お兄さん


 西の都、カプセルコーポレーション。
 の仕事の都合で連れて来られた悟天とは、その家の大きさにあんぐりと口を開けていた。
 インターフォンを押し、ブルマに扉を開けてもらう。
「やほー、よく来たわね双子!」
 ブルマがぐりぐりと双子の頭を撫で、中へ案内する。
 てほてほと親の後を付いてゆきながら、は悟天と手をつないで迷わないように歩いてゆく。
「すごく大きいねー!」
 わぁ、と楽しそうに言う
 面白げな機械や綺麗な部屋があちこちにある。
 見ていて飽きない。
 自分の住んでいるパオズ山にはないものばかりで。
ー、これなんだろ」
 悟天が無造作に大きな扉のスイッチを入れようとしたのを見て、慌ててとめる。
 壊したりしたら、お母さんに怒られてしまう。
 本当はもちろんだって触ってみたいのだけれど。
「悟天お兄ちゃん。あそこなんだろーね?」
 ふと見つけた――中はとっても薄暗くて扉は頑丈そうな――場所を示す。
 悟天も首をかしげた。
「なんだろ。ボクにも分かんないよ」
「気になるね」
 行こうか行くまいか。
 考えていると、の呼ぶ声が聞こえてきた。
「2人とも迷子になるからちゃんとついて来てー」
「「はぁーい」」
 家の中で迷子になるって凄いなあと思いつつ、と悟天は足を早めた。



 リビングに通されると、ブルマがと悟天にジュースを注いだ。
 ふかふかのソファにポスンと座り、たちはいただきますをしてジュースを飲む。
 遅れてトランクスが入って来た。
「あ、2人も来てたんだ」
 トランクスは自分でジュースを注ぎ、双子の向かいに座った。
 ブルマとは別のテーブルで何やら話をしている。
 まあいいや、とはトランクスに顔を向けた。
「トランクスくんのお部屋って凄く広そう」
「そうか? 別に普通だと思うけどな。大人の話が終わるの待ってんの暇だろ。なんかやらないか?」
 悟天が頷く。
「なにかって、なに?」
 首をかしげて聞くに、悟天が意気揚々と答えた。
「こんだけ広いんだからさ、鬼ごっこかかくれんぼしようよ!」
「いいぜ。じゃあかくれんぼにするか」
 かくれんぼかあ。
 パオズ山のかくれんぼだと、範囲がとんでもなく広かったり山の中にまで及んだりするので、結構長いこと時間つぶしになるが、ここではどうだろう?
 広いから大丈夫だろうかと考え、もそれに同意した。
「よっし、じゃあジャンケンー……ポン!!」
 グー。
 グー。
 チョキ。
 ……。
「チェ。オレの負けかよ……」
 トランクスがチョキを出して負けた。
「まあいいや。オレんちだからな、すぐ見つけてやるぜ! 数えるぞー」
「百までね!」
 ようし、と意気込んで数を数え出す。
 ちょっとだけスピーディーで、双子は慌てて部屋の外へ出た。
 の、「人様の家のものを壊したりしちゃだめだからねー」という言葉を背中にして。



 隠れる場所、隠れる場所、と言いながら走るの目に、来る時に見た薄暗くて扉が頑丈そうな場所が映る。
 何となしにその場所に立つが、他の部屋みたいに扉が開かない。
 暗いから、きっと見つかりにくいのに。
 首をかしげ、ぽん、と扉をたたいた。
 やっぱり開かない。
「……うーん。あ!」
 扉の横にボタンがある。
 意気込み、はその中ぐらいのボタンを押した。
 ぴ、と電子音がし、気の抜けるような音がして扉が開いた。
 中でびゅびゅびゅと凄い音がするけれど、何の音だか分からなくて、はそのまま中に入る。
 入ると背後で扉が閉まった。
 ――?
 円状のような形をした部屋の中央に、大きな柱がどかんと立っている。
 他は全く何もない。
 隠れる場所など皆無。見通しが激しくいい。
「うー。隠れる場所はないみたい」
 ぽつり、呟くと――の目の前に何かが走った。
 驚いて走った何かを見やると……黒髪の男の人がいた。
 は目をパチパチさせ、
「……こ、こんにちは」
とりあえずお辞儀しながら挨拶をしてみた。
 男の人は髪の毛が上を向いていて、目つきが鋭いがどことなく誰かに似ている気が。
「うー……あっ、トランクスくんに似てるのかも!」
「トランクスを知っているのか」
 低い声で言われるが、は全く気にしないで嬉しそうに頷いた。
「うん、友達です! お兄さんはトランクスくんの友達?」
 言うと、彼は眉根を寄せた。
 友達じゃないみたいだ。
「おいガキ」
「なあに? お兄さん」
 にこにこと笑顔で返事をすると、なんだかちょっとだけ困ったような顔をされた。
 ――わたし、なにかした?
「キサマ、ここにいて大丈夫なのか」
「え……っと」
 この、一見何もない場所は危険だったりするのだろうか。
 しかしには特別何か危険そうな物があるようには見えない。
 困惑して首をかしげると、男の人が信じられないといった顔をした。
「――お兄さん、あの、わたし、でたほうがいい?」
「ちょっと待っていろ」
 ツカツカと中央の柱に歩いてゆくと、何やら確認して戻ってくる。
「キサマ何者だ」
「え?」
「あー! 見つけ……ぐえっ!」
 シュンッと音がして扉が開いたかと思ったら、トランクスが部屋に入って来た。
 ……入って来たのだが、様子がおかしい。
 彼は膝を折っている。なんで?
 トランクスは息を切りながら外に出る。
 部屋の外に出たら真っ直ぐ立っているのだが……一体どうしたのだろう?
「おとうさん、をこっちに出してよ」
 男の人を見上げると、彼は言われた通りトランクスの元へを押し出した。
「お父さんなんだ」
「ああ、オレの父さんだぜ! って、なんで平気だったんだよ、あん中いてさ」
「おい」
 男性に声を掛けられ、は視線を上げる。
 だが声を掛けられたのはではなく、トランクスの方だった。
「は、はいっ」
「このガキは一体なんだ」
「え? さんの娘で……悟天の双子の妹です」
「……なるほどな」
 彼はそう言い、さっさと部屋に戻ってしまった。
 訳が分からない。


 リビングに戻った双子とトランクス。
 に、先ほど起こった事を話して聞かせた。
「重力室入ったの? よくつぶれなかったわねえ」
 呆れたように横から言うブルマにトランクスも頷く。
「オレも立てないのに、普通に立ってるんだぜ?」
 これにはが苦笑しながら答えた。
「多分、私の血が濃いんだと思う。いわゆる『超能力』だよ。身の危険を感じるほどの重力だと、勝手に体が防御しちゃう」
「ズルイなー、それ」
 むくれる悟天の頭をが撫でた。
「特性の問題だね」
「……でも、あのお兄さんも立ってたのに」
「お兄さん?」
 ブルマが言う。
 は頷いて、黒い髪の毛で目つきがトランクスくんに似てる、と言った。
「ははぁ、ベジータね。お兄さんだって。ぷくくく」
 笑うブルマ。
 には何が楽しいのか分からなかった。


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全然トラ夢じゃない…。ベジとの接触が書きたかったんです。
2005・10・11