:注意:このシリーズの話は、悟チチ好きさんには物凄くお勧めしません。 チチさんが痛いです。ちょっとドロっとしたのが苦手な方はすぐさま戻りましょう。 見てから文句言われてもどうしようもありませんので…よろしくお願い致します。 多重次元 3 「じゃあ、行ってくる」 チチにそう言い、悟空さんは筋斗雲を呼び出し、飛び乗った。 悟空さんはの手を引っ張ると、筋斗雲の上に乗せる。 の眼下には、己の夫である悟空と悟空さんの妻のチチがいる。 「、気ぃつけろよ?」 悟空に言われ少々苦笑した。 「うん。でも大丈夫だと思うよ? 悟空さんがいるから」 「まあ……そうだな」 微妙な表情で切り返された。 チチの方は、今帰ってきたばかりでまた出て行くのかと、多少機嫌が悪い感じがある。 申し訳ないとは思うのだけれど、悟空さんのほうは全く気付かない様子だ。 「それじゃあ、行ってきます」 天界に向かいながら、下の景色を眺めやる。 見た感じ、当然ながら変わったところは見受けられない。 風を切り空を翔る筋斗雲。 そのふんわりした雲に触れても、いつもや悟空が使っているものと、なんら違いはない。 ただ、がカリン様から貰った筋斗雲は、呼んでも来てくれなかった。 この次元が違うから、当然といえば当然の話だが。 とても不思議な感じがする。 「……この世界の私は、一体どうしてるんだろう」 ぽつりと呟く。 の言葉を聞いていたのか、悟空さんが後ろを向いた。 「おめえさあ、どこでオラと会ったんだ? オラは全然会ったことないんだけどよ」 「それじゃあ、こっちの私は親に捨てられずにいるのか、それとも空間を渡らないでいるのか……どちらにせよ、修行もしてないんだね、多分」 ふむふむと勝手に納得をしたように頷くに、彼は首をかしげる。 「捨てられた? 空間??」 彼にとっては疑問だらけだろう。 どう言えば簡単に伝わるか――少し考え、結局そのまま伝えることにした。 「えっと。私、生まれはこの地球で、親に捨てられて別の地球で育ったんだけど。んと……そうだなぁ……夢の中でずっとこの地球の夢を見てて。ある時、こっちにやって来て、そこで悟空――私の夫の方ね――と会ったの」 「いつ会ったんだ? 天下一武道会とかか?」 「子供の頃。そうだなぁ……悟空さんが同じとは限らないけど、亀仙人さまのところで、クリリンと一緒に修行してた時に」 「そうなのかぁ」 ふぅんと頷く悟空さん。 彼が、どこか釈然としない表情をしているのに気付き、首をかしげる。 「どうかした?」 「……なんで、オラんとこには来なかったんだろうな」 「なんでって」 ――分からない。 もしかしたら、この世界の自分はイジメなど受けず、異世界で平和に暮らしているのかも知れなかったし、そもそも異能力などというものを、顕現させていないのかも。 親に捨てられていなければ、この世界のどこかにいるはず――だとは思うのだが。 「もしかしたら天下一武道会で、悟空さんの姿を見たりはしてるかも知れないけどね」 平和な生活をしているのならば、それも可能性としては薄いが。 そう考えると、自分と悟空が出会って――ましてや結婚したなどというのは、物凄い低確率の上に成り立っているわけだ。 「もうひとりのオラんトコにはさあ、天下一武道会でチチ、来なかったんか?」 天下一武道会。 悟空が(ついでにも)チチと戦った回のことだ。 悟空さんが審判を待つように、じっとを見やる。 あまりにじぃっと見つめられて、頬が熱くなるのを感じた。 元々、あまり人に見つめられるのに慣れていない上、好きな人――夫とまるまる同じ同一人物状態――に顔を寄せられるとあっては、赤くなるなというのに無理がある。 結果、少し俯き加減で答えることになってしまった。 別にやましいところはないのだが。 「んと……チチさん、来たよ」 「オラ、ケッコンの約束してたんだよなあ〜。忘れてたし、食いモンだと思ってたし。そっちのオラもそうだったか? てか、オラおめえもケッコンの約束したんかなぁ」 完全に後ろを向いた悟空さんと、向き合って空の上で会話。 な、なんか変。 「うちの悟空も結婚のこと、忘れててついでに食べ物だと思ってたみたい。私とは結婚の約束なんてしなかったよ」 「チチと、そのまんまケッコンしちまわなかったんか」 「……うん。武道会の途中で逃げた私のこと――もちろん、戦いが終わった後だけど――追っかけてきてくれてね。出会った場所でプロポーズされたの」 今思い出しても涙腺が緩みそう。 自分では笑んでいるつもりのだが、悟空さんにはどう映っているのか。 驚いているような、微妙な表情の彼だけれど。 変な顔してないだろうな、と思わず自分の頬に触れてしまったりする。 「そっかぁ……オラ、おめえのこと、追っかけていったんだなぁ」 「すごく嬉しかった。あの時追いかけてきてくれなかったら、私どうなってたか分からないもん。……なんか、悟空さんに悟空のこと言うのって、ちょっと変だね」 くすくす笑うと、彼も笑み――ふと呟く。 「――――」 「え、なに?」 風の音にかき消され、声が聞こえなかった。 問い直すが、彼は 「んー。なんでもねえ」 言葉を濁して進行方向を向く。 「さってと! 少し急ぐか。つかまれよ」 「う、うん」 彼の背中あたりの服を掴む。 悟空さんは後ろを見やり、苦笑した。 「もっと、ちゃんとつかまれって。抱きついちまっていいからさ」 内心でチチに謝りつつ、は言われたとおり、背中から抱きついた。 「おっし。じゃあ行くぞー!」 「はーい」 筋斗雲はスピードを上げて、天界へと向かった。 天界に着いたは、悟空がミスター・ポポと神様を呼んできてくれる間、外で静かに風景を見て待っていた。 神様の神殿も、ミスター・ポポが作った花壇も、みごとなまでにそっくり――否、同一の物だ。 自分と悟空だけが異分子で。 見知った風景の中なのに、なんだか寂しい気がする。 「おーい、ーー!」 神殿の中から悟空が手招きをし、はそれに応じて走って中へ入る。 一室に案内され中へ入ると、神様とミスター・ポポが椅子に座っていた。 「こ、こんにちは……初めまして……ですね」 ぎくしゃくしながらお辞儀をすると、神様が手を振って笑んだ。 「話は悟空から聞いたが、どうも要領を得ん。おぬしの心を読ませてもらうぞ」 「はい、どうぞ」 多分こうなるだろうと踏んでいたは、すぐさま頷いた。 「……なるほどのう。別の次元からやってきおったか。時空転移マシンが原因とはな」 神様は頷く。 が言いたいことも、そっくりそのまま理解してくれているようで、ポポに言ってマシンを持ってこさせた。 「ありがとうございます。……えっと、少し調べさせていただきますね」 机の上に置かれた転移マシンに意識を集中し、異能力の気配を探る。 線が一本。 けれど、それは自分たちの次元で見たものよりも薄く、しかもブツ切れになっている。 が力を補強してやると、少しの間は濃くなるものの――。 閉じていた瞳を開き、嘆息する。 「どうかしたか?」 悟空さんに問われ、力なく頷く。 「力を補強すればラインが繋がるみたいだけど……時間がかかる、と思う」 困ったように言うに、神が進言する。 「とやら。その機械をおぬしに貸し出そう」 「い、いいんですか?」 「うむ。使い終わったら、悟空が持って戻ってくればよい」 ありがとうございます、と丁寧にお辞儀をし、マシンを借りることにした。 2012・3・11 悟空をさんづけで書くと三人称なのか一人称なのかがサッパリ分からなく…。 しかし悟空が2人出てる場面だと、区別が全く付かなくなるしなぁ……と思いつつ。 孫さん、か『悟空』にすべきかも。 |