年不相応



 あれこれと策をめぐらせていた割に、あっさりと素性(グレートサイヤマンという正義ヒーロー)がバレた悟飯。
 どうやらの双子の妹分にあたるビーデルに、舞空術の教師をさせられることになったらしい。

 久々に天下一武道会とやらが開催されるにあたり、悟飯はビーデルに脅されてそれに出ることになってしまった。
 当然ながら、は武道会に出ない。
 いくら飛べても、悟飯やビーデルと比べると一般人だから当然だ。

 の朝食の後片付けを手伝いながら、は後ろでつまらなそうに兄を待っている悟天を見やった。
 悟飯は、まだ部屋で修行の支度中である。
 何枚目かの皿を拭いていると、悟飯が部屋から出てきた。
 紫色の道着に身を包んでいる。
「悟天お待たせ! それじゃあ……母さん、さん、行ってきます」
 は手を振りながら行ってらっしゃいと2人に言い、はさかさかと手を動かしながら、無理はしないようにと言って送り出した。


 悟天を引き連れて悟飯が表に出て暫くすると、食器洗いは完璧に終わった。
 が小さく息を吐く。
「ふぅ、ウチの子たちはよく食べるわ。……ところで
「はい?」
「お茶しない?」
 にっこり微笑み、棚の中にあるティーカップを示す。
 は喜んでと頷いた。

 こぽこぽと音を立て、ティーカップに濃い琥珀色のお茶が淹れられる。
 香りのいいお茶だが、は正式名称を知らない。
 孫家にあるお茶の種類は、野草が原材料の物が多くて、ただでさえ分からない。
 温かいお茶に、ちょこっとしたクッキー。
 正午を過ぎれば洗濯物の山が待ち構えているので、そのための息継ぎのようなものだ。
 カップをソーサーの上に置き、クッキーを一切れいただきながら、ふとは学校の事を思い出す。
「ん? どうかした?」
 の表情の変化に気付いたのか、が不思議そうに視線を向けてくる。
「学校の皆が武道会に来たらマズイかなぁと」
 今、悟飯は天下一武道会への訓練で、学校を短期休学扱いにしていた。
 編入してそう長くもない時期に、いきなり休学とは学校側も驚いただろう。
 それに加えて、も休学していた。
 悟飯もも、学業面での問題はない。
 ただ、天下一武道会に学生たちが見に来ると、悟飯の方はまずいことになりそうだった。
 は出場しないので構わないのだが。
 は大丈夫とばかりに微笑む。
「悟飯は私なんかより全然しっかりしてるから、その辺の事は当人に任せてるんだよね。仲間もいるから、どうにかなると思ってるし」
 軽く言う彼女。
 本当に大丈夫なのだろうかと疑ってしまう。
さんは出ないんですか?」
「私? 無理だから。だいぶ修行してないしね……悟空が生きてたら話は別だったんだろうけど」
 今は亡き夫の事を思い出してか、少々苦い物が言葉に混じっている。
 は慌てて別の話題を振ろうとした――

「ごめんくださーい」

 見知った声がして、は玄関口を振り向く。
(うわ、凄いまずいタイミングかも……)
 家の中にいるところを見られたら厄介かと思っているうちに、がドアを開けてしまう。
 ――逃亡失敗。
 入り口に立っていたのは、やはりビーデルだった。
 の姿を見て、彼女はどうも怪訝な顔をしている様子。
「……ここ、孫悟飯くんの家よね」
「ええ、そうですけど……どちら様?」
「わたしはビーデル。あなたは」
「私は。――んと、悟飯に用事があるの?」
 普通の口調なに対して、ビーデルの口調は挑発が入っているように聞こえる。
 は、ビーデルが悟飯に少なからず好意を持っていることは知っている。
 しかし、どうして母親のにそんな刺々しい感情をぶつけるのか、分からない。
「ええ。悟飯くんに用事があるの。……いる?」
 中を覗きこむ彼女に、はため息をついて立ち上がる。
 ビーデルに顔を見せた。
 驚きに目を丸くするビーデル。
、いたの!?」
「うん。……えーっと、いたの。……ああ、悟飯くん戻ってきたみたい」
 ビーデルの肩越しに、悟飯と悟天が見えた。
 なにやら焦ったような顔の彼に、ビーデルの視線が突き刺さっている。
「あ、あはは……こ、こんにちは」
「ちょっと悟飯くん、どういうことよ」
「は?」
 なにが、と言いたそうにする悟飯。
 きょとんとして兄の横に立っている悟天。
 は顔を見合わせた。
 その中で1人、ビーデルだけは語気を荒くしている。
「勝手に休学届け出しちゃって。空飛ぶの教えてくれるって約束したでしょ。――それに、なによ。はともかく、この子」
 この子?
 一瞬悟天のことを言っているのかと思いきや、ビーデルが示しているのは明らかにだ。
 悟飯も訳が分からないのか、おろおろするばかり。
「女の子と同棲してるなんて聞いてないわよ!」

 ……。

 ぽかんとする悟飯。
 は首をかしげ、今の発言に難解な顔をしている。
 はそのの顔を横目で見――それからポン、と手を打った。
「……ビーデルビーデル。彼女……えっと、さん、何歳に見える?」
「なによ突然」
 不機嫌丸出しの彼女に、とにかく落ち着くように言い、質問に答えてもらう。
「だから、年齢幾つぐらいに見える?」
 本来ならば女性の年齢を聞くなど言語道断。
 しかし、場合が場合なので。
 ビーデルは腕組みをし、ジロジロとを見やると――
「そうね、せいぜい二十あたりってところかしら。高校は卒業してるように見えるけど」
 ……そうか。
 見慣れていない人物には、そう見えるのか。
 が思い切り息を吐いた。
 多分、己の体質に対してため息を出したのだろう。
 悟飯はもはや、苦笑いしか浮かべていない。
「あのね、ビーデル。はい、あっち見てー」
「……悟飯くんがいるわね」
「次こっちー」
「……っていう人がいるわね」
 それが? と眉間にしわを寄せるビーデルに言う。
「この2人、親子。わかる? 彼氏でも彼女でもコイビトでもなく、親子」

「………ええええ!!!???」

 物凄く驚いてくれるビーデル。
 悟飯とを見比べて、信じられないと驚愕の表情を浮かべていた。
「嘘よそんなの! だって……どう見たって大学生か、それよりちょっと上ぐらいにしか……!!」
「……うーん、微妙な誤解されてるわね。不思議」
 の代わりに、がきちんと自己紹介する。
「ビーデルさん。改めて言うけど……私は。そこにいる悟飯と悟天の母親です」
 にっこり笑う彼女に、ビーデルは絶句するしかないようだった。





2008・10・28