、悟空とチチが迎えた。
 悟空はに即声をかける。
「どうだったんだ?」
「うん……神様からマシンを借りてきたんだけどね、少し時間がかかりそう。」
 後を引き継ぐ形で、
「なあチチ、2人をオラんちに泊めっけど、構わねえよな」
 ともう1人の悟空が言う。
 チチは眉を潜めた。
 ――が、出てゆけとも言い辛いのか、大きくため息をつく。
さんは右の部屋。悟空さたちは左の部屋で、2人で寝てくんろ」
「すみません、なにかあればお手伝いしますから」
 深々と頭を下げるに、チチは苦笑した。
「別にかまわねえだよ。食料調達は、男どもに頑張ってもらうでな」
 2人の悟空は顔を見合わせた。


 こうして。
 短い間であるが、少し奇妙な同居生活がはじまるのであった――。


2012・6・30