訪問者 1 「本当にここまででええのかね」 荷物を山のように載せたトラックの中から、老人が今しがた下りたばかりの少女に声をかけた。 肩にかからない程の長さの髪を持ち、小さな荷物を背にしている少女は、老人に向かって丁寧にお辞儀をした。 「はい。ありがとう、助かりました」 「いやいや。ここの道を少し行けば、山の腹あたりに出る。気をつけて行きなされよ」 「お爺さんも気をつけて。乗せてくれて、本当にありがとう。それじゃ」 少女が言うと、老人は手を振ってトラックを走らせ立ち去った。 「……さて。頑張ろう」 緑色の瞳で向かうべき道を見据え、そうして歩き出す。 昼前の太陽が、少女を照らしつけていた。 その日、悟飯は午前中の勉強の後に、母から頼まれた品物を取りに村の方へ、足を伸ばしていた。 代金を払って荷物をもらい家へ帰る山道の途中、誰かがいるのに気づいて、舞空術を止める。 女の子。 見た感じは悟飯と同程度の年だ。 舞空術を見られてはいないらしいと安堵し、何食わぬ顔をして挨拶をした。 「こんにちは」 悟飯にいきなり声を掛けられ驚いた様子だったが、すぐに少女は挨拶を返した。 「こ、こんにちは。あの、ちょっといいかな」 「何ですか?」 少女は額に浮いた汗をタオルで拭い、それから問う。 「あの、この辺に女性、いないかな。あぁ、それじゃ分からないよね……えっと。、っていう人なのだけれど」 「え、、ですか?」 「パオズ山の付近に住んでるって聞いて……知らない? きみは、ここの辺の人でしょ?」 悟飯はいきなり出された名前にちょっと戸惑いながら、頷く。 その人を知っているというのと、この辺の人間だという意味で。 少女は嬉しそうに悟飯の手を掴んだ。 「お、お願い! どこにいるか教えて!!」 「い、いいですけど。なぜ、その人を?」 「……大事な用事があるの。だから」 あまりに必死な表情に、悟飯は少し驚いた。 「僕も今から家に帰るところですから、一緒に行きましょう」 「え?」 「僕の名前は孫悟飯。は僕の母さんです」 少女は目を丸くし――それから慌てて自分の名を言った。 「私は……」 2人は家に向かいがてら、当然ながら話をした。 しかしは自分の素性を詳しく話さない。 別に怪しんでいるわけではないのだが、どうして見知らぬ少女が、己の母を知っているのかと、悟飯は首を傾げた。 村に住んでいる人でなければ、越してくるというのも違う。 母が仕事に出ている街での、患者ということでもないらしく。 当人は『さんに会って、ちゃんと話す』と言っているので、あまり深く追求したりしないが。 「さんは」 「さん付けしなくていいよ。年、一緒ぐらいでしょう?」 「ええと……何歳?」 「12歳」 「じゃあ僕と同じだ」 年齢が近いというだけで、何となしに親近感が湧く。 「ごめん、でもほら初対面だし……さんは、何処に住んでるんだい?」 「私は中の都に住んでた」 過去形。 彼女は小さく笑顔を作って、肩にある荷物を示した。 「でも、今の私の荷物はこれだけ。親が死んじゃったから」 「……そ、そうなんだ」 悪い事を聞いたと渋面を作る悟飯。 は、気にしないでとあっさりした口調で言う。 そうして暫く歩き続け、やっと家が見えてきた。 「あそこが僕の家。母さんは今日仕事行ってないから、丁度よかったね」 「……さんか」 心持ち緊張した顔になり、歩みを止める。 悟飯は彼女が歩き出すのを待って、また一緒に歩き出す。 これが、最初の出会い。 悟飯編。本編と絡めるつもりはありませぬ。えーと、オリジナルで、 結構どろっとする(いや、軽く嫉妬だとか色々と…)入れる予定なのでお気をつけを。 …ビーデル好きさんごめんなさいな展開の方向で。 2005・3・9 戻 |