※最終警告
自己責任で読んで下さいませ。ドロドロしてたり、チチさんが痛かったり酷かったりしますよ。
宜しければずずいと下へどうぞ。


















 もう、見たくない。
 内心の声に呼応したかのように、結末という名の足音がやって来た。
 ――そんな気がした。


落明愁夢 1


 やっとで再会できた大好きな人――孫悟空は、2年ほど前と比べると断然背が高く、声が低くなって、とても男らしくなっていた。
 は2年越しの再会を喜び、彼も喜んでくれた。
 これからは今までみたいに、離れていなくてもいいんだと――そう思っていた。
 なのに。

 天下一武道会の武舞台で悟空が戦い、勝利した女の子は、彼と結婚の約束をしていた。
 女の子の名前はチチ。
 は知らないが、一緒に観客として武道会を見ていたウーロンやブルマに聞くところによると、牛魔王という人の娘で――ずっと以前、と悟空が出会う前、小さな2人は結婚の約束をしていた。
 悟空は結婚というものを、食べ物かなにかと勘違いしていた様子だったが、チチの方はずっとずっと、結婚する日を夢見ていたという。
 様子を見ていたヤムチャに、結婚というのはずっと一緒に住むことなのだと教えられ――悟空はそれを呑んだ。
 単なる結婚の約束だったものが、約束ではなく事実になる。

 ケッコンするかと軽く悟空が言い、チチが嬉しそうに微笑み頷く。

 知らず、よろけかかる
 隣にいたブルマが、慌てて彼女の身体を支えた。
!」
 ――砕ける。壊れてしまう。
 今まで自分を支えてきた、ぜんぶのことが。
 指先が震え、いくら止めようとしても一向に治まらない。
 どこも怪我なんてしていないのに、身体のあちこちが痛い気がした。
 現実感がない。
 自分にも、世界にも。
 支えてくれているらしい、ブルマの手の温もりすらも。
 このまま身体が浮き上がって、どこかへ消えるような気さえする。
 自分がどこにいるのか、分からない。
 なにを見ているのかも。
 呆然としているの思考に、唐突に声が割り込んできた。
 ――父親――界王の声だ。
『落ち着け! 現(うつつ)を手放してはならんぞ!! 地に足をしっかりつけるんじゃ!』
 父の声に頷く。
 大丈夫、私はちゃんとここに立ってる。
 この場所に。
 この地球に。
「しっかりしてよ!」
 ブルマの声にハッとなった。
 いつの間にか俯いていたらしい顔を上げ、ブルマを見やる。
 ひどく不安そうな、泣き出しそうな顔。
 彼女に微笑みかけ、は苦笑する。
 ウーロンや亀仙人たちが心配そうに見つめる中、彼女は小さく息をついた。
「……ブルマ、みんな、ありがとね」
……あんた、一体」
 どうにかなってしまうんじゃないかという気持ちらしいブルマの、支えてくれていた手をそっと外す。
 ふ、と武舞台を見れば、袖に引っ込もうとしていたらしい悟空がに気付いたらしく、側に近づいてきた。
 チチも一緒に。
 は、ゆるりとした動きで、観客席から武舞台側へと入り込んだ。
 靴の後ろに感じる土の感触は、自分がこの世界にいることの証。
 武舞台の上からを見る悟空に、チチが怪訝そうな声を上げた。
「悟空さ、このオナゴはなんだべ。知り合いか?」
「ん? ああ。っつって――。……な、なあ。どうしたんだ?」
 の表情が曇っているのに気付き、悟空が眉を潜める。
 ――本当、どうしたんだろう。
 彼の性格はそれなりに分かっていた。
 こんな日が来るかも知れないと、想像くらいはつきそうなものだったのに。
 自嘲気味に笑み、まっすぐに悟空を見やる。
 彼はいつもと変わらなくて、男らしくなった今でも昔と雰囲気はまるで同じで。
 ――大好き。
 あなたが手の届かないところにいても、想いはずっと変わらない。
 今までがそうだったように。
 口にすることはもうできないけれど……本当に好き。
 好きだった、なんて過去形にできないぐらいに――。
「……?」
 その声も、その姿も――今まであったこと全部、忘れない。
 怪訝そうにしている悟空に向かって、はゆっくりお辞儀をした。
 見つめる彼の目の前で、の姿が薄らいでゆく。
「な――っ、っ! まさか、また……消えちまうのか!?」
 は答えない。
 ただ笑顔で――自覚はないけれど瞳から雫を零し――足の先から消えてゆく。
 本当に、現実感が欠如していく。
 身体は遥か異世界を目指し、この世界から自身の存在を切り離していく。
「なんでだよ! 折角会えたばっかだってのに――」
 ごめんね。
 今までありがとう。
 顔を上げ、最後に一言告げて、彼女は夢のように消えうせた。

『さよなら』

 そう残して。






 いつの間に目を閉じたのか。
 は閉じていた双眸を開く。
 濡れた頬が、悟空に別れを告げたのが嘘ではないと教えていた。
「……ただいま」
 誰にともなく言う。
 久方ぶりに見る自室に言ったのかも知れなかった。
 ――2度と戻ることはないと思っていた。
 悟空のいる世界に行った時のまま、の部屋は全ての時間を止めている。
 窓を開き、外を見る。
 明るい世界。
 柔らかな太陽の光、見慣れていた筈の、海が見える景色。
 ここはが育った地球だ。
 彼女は帰ってきてしまった。
 悟空のいない世界へ。






すっごい前に書いた話です。例の結婚問題のところの、ドロドロ?バージョン。…ドロドロって程でもないかも。
2日置きぐらいに更新…できればいいなあ!(汗)

2006・5・23