独り暮らし 「ありがとうございました」 丁寧にお辞儀をしてお客を見送った後、せかせかとテーブルを片付けに走る。 実際に走っているわけではないから、気持ちの問題だが。 奥手から現れたマスターがに軽く告げる。 「ちゃんもう少しで時間だから、今日は上がっちゃっていいよ」 「え、でも……」 テーブルを拭くのをやめてマスターを見る。 マスターはにっこり笑った。 「お疲れさま。また明日頼むよ」 小さな街で生活し始めて暫くが経つ。 孫家から出てきたは家を借り、のお客だという店長さんの所で仕事を頂いて、それなりに1人暮らしを形成していた。 13歳の1人暮らしは、実際、かなり厳しかった。 現在、学校に通っていない。 スタートから不利な状況であるし、高校に入るための勉強を疎かにするできる状態ではなかった。 加えて食事洗濯その他もろもろの家事を1人でこなす事は、今までなかった苦労の連続だった。 それでも1年――14歳――になる頃には、首尾よく全てをこなせるようになっていた。 悟飯やたち孫家の人間も折を見て来てくれたりしていたし。 ただ問題は。 「…………世界の救世主であるミスター・サタンは……」 テレビから流れてくる音声に反応し、は食器を洗う手を止めて画面を見た。 そこにはアナウンサーが豪邸の前に立ち、なにやらミスター・サタンについて熱っぽい口調で語っている所だった。 「……ミスター・サタンがセルを倒してから………年になります……。サタン道場は盛況で……」 はタオルで手を拭いてテレビの前に座った。 「こちらがミスター・サタンのお宅です。娘のビーデルさんもミスター・サタンと同じく、格闘家としての素質を見出され、鍛錬に余念がないとの事です」 ミスター・サタン。 そう、が未だに先送りにしている問題は、彼の事だ。 テレビをぷつんと切り、小さく息を吐く。 自分の本当の父親だと聞かされているミスター・サタン。 今まで何度も悟飯に手紙で諭されているにも関わらず、はサタン邸宅に足を向ける事が出来なかった。 『私はあなたの娘です』なんて言った所で、門前払いが関の山だと思っていたからだ。 会おうと決めて、孫家から都へ越してきたというのに――行動を起こせていない。 なんだか情けない。 カレンダーのシフト表を何気なく見て、休みの日を指でなぞる。 サタン邸までは行けない距離ではない。 「……先延ばしにして逃げてたって……決着付かないだけだものね」 はきゅっと唇を結んだ。 会いに行こう。 本当の父に。 手を加えない、が基本なんですが。あまりの酷さにちょっと弄りました(笑) 2008・10・28 |