落明愁夢 9



「さてと。オレ、ちゃんの顔見に行ってくる」
 今まで悟空と一緒にいたクリリンの言葉に、悟空も彼についていく事に決めた。
 部屋を出、廊下を歩いていく。
 丁度、話を終えたらしいブルマとが廊下に出てきた。
 そこからかなり離れた部屋から、克也とも出てくる。
ちゃん!」
 クリリンの声にが顔を向け、少し困ったように微笑んだ。
「……久しぶり、かな?」
「まあ、オレにすると久しぶりでもないんだけどな」
 実際、クリリン側からすると、が天下一武道会場から消えて一週間程度だ。
 久しぶりという感じではない。
 あちらとこちらでは時間にずれがある。
 の後ろからが声をかけ、クリリンに自己紹介をした。
 克也もそれに続いて自己紹介をする。
 そうしてから、ブルマが香坂兄妹に提案をした。
「ねえ、買い物行ってきなさいよ。服も何もないでしょう?」
「でもお金が」
 渋い顔をする克也に、ブルマは頷く。
 にカードとお金を持たせた。
、付いてってやって」
「じゃあオラも……」
「悟空さ!」
 一緒に行こうと言おうとした矢先、チチの声が響いてきた。
 その場にいた者たちが、一斉にそちらを向く。
 彼女の可愛らしかった面は、の姿を見止めた瞬間に険しくなり、慌しく悟空に近寄るとその腕を取る。
 引っ張って行こうとしていたが、それは成功しなかった。
 悟空を動かそうとするには、力が足りなかったのだ。
 仕方なくチチはを睨みつける事で、とりあえずの溜飲を下げる事にしたようだ。
「あんた、戻ってきただな」
「……不本意ながら、でしたけど」
「言っとくけどな、悟空さはおらのもんだべ。おめさんがおら達の仲を引き裂くなら、容赦しねえだ」
「チチっ!」
 悟空が鋭い叱責の声を飛ばす。
 しかしチチは退かない。
 は小さく深呼吸をし、真っ直ぐにチチを見つめた。
「ごめんなさいチチさん。でも、私……自分に嘘をつくのを止めようと思うんです。我侭ですけど、出来る限り卑怯者になりたくないから」
 それは宣言のようなものだった。
 悟空は目を瞬き、ブルマ、クリリンは嬉しそうに笑み、克也とは複雑そうに、そしてチチは眉を潜めた。
「クリリン、一緒に来てくれる?」
「あ、ああ。いいとも」
 と克也、そしてクリリンは一同を背に、外へと向かった。
 悟空は自分が選ばれなかった事に、つまらなさそうな顔をしていたが。


 初めてこの世界の外に出た香坂兄妹。
 やはり、車が空を飛んでいる事に、物凄い驚愕の表情を浮かべていた。
 完全におのぼりさんな2人を連れ、とにかく買い物を済ませる。
 買い物をしている間は、何も考えずに済んでいたので、は幾分、気が楽になっていた。
 あれこれと買い物をし、とっぷり日が暮れてから、やっとカプセルコーポに戻ってきた。
「お腹すいたー」
 の言葉に賛同するクリリン。
 克也は荷物を両手にし、苦笑した。
「確かに腹が減ったな。何か食べてくればよかったか」
「まあ、あともう少しの我慢だし」
 が言い、カプセルコーポの敷地内に入る。
 エレベータを使って上の階に上がり、リビングへ通ると既に料理が出来ていた。
 ブルマの母が用意してくれたものだった。
 テレビを見ているブルマに、が問う。
「他はもう食べたの?」
「ええ、食べたわよ。孫くんなんて2回目の夕食だったけど。あ、そうだ。
「ん?」
「あんた、明日フライパン山に連行だって」
 いきなり告げられた一言に、は首を傾げる。
 フライパン山――確か以前見た地図では、ここ、西の都からかなり離れた場所だった。
 どうしてそんな場所に?
 疑問を読み取り、ブルマが苦笑いする。
「チチさんの家があるのよ。で、孫くんが牛魔王っていう……チチさんのお父さんと話をするっていうんで。も強制連行になったわけ」
「どうして」
「さあ。でもあんまり考えない方がいいわね。……多分、良い意味で連れてかれるんじゃないだろうから」
 だろうなーと思っていただけに、あまり嫌な思いはしなかった。
「ね、あたしも付いていっていいかな?」
も?」
 は驚いて目を見開く。
 克也は当然のように止めたが、彼女の決意は固かった。
「……いいんじゃない? 仲間がいた方が気が楽でしょ」
 ブルマの進言で、まだ渋っているを無視して、は付いていく事に完全に決めた。
 クリリンは食後のコーヒーを飲みながら、また何かが起きそうだと小さく息を吐いた。




2006・6・14