お茶しましょ




 未来から来たトランクスの情報により、三年後にやってくるという、人造人間との戦いに勝利するため、悟空、悟飯、ピッコロは、毎日毎日、飽きもせず修行に明け暮れていた。

 そんな、ある日。

「へ? 買い物?」
 骨付き肉にかじり付きながら、悟空はの発言をおうむ返しした。
 彼女は空になった食器を下げ、テーブルに戻る。
 今日は、悟飯は先に食事を終えていたし、もう一人――ピッコロは、毎日の事だが、部屋の端の方で、水を飲んでいた。
「そ、買い物。せっかく車買ったんだし、食料調達してきてよ。リストは作っておくから」
「け、けどよー……」
「悟飯は、湖で魚獲ってきて。ピッコロはお客さんだから、二人が帰ってくるまで暇しててね。私、明日は午前中に問診だけだし…いいでしょ?」
 ニコニコ笑いながらも、反論を許さないオーラがそこにある。
 悟空も (ついでに言うならピッコロも) 免許を取った事だし、たまにはいいだろうというのが、の考え。
 いつもいつも食べるだけの夫なのだから、まあ、苦労を分けるという意味で。
 修行に多少なりと、差し障りがあるのは悪いと思うが、翌日以降の食事がないのでは、出る力も出ないだろう。
 丁度、問診の時間がいつも行くショップのセールの時間なのだ。
 ここは一つ、悟空に行ってもらいたい。
 ……所帯じみていると思われるかもしれないが、恐ろしく食べる旦那と子供を持つと、食費に目が行くようになるというものだ。
「って事で、よろしくね!」
「…わ、わかったよ…」
 渋々ながら返事を夫に、は ”よろしい” と微笑んだ。

 翌日。
 悟空はエアカーに乗り、食料リストを持って、颯爽と街に繰り出していった。
 別に筋斗雲を使ってもいいのだが、まあ、車に慣れる、という意味で。
 悟飯は悟飯で、少しばかりピッコロと修行をした後、の言いつけ通り湖の魚を獲るため、一人、湖へと出かけていった。
「じゃあ、私、少し仕事行ってくるから、ピッコロ、留守番よろしくっ」
 仏頂面の男に、にっこりと笑いかけると、悟空にも負けじとも劣らぬ爽快さを残し、目的地である村の方に向かって舞空術で飛んでいった。
「………なかなかの舞空術だな…」
 ――それから、三時間後。
「たっだいまぁ〜……ってあれ? 悟空も悟飯も、まだ帰って来てないの?」
 家の入り口から少し離れた所に、腰を据えているピッコロにが問う。
 彼は低音な声で、 「まだだ」 とだけ答えた。
 そっか、と軽く言うと、彼女は室内に入り、何やらカチャカチャと音を立てたかと思えば中からピッコロを呼んだ。
「ピッコロー、お茶…じゃなかった。水入れたから、飲も」
「……」
 の意図が分からず、眉間にしわを寄せるピッコロ。
 その場から暫く動かず、あぐらをかいたままでいると、痺れを切らしたのか、中から彼女が出てきて彼を引っ張ってテーブルに着かせ、自分は向かいに座った。
 無言でいるピッコロに水を出してやる。
「あのね、コレ、患者さんちの近くにある名水なんだよ。ピッコロってさ、水しか飲まないでしょ? だからせめてもの贅沢と思って」
「……」
「ま、修行休み中なんだし、二人が帰ってくるまでのんびり話しでもしてようよ。……私が折角もらってきた水が飲めない、とか言わないわよねぇ…」
 まるで、絡み酒でもしているかのような口調のに、ピッコロは半ば呆れつつ、水を口に含んだ。
 なるほど、そこらの水とは違う。
 ここ、パオズ山の水も相当な美水だが。
 それにしても、かつては ”悪の大魔王” とまで言われたピッコロとお茶……いや、お水?
 ともかく、 『お話しましょ』 何て言うのは、やはり彼女が普通ではないからだろう。
 昔のように悪人とは感じないものの、普通の神経の人間であれば、多少なり、この素晴らしき無言っぷりに、多少は引いたりするのだろうが。
 悟空を旦那にするだけあって、肝の据わりっぷりも中々のもの。
 無論、以前からこうではなかったけれど。
 無言で水を一口ずつ飲んでいるピッコロに、ふとが何かを思いつき、口を開く。
「ピッコロって結婚願望とかってないの?」
「…………あ、あるわけなかろう…」
 随分と突飛というか、よく分からない質問だと彼は思った。
「そもそもレンアイとやらがさっぱり分からない」
「へぇぇ〜」
 そういえば、ナメック星人には男も女もないらしい事を思い出す。
 ブルマが、それについて以前語っていた。
 『男女差がないなんて、つまんないわよねー』 と。
 という事は、勿論、レンアイというものが存在せず――。
 …なるほど、理解できないというのも分かる。
 そんな事を考えていたら、今度は珍しくピッコロの方が口を開いた。
「どうしてお前は、孫と一緒になった。よもや顔で選んだという事はなかろうが…地球人の趣味は分からん…」
「かっ…顔だけで選ぶ訳ないでしょうっ。……まあ笑顔に惹かれた、ってのはあるけど…」
 ピッコロにしてみると、何故、が悟空を選んだのか分からないようだ。
 レンアイが分からない、というのもあるが、悟空はピッコロから見ても普通ではない。
 サイヤ人だからという問題ではなく、ある種の常識というものが欠落しているような気がする。
 どういう経路で、二人が一緒になったかなど、興味はなかったが、地球人の趣味と、の趣味は、何か別物のようにも思え。
 大体、笑顔に惹かれる、というのもよく分からない。
 神妙な顔をしているピッコロに、は苦笑いすると、くぃっと水を飲んで一息ついた。
「…ちっちゃい頃から色々あってね。…ホント、色々あって」
「……昔から、孫の事が…よく分からんが、スキだったのか?」
「うーん、恋愛でなく、好きだったなぁ…。恋愛だって自覚したのは、もっと後の事だけど」
 いつになくじょう舌なピッコロに、は楽しそうに受け答えしていた。
 彼女は言っていなかったが、彼にはとても感謝の念を抱いていた。
 悟飯を、心身ともに鍛えてくれた事を。
 自分や悟空ができなかった――やらなかった部位を、かなり荒っぽくではあったが――教え、鍛えてくれた事を、本当に、純粋にありがたく思っていた。
 いつもは無言だし、話しかけても余り返事がないが、今日はちょっと違って。
 とはいえ、『ありがとう』 なんていったトコロで、鼻先で笑われてしまうのだろうけど…。
「ピッコロ、子供いたら、いいお父さんになると思うんだけどなぁ…」
 ポツリと呟いた彼女のの言葉に、ピッコロは眉間に深々としわを寄せる。
「フン、冗談ではない」
「でも、悟飯は尊敬してるし。よく言ってるもん。『お父さんと同じぐらい、ピッコロさんも尊敬してます』って」
「………フン」
 鼻を鳴らすと、顔を横に向ける。
 その様子が、には何だか照れ隠ししています、と如実に語っているようで。
 吹き出してしまい、更にケラケラと笑ってしまった。
 ――そんなに、不機嫌オーラを増大させたピッコロがいたのは言うまでもなく。

「た、たでえま……」
 あははーと笑いながら、大荷物を抱え、悟空が家に帰ってきたのは、午後も三時をとっくに過ぎた頃だった。
 空を飛べば簡単だったのだろうが、エアカーで買い物に行ったために、何やら道に迷ってしまったらしい。
 悟飯は、それより一時間前程に、大量の魚と肉を獲って帰ってきていた。
 湖の魚だけではなく、山の獣肉までついでに獲っていたため、遅くなったそうだ。
「ご苦労さまー。後で、使わないのは冷蔵カプセルに入れちゃおうね。とりあえず、ご飯の用意するよ」
 は荷物の中から、ぱぱっと食材を選び、さっそく料理に取りかかった。
 テーブルについて、一息ついている悟空と悟飯の横に、珍しくピッコロもいる。
 悟飯が、母の微妙な変化に気づいて、ふと、ピッコロに質問した。
「何か、いい事でもあったんですか? うちのお母さん…」
「…フン、さあな…」
「なんだよピッコロ、教えろよ〜、ずりぃぞ」
 何がずるいんだと、目線で悟空に突っ込みを入れる。
 答えが期待できないと踏んだ彼は、「ちぇっ」 と言い、一児の父とは思えないような、子供染みたむくれっつらを披露した。
 自分の妻が、ピッコロと二人きりだったのが気に入らないようだ。
 レンアイは知らずとも、嫉妬心は分かるようで、ピッコロは口の端を、知らず、吊り上げていた。
「なんだ、孫。嫉妬か」
「嫉妬? なんだそれ」
「………お父さん、ヤキモチの事だよ…」
「ああ! ヤキモチか! そうだな!」
 言葉の違いで理解し、爽やかに認める悟空に、悟飯は苦笑いし、ピッコロは小さくため息をついた。

 その日から、はちょっとだけ、ピッコロと話をする回数が増えたという。





えーと、17000キリ、理笑子さまご所望の、ピッコロ夢です。
どこがやねーん!!!(滝汗)むつかしかったです…こんなんでスミマセン;;
こ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします…こんな奴ですが…。

2003・5・23

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