共用語?


 大界王星。
 英雄と呼ばれるものたちが、あの世でも肉体を持って日々鍛錬を積むその星。
 は今、その大界王星の主である大界王と一緒にお茶を飲んでいた。
 悟空は見える範囲で修行をしており、界王に見守られながらあれこれと鍛錬を積んでいる。

「ほっほっほ、悟空ちゃんは修行熱心ねえ」
 小指を立てながらコーヒーカップを持って口元に寄せ、琥珀色の液体を口に含む。
 は苦笑し、同じようにカップに口を付けた。
 サイヤ人という人種は闘争本能が抜きん出ている。
 あの世であっても、それは変わりないようだ(当然だけれど)。

「失礼します、大界王様」
 ツカツカとヒールを鳴らしながら歩いてきた女性――スーツを着ているが、頭に角がある――が、大界王に声をかけて一礼した。
「こちらの書類の確認をお願いしたいのですが」
「いいわよん。……ふぅむ、はいはい。これは後で考えんといかんね。まあとにかく」
 すらすらと書類にサインをすると、女性にほいと渡す。
 彼女は来た時同様に一礼し、ヒールを鳴らして立ち去った。
「お仕事ですか」
「まあねえ、わたしも暇そうに見えてそうじゃないのよねえ」
 とお茶をしながら言うようなセリフでもないと思うのだけれど。
「……そういえば、前から疑問があったんですが」
「なんじゃね? わたしで答えられる事なら答えるわよ」
 大界王に答えれない事っていうのは、あるんだろうか?
 まあともかく、折角なので聞いてみる事にする。
 こちらの『地球』で出会った疑問について。
「あのですね、私はご存知の通り異世界の地球から来たわけなんですが……こちらの世界、どういう訳か、最初から言葉が通じたんです。最初は気にならなかったんですけど……最近気になってきて。
それに、『外国語』ってあるじゃないですか。あれも疑問で」
「?」
「だって、外国語ってわりに、それだけを使ってる人とか見たことないですもん」
 これってどういう事でしょう、と首をかしげると、大界王はカップの底をスプーンでかき回しながら、もっと詳しい説明を、と言う。
 上手い事説明できるだろうかと考えつつ、言いたい事を整理してつらつら並べてみる。

 の育った異世界で、日本語と呼ばれるものが、こちらの世界の『共通語』、英語が『外国語』。
 しかし実際は日本語と英語、2言語が共通用語。
 悟飯の学校での勉強だって、『国語』と『英語』である。
 日本という島国出身のにとって、外国=海外なわけで、凡そ陸続きになっているこちらの大陸は、外国というものを意識し辛い。
 もちろん、こちらの大陸はおそろしく広いから、文化も文明も当然違うし、遠くの国は外国的扱いになるのかも知れないけれど。
 それにしたって、英語――外国語でべらべら喋っている人を見ない。

 首を傾げるに、大界王は少し考えてから頷く。
「そうねえ、これって言っちゃうと、本当は問題があるかも知れないんだけどねえ……ちゃんはお気に入りだから、教えちゃおうかな〜」
 そんな理由で教えて良いのか。
 大界王はあまり気にしていないらしく、簡単に喋り出した。
 もっとも、外部に漏れるような事は殆どないからかも知れないが。
 聞いたところで、だって言いふらしたりしないし。
ちゃんは異世界ってどういうものだと思う?」
「ええと……そうですね、異なる世界ってぐらいだから……進む方向性が違っている世界とか」
「異世界の地球では、科学はなかった?」
「ああそっか。方向性が違うとも限らないんだ」
 科学技術はの地球も相当進歩していた……はずだ。
 あちらでは車が浮いてるなんて事なかったし、サイヤ人たちのようにあんな小型の宇宙船であちこち飛び回ったりしなかった。
 そもそも宇宙人の存在すらいるかいないか分からない。
 こちらの世界でも、悟空たちのような超人の存在はイレギュラーだから、そこは同じか?
 悩むに、大界王は笑みながらコーヒーを注ぎ足した。
「あちらの地球もこちらの地球も、土壌は同じ。宇宙だって実はくっついてるのよ」
「そうなんですか?」
「ただね、普通は行き来できない。穴が空くと質量の大きさからこちらの地球が潰れるんで、分厚い壁みたいなものがあって、互いの均衡を護ってるのよ」
 質量の大きさが違う……。
 どっちも同じだと思っていた。
「で、異世界がどういうものかというと――そうね、姉妹や兄弟、双子だと思えばいいわね。そういう意味で、進む方向性が違うっていうのは、間違いでもあり正解でもある。ああ、異世界はひとつじゃないわ。少なくともちゃんの地球じゃない地球もあるし」
 姉妹兄弟に双子。
 じゃあ同じ腹から生まれたようなものか。
 しかも更にもうひとつ地球があるとは。
 頷くに、大界王は更に言葉を続ける。
「さて。ちゃんの国で言うところの『日本語』と『英語』だけども。サイヤ人なんかも、その日本語を使ってるって分かってたかしら?」
「あっ! そうか……ベジータも、それにフリーザだってそうだ……」
 宇宙人なのに!!
 地球人でもないのに言語が一緒!
 言語を殆ど持たない種族もいると、あの世の達人の中にいる宇宙人たちを見て理解したけれど。
 そういえば、ナメック星は日本語とナメック語だった。
「うぅ……余計に混乱してきた」
 頭を抱え込む
 大界王は軽く笑う。
「もうやめとく?」
「イエッ! 全部聞きますとも!!」
 コーヒーをぐいっと飲み、さあどうぞと先を促す。
「異世界とこの世界は隣接してるわけ。絶えず立ち位置を変えながらね。特にちゃんの宇宙とここは、物凄く繋がりが強いの。だから均衡の壁を超えてきちゃう子が結構いたのよ。今は殆どそんな事ないはずなんだけど。界王ちゃんたちの分身が、向こうに存在できるぐらい、繋がりがある事に違いはないわね」
「へえ」
「神隠しって言葉があったみたいだけど、それね。一部の人間が何らかの形で壁を越えてきちゃう。言葉を教えたのが、日本人と――なんだったかしら、まあ英語という語学を使う人たちだった。
 日本語の方が伝わりが早くて、こっちが主流になったみたいだけども、英語と折半てとこかしら」
「だから、日本語と英語が共用語みたいになってんだ……。でも、なんでフリーザなんかも日本語を?」
「全員が地球に飛ばされるわけじゃなくて、宇宙中に散らばるわけよ。異世界の位置は変動するから。だもんだから、教育係やら何やらで雇われたりして、覚えてるってこと。今じゃ殆ど宇宙共通用語だしねえ」
「スケールでっかいなあ……。じゃあ、もしかしたら……私と同じように異世界から来た人が、どっかにいるわけですか?」
「今はどうかしらねえ。昔はさ、混乱の時期っていって……壁が極端に薄くなる事がままあったから、いろんな事があったけど。一般的に、日本人と呼ばれる人がたくさんいる集落もあるはずよ。知らない?」
「自称日本人に会った事はないです」
「確か東の地区にいるから、気が向いたら探してみなさいな」
「はい。……宇宙にも色々あるんですね」
ちゃんとこの地球と、こちらの地球は界王の目が届くっていうあたりで、既にイレギュラーだからねえ」
 しかし、生粋日本人がこちらに来た事があるとは驚きだ。
 そのおかげで、は言葉に苦労しないわけなので、胸の中で思わず礼を言ってしまうけれど。
 大界王はコーヒーを飲み干し、ふぅと息をついた。
「こっちからじゃ殆ど見えない第3、第4の地球では、別の世界の事を、漫画とか小説とかにしてたりするみたいねえ。多元宇宙では、お話がひとつ作られるだけで異次元がひとつ出来上がる勢いだし」
「多元宇宙?」
「異世界のようなもんね。こっちは、ひとつの事柄がきっかけで、その宇宙の何かが変化するとか……まあ、こうやってちゃんとお茶してるわたしと、そうでないわたしがいるってこと」
 ……ああ、だめだ。
 頭痛くなりそう。
「……も、もう良いです、ありがとうございました」
 とりあえず、聞きたい事の答えは分かったし。


「なんだ、どうしたんだ? えれぇ疲れてるみてえだけど」
 ぐったりとテーブルに身体を預けているに、休憩中の悟空が話しかけてきた。
 あははーと軽く笑い、体を起こす。
「いや、ちょっと考え込みすぎて……うん、ほんとにもう考えるのやめる。今こうやって私がいるってだけで、充分……」
 悟空は首をかしげ、
「オラ、がいてくれるだけで充分だけんど」
あっさり言う。
 大界王は笑い、も微笑む。
「そうだよね……うん、私も悟空がいてくれるだけで充分だし」
 宇宙間の難しい事は、偉い人たちに任せておこう。

「……でも、どっかいにいないかなあ……生粋日本人」


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当然ですが、完全な嘘っぱちです。
一応、DB世界の共用語は英語だと思ってますが、会話の都合上日本語も共用語に混ぜました。
もし言語が完全に英語だと、なんでヒロイン喋れるんだ、っていう話になるので。
アニメでは、確か英語が外国語扱いになってたような気もしますし。
ドリームじゃないですね、これは……。
2005・10・26