娘とライバルと遊園地 「こらーあんた達! あんまりはしゃぐんじゃないわよォ!」 興奮して周囲が見えていない子供達に、ブルマが声をかける。 悟空は彼女の横に立ちながら、ぢぅ、と音を立ててストローでジュースを飲んだ。 「しっかし……ベジータに遊園地って、もの凄ぇ合わねえな」 「煩いぞカカロット!!」 小声で言ったつもりだったのだが、少し離れている彼の耳に入ってしまったらしい。 ブルマがくすくす笑う。 「確かに似合わないわよねぇ」 「だろ?」 言って、紙コップの中の飲料を、すべて飲み干す。 視線の先には子連れの者達が、思い思いの場所へと向かって歩いている。 「も来れたらよかったのにね」 「しょうがねえさ。が風邪引いちまったからな」 週末に、両家族で遊園地へ行こうと持ちかけたのはブルマだった。 元々はベジータとトランクスの約束だったらしいが、折角だから孫家も、ということになったらしい。 残念ながら、間が悪く風邪を引いたの看病で、は居残り。 他に、心配して遊ぶどころではない悟飯も居残り組みだ。 も悟天も行くのを中止しようとしていたが、それは自身によって防がれた。 楽しみにしていた子供たちの姿を知っているからだろう。 「しっかし……ちゃんって、ほんっとにベジータが好きなのねー」 ブルマがしみじみそう言うのも無理はない。 トランクスも悟天も、先ほどからの手の先をちらちら見ては、ため息らしきものをついている。 彼女の手の先には、ベジータの手が繋がっているからだ。 悟空としても、当然面白くはない。 何しろ娘のは、愛妻のに顔がそっくりだから。 「ちぇ。いいなあベジータ」 「なんであんなに懐いてるのか不思議だわ……」 「、どこいきたい?」 トランクスに訊ねられ、はうぅんと眉を寄せる。 「トランクス君は?」 「オレ? そうだなあ。やっぱりジェットコースターかな」 「じゃあ、それにしようよ」 決定、とニコニコ笑む。悟天もジェットコースターと聞いて喜んでいる。 ベジータだけはどことなく苦々しい表情だったが、子供達はそれに気づかない。 「ベジータさん、いこ!」 「……あまり引っ張るな」 上機嫌の子供らに従うようにして進む大人たち。 ジェットコースターは案の定というか当然というか、混んでいた。 待ち時間の標識を見るが、 「一時間半待ちねえ」 どう見ても一時間以上待ちそうな行列がそこにある。 ブルマは別のところに行こうと言うが、トランクスと悟天はどうしてもこれに乗りたいらしい。 結局待つことにした。 子供とはいえ、体力が尋常ではないたちは、他の子供のようにぐずったり座りこんだりせず、雑談をしながら順番を待ち続ける。 「ねえねえ。お兄ちゃんと手ぇ繋ごうよ」 悟天が何食わぬ顔をして進言すると、はこくんと頷いて 「うん、いいよ」 きゅっと手を握る。ただし、ベジータと繋いでいる手はそのままだ。 ベジータはいい加減離したいのか、軽く手を振ってみるものの、の視線が向くと強く出られないらしい。 「な、なんだよ悟天ズルイじゃないか! 、オレも!」 「えー、もうわたし手がないよ」 トランクスの肩ががっくり落ちた。 「…………ぱ、パパ、大丈夫?」 「す、少し黙っていろ……!」 息子に心配されるも、ベジータは顔色を青くして額に手をやるのみだ。 ベンチに腰を下ろしぜいぜいと息を吐く姿は、強敵と戦った後のようにも見える。 つまり、燃え尽きている。 「なんだよベジータ、ジェットコースターぐれぇで」 「黙っていろと言ったろう! ……うっ」 言うが早いか、喉に何かが詰まったかのように声を引く。 大声を上げ続ける気力はないようだ。 所謂、ジェットコースター酔いにかかっているベジータを、は看病しているつもりなのか、薄っすらとかいている汗をハンカチで拭ってやっている。 「だいじょうぶ?」 「……余計なことはするな」 言いながらも跳ね除けたりはしない。むしろ気持ちよさそうに見えるのは己の気のせいだろうかと、悟空は頬をかく。 ブルマはそんな夫の姿を見ながら、呆れたようにため息を通いている。 「アンタ、あんな物凄いスピードで空飛ぶくせに、ジェットコースターがだめなわけ?」 「ああいった物は好かんのだ! 中途半端な科学力の乗り物め……」 「孫くんは平気じゃない」 「オレ様はカカロットと違って繊細なんだッ」 「ひでぇなベジータ……って、、なにしてんだ?」 見れば、彼女の手から薄翠色の光が放たれている。 どうやら異能力を使って、気分の悪さを緩和させているらしい。 見る間にベジータの顔色が良くなっていく。 彼はふぅっと大きく息を吐くと、の頭を軽く叩くようにして撫でた。 礼はなかったが、それだけでには十分だったらしい。 ベジータが立ち上がるのを見計らって、彼女はまた彼の手を握った。 「あのねあのね、わたし、行きたいとこあるの」 「なんだ」 「メリーゴーランド!」 嬉しそうに、近場でくるくると回っているそれを指し示す。 ひくっ。ベジータの口端が引きつる。 トランクスと悟天は顔を見合わせ、悟空は首を傾げ、ブルマは大笑いし出した。 「あっはははは!! いいわよちゃん! ほらほらベジータ行きなさいよ」 「お、おいブルマ! な、なぜこのオレが……あんな馬に!」 「折角だし、皆で行きましょうか。ほらほら孫くんも」 悟空と子供たちを押し出しながら、ブルマはメリーゴーランドに向かう。 ベジータもに引っ張られ、嫌々ながらもそのアトラクションの前に立った。 悟空は別段なにも感じないが、意識して見ると。 「……確かに野郎にはちぃとキツいか?」 むしろでも若干嫌がりそうな代物だった。 ピンクと白が基調の、あちこちにフリルを巻いた、デコレーションケーキのようなフォルムだからだ。 悟天はそうでもなさそうだが、トランクスはあからさまに恥ずかしそう。 世話しなく周囲を見回し、女の子の視線がこちらに向いていないかを確認している。 「さて。ちゃんは誰と乗りたい?」 「、父ちゃんと乗るか?」 娘の顔を覗き込むように訊ねる。 彼女は顎に指を当て、困ったように眉を寄せる。 ややあって、うん、と頷く。 「お?」 「やっぱりベジータさんとのるー」 ベジータの腕に絡まっているを見ていると、 「イラッとくるのはなんでだろうなー」 お父さんちょっぴり嫉妬中。 「それじゃトランクスは私と……」 「えー! 親と乗るなんて嫌だよ。くそ、一人で乗る」 「ボク、とがいいなあ」 「オレだってそうだよ!」 ぎゃんぎゃん言い合う悟天とトランクスを他所に、順調に順番が回ってくる。 悟空とブルマは、並んで馬車に座る。大の大人が2人で小さな馬車に座っているのは、なかなか奇妙な光景ではあるのだが、それ以上に可笑しいのは。 「ぶっ……くくく……見てよ孫くんアレ……!」 「そ、そんなに笑ってやるなよブルマ。可哀想じゃねえか」 「だってさあ。いや、間違ってないわよね、あいつサイヤ人の王子だし!」 白馬ぐらいお手の物だろうと、騎乗しているベジータを指差しながら大笑い。 「うっ、煩いぞブルマ!」 「だってアンタ……あはははは!」 背後の様子を気にしながら、ベジータは大きくため息をついた。 自分と馬に挟まってちょこんと座っているが、少しずり落ちてきているのを見て、何気なく位置を直してやる。 くるりと幼子の顔がこちらを向き、なぜだか直視できずに視線を斜め下に逸らす。 「なんだ」 「ごめんなさい。ベジータさん嫌がってたのにのせちゃった」 「…………気にするな。ガキがそんなシケた面をしているんじゃない」 風でふわふわ揺れるの髪を見、何気なくそれを耳の裏にかけてやる。 「わたしのこと、キライにならないでね?」 「っ……ならんから泣くな。そ、そうだな、よし、帰りにケーキを買ってやろう。だから泣くなよ!」 「ケーキ! お母さんにも、悟飯お兄ちゃんにも、お姉ちゃんにも買っていい?」 「……い、いいだろう」 病人にケーキはどうかと思うが、ベジータはあえて言わなかった。 「たでーまー」 「おかえりーって、どしたのその箱。ケーキ……?」 「うんっ、ベジータさんが買ってくれたの!」 嬉しそうにケーキの箱を冷蔵庫に入れる。その後をついて、自分の分を確認しようとしている悟天。 は苦笑いを浮かべている悟空を手招いた。 「ちょ、ちょっと。あのケーキって高級菓子店のじゃ」 「オラにはよっく分かんねえけど、値段見たら凄かったな」 「家族分買うなんて……。うわー、後でお礼しなくちゃ……。しかしどうしてまた」 「さぁなあ……ベジータがに弱ぇってトコかな?」 疑問符を浮かべて軽く首を傾げる妻に愛しさを感じ、悟空は背後からぎゅっと体を抱きしめる。 「ごっ、くう?」 「父ちゃんに振られて悲しかったかんなあ。嫁さんで補給しねえとな!」 「い、意味わかんないよ!」 以前、拍手コメでご要望というか、ネタを投下して頂いたので書いてみました。 子供に好かれて戸惑いつつデレデレなベジータと、ちょいと嫉妬する悟空をおまけに、とのことでしたが…。 りお様、こんな感じになりました。ベジータでれでれしてない気もしますがお許しを。そしてトランクスが不幸なのはデフォになりつつあります…。 2009・6・22 |