落明愁夢 5



「オラがあっちへ……の世界へ?」
 ブルマの言葉に悟空は目を瞬いた。
 彼女は頷く。
「そう。あんたが行って連れてくるのよ」
「け、けどブルマさん、ちゃんの世界に行くって、どうやって……」
 クリリンの質問にブルマは息を吐く。
「詳しくは孫くんに話すけど。クリリン、悪いけど父さんを呼んできてくれる? 一階の庭にいると思うから」
「え、はい。……後で話を聞かせてくださいよ」
 わかったと頷いたのを確認すると、クリリンは部屋一階に向かった。

 残ったブルマと悟空は、連れ立って研究室に向かった。
 向かう間に説明は一切なく、悟空はどうすればいいのかとやきもきする。
 扉を開き、機械があちこちに置いてある部屋の内部に入った。
「……ブルマ、一体どうすればいいんだ?」
「まず、聞いておきたい事があるの。のお父さんは、あんたを彼女に会わせる事を認めてるわ」
 一拍置き、言葉を続ける。
「でもわたしは全面的に認めてるわけじゃない。だから聞かせて。あんた、をどうするつもり」
 怖いほど真剣な瞳で見つめるブルマ。
 悟空は迷わず答える。
「結婚する」
 そこまでの答えを希望していたわけではなかったブルマは、目を軽く見開いた。
 大事にするとか、もう少しソフトな感じを想像していたのだけれど。
 彼は照れもせずに言ってのけた。
 結婚するのだと。
「……が許してくれっかわかんねえけど。でも……オラ、あいつが好きなんだ」
「チチさんはどうするのよ」
「あいつには悪ぃけど……約束破るのもホントに悪ぃと思ってっけど。でも、じゃない奴と一緒にずっと住むなんて……やっぱできそうにねえし」
 ――ホントにコイツは気付くのが遅い。
 ブルマは苦笑し、小さく息を吐く。
 ホッとしたように。
 同時にこれからの事への不安を吐き出すように。
「そう。それならわたしもちゃんと協力するわ。……説明するからちゃんと聞いて」
 ブルマは身に付けていた蒼い石がトップについたネックレスを首から外した。
 ネックレスを見た悟空が首を傾げる。
「……これ、が着けてた」
「そう。あの子が持ってたやつよ。の父さんが言うにはね――」

 の父親が言うには、異世界への移動は現在の科学力で可能だと言う。
 ただし、条件が揃っている場合のみ。
 第一に、移動装置が必要である事。
 異世界から微量に流れ込んでくる特殊なエネルギーを受け、それを道として移動できるよう機械が必要なのだ。
 第二に、異世界と現在の場所を繋ぐ『物品』がある事。
 これは、のネックレスがその役目を果たしてくれている。
 第三に、異世界を行き来できるほどの『意志力』がある事。
 この地球より異世界の地球は質量が大きいらしく――滝を昇るようなもので――確たる意志がなければ、揉まれてしまって別の世界に届かないという。
 普通であれば大問題の、第一、第二がクリアできている。
 悟空の気持ちひとつでどうとでもできる現状は、すこぶる幸運だといえよう。

「……ま、今からわたしと父さんで装置を作るから……それであんたに少しの間、そこの台の上に寝ててもらうわ」
 首を傾げる悟空にブルマがため息をつく。
「あの子の世界へ飛ばしたあんたを追跡するための装置を作るためよ。しのごの言わずさっさと横になる」
「お、おう……」

 すぐにブリーフ博士が加わり、尋常ではないスピードで作業が進められた。
 その間ずっと横になっている悟空は暇そうである。
 腕やら頭やらにコードがつながれた状態のまま、悟空はブルマに問う。
「なあ、オラ、どうやって戻ってくりゃいいんだ?」
の父さんが言うには、ネックレスが繋がりになるって。行く時にあんたに持たせるから、なくすんじゃないわよ」
「ああ。それにしても……あいつの故郷ってどんなトコだろなぁ」
 気楽そうに考える悟空に、ブルマは深く深くため息を落とす。
「それより、をどうするか決めてるわけ?」
「そりゃ連れてかえるに決まってるさ」
「イヤだって言ったら?」
 悟空の眉根が寄せられる。
「……一生懸命説明して、オラの気持ち分かってもらうさ」
「どうだかね……チチさんとの事もなんだかんだと決着つけてないんだし?」
が帰ってきてからでねえと、チチの奴なんも聞かねえって言い張ってさあ」
「……まあ、やってみなさいな。わたしは、あんたとがくっ付いてくれた方が嬉しいから、協力するけどね……あんまり、に酷い事しないでよ」
 言い、それっきり作業に没入してしまった。

 作業を始めてから2日。
 恐るべき勢いで、異世界転移装置を作り上げた。
 元々、が里帰りできないかとブルマが構想だけは練っていたものらしく、そこにブリーフ博士と界王の知恵が加わり、なんともあっさりと装置は完成したのであった。

 のネックレスを首にかけ、悟空は装置の上に乗る。
「よし。それじゃあ行ってきなさい。……いい? の家とそのネックレスが帰るための鍵だからね」
 悟空が頷いたのを見て、ブルマが装置を動かし出す。
 ぶぅん、と空気が振動する音がし、悟空の足元から身体がなくなっていく。
「おわ、なんか気持ちわりぃなぁ……」
「しっかりやってきなさい」
 ブルマの言葉がいい終わるのを待っていたかのように、彼の姿は綺麗サッパリその場からなくなった。
「……ほんと、しっかりしてよ?」





異世界へ行きます。そしてあっさりと戻ってきます(汗)
2006・6・6