双子




 分娩室の前の長椅子に座ったまま、孫悟飯は室内で戦っているであろう母――と、生まれてくるであろう子供の無事を、一生懸命に祈っていた。

 と悟飯は西の都に来ていた。
 ブルマ宅に泊まりに来ていて突然陣痛を起こし、近場の病院に担ぎ込まれたのは何時間も前のこと。
 自分の時間感覚がおかしいのかも知れないが、今の悟飯には一分一秒がやたらと長く感じられていた。

 じっと分娩室の扉を見つめていると、ポンと肩を叩かれた。
 俯いていた顔を上げれば、ブルマの顔がある。
「はいこれ。必要だろうと思うもの、用意しといたわよ」
「すみませんブルマさん」
 お辞儀をし、荷物を受け取る。
「なぁに言ってんのよ悟飯くん。が大変なんだもの。協力するのは当然でしょ」
 明るく言い、手近な自動販売機でコーヒーとジュースを買い、ブルマはコーヒーを、悟飯にはジュースを渡す。
 プルタブを起こし、ブルマはコーヒーを口にした。
 長いすに座り堂々としているブルマの様子には、母親特有のたくましさを覚える。
 父親である悟空は、セルとの戦いで亡くなってしまっているのだから、自分がしっかりしなければ。
 悟飯はそう思うのだけれど、いかんせん、たった1人でその荷を負うには、悟飯はまだ若すぎる。
 西の都で産気づいたのは、ある意味でラッキーだった。

 扉の中で苦しんでいるであろうを思い、ジュースの缶を握る。
 ブルマも同じように扉を見つめていた。
 トランクスを生んでいるから中の苦労が分かるようで、時折苦笑いをこぼす。
「今頃、中は戦場ね。悟飯くんが生まれるときには、孫くんが支えになってたんだろうけど……まあ2度目だし? 大丈夫でしょう」
「僕、何かもっと……できることはないでしょうか」
 不安そうに見つめる悟飯に、ブルマはにっこり笑う。
「中に入ったら、後は母親の戦いだから。そんなに心配しなくても大丈夫よ」

 分娩室の中から大きな鳴き声が聞こえてきたのは、お昼近くのことだった――。


「悟飯、オヤツの時間になるんだけど……あの子らどこ?」
 勉強を中断し、外にいた悟飯はにそう聞かれた。
 うーんと伸びをし、それから答える。
「そろそろ帰って来ますよ。ひとっ走りするだけだって言って……ああ、帰って来た」
 悟飯が視線を向けると、走ってくる影が2つ。
 はそれを確認すると
「顔と手を洗ってオヤツだって言ってね」
 悟飯に言い、家の中へと入っていった。
 残った悟飯は2つの影が近づいて来たのを確認し、声を張った。
「顔と手を洗ってからオヤツだぞーー!」
「「はぁーい」」
 元気な声が2つ、飛んできた。


「「「いただきまーす!」」」
 山盛りになっているドーナツを、ぱかぱかと口に運んで……いや、放り込んでいく。
 余りに急いで食べている弟に、悟飯は苦笑いした。
「こら悟天、そんなに急いで食べるとつっかえるぞ?」
 言われた途端、咽喉につかえたのかむせる悟天の背中を、がトントンと叩いてジュースを飲ませてやる。
 その様子をもう1人の子――娘のが見て、くすくす笑った。
「悟天お兄ちゃん、慌てすぎ」
 母親似の黒髪が、サラリと流れた。

 悟空の死後、は双子を出産した。
 兄の名は悟天。
 妹の名は
 昼ほどに生まれ、カラッとした空を見てつけた名。
 悟天はいたずらっ子で元気いっぱい。
 は悟飯によく懐き、悟天と比べれば大人しいが、それは女の子だからかも知れない。
 悟天は悟空そっくりだが、そっくりで、一家揃って仲がいい。
 はよく悟飯に、
『悟天とが一緒にいるのを見る度に、昔の悟空と自分を見てるようで何かちょっと妙な感じ』
 と言っている。
 それほどまでに似ているということなのだが。

 山のようにあったドーナツを、ぺろりと平らげる子供たち。
 ももう慣れたもので、手際よく片づけを始める。
 最初の頃はドカ食いする3人の子供に、量の調節が上手くいかなかったものだが。
 食器を片付け始めた母を手伝う悟飯。
「ねえ悟飯、通信学校の方は大丈夫?」
「大丈夫。順調ですよ」
「そっか。あんまり無理しないでね」
 勉強で倒れるとは思ってないけど。
 そう告げる母に、悟飯は笑った。
 確かに武道で相当鍛えられたから、ちょっとやそっとではぐらつかない。
 言う悟飯の服を、引っ張る影1つ。
 だ。
 ちょっとギクッとする悟飯だったが、『遊べ』と言われるような雰囲気ではない。
 手を拭き、少し腰を低くしてを見る。
「何だい、?」
 はちょっとモジモジしていたかと思うと、愛らしい口唇で
「抱っこして」
 そう言い、両手を広げた。
 その様子を見たは、
「お腹いっぱいになって眠くなったみたいね」
 悟飯が抱き上げたの頭を撫でてやる。
 その通り、悟飯が抱きかかえて少しもしないうちに、悟天との競争で疲れてしまったことも絡んでか、彼女はすぐウトウトし始めた。
「ちょっと寝かしつけてきます」
「うん、よろしくね」
 を背にして、自分たちの寝室へと向かう。
 現在、悟飯、悟天、の3人は同じ部屋で寝ていた。
 時たま悟天との2人はと一緒に寝ることもあったが、大抵は子供3人がいっぺんに寝ている。
「よっと……」
「んむ……悟飯兄ちゃん?」
「眠いんだろ? ちょっとお昼寝しような」
「……うん」
 用のベッドに寝かしつけ、ぽんぽんと一定のリズムで軽く叩いてやると、すぐさま寝息が聞こえ始めた。
 暫く隣でを見守り、ゆっくりと離れてリビングに戻る。
 戻ってきた悟飯にがお茶を出す。
、寝た?」
「うん。悟天の体力にはやっぱり負けるみたいだ」
 言いながら座り、お茶を口にする。
 は笑った。
「女の子だからねー、でも悟空の子だから、常人よりは体力ある気がする」
「そういえば悟天は??」
「もう少し遊んで来るって」
「元気だなぁ」

 今日も平和な孫一家。
 まだ悟飯が高校に通う以前のことである。




なんつーかもう。……トランクス出てきてないし。うは;;
次回頑張ります…てか早く16歳とかにさせたいッス。
2005・6・10