トランクスと悟天の動きが殆ど完璧になった。
 ピッコロが頷く。
「よし、そろそろフュージョン出来るかどうか、試してみてもよかろう……」
 すぐさま始めようとするピッコロに、近くで見ていたが進言する。
「凄く強い人になると、神殿が気でこわれちゃうかもよ?」
「……うム、そうだな。では外に出ろ」
 少年2人は間延びした声を発する。
 トランクスと悟天に手を引かれ、は彼らと一緒に、外に歩いて行った。



子供たち 4



 外に出て、少年2人が定位置につくと、神殿の中からぞろぞろと仲間たちが出てきた。
 皆、フュージョンをするというので、興味があって出てきた模様。
 の手を引き、皆よりほんの少し近くで悟天とトランクスを見る事にした。
「フュージョン成功するといいわね」
 ビーデルが言い、が頷く。
 フュージョンで合体が成功すれば、凄く強い戦士になるらしい。
 クリリンは、
「外見はどうなるんでしょうね」
 亀仙人に訊ねる。
 誰も見たことがないから、口にしたことは予想にしかならないのだが。
「まあ、あのチビ2人は結構似とるから、そう変わらないんじゃないかのう。それとも、全く違うムキムキのマッチョマンにでもなるのかのう?」
 ムキムキのマッチョマン……。
 想像したは、うっと顔をしかめた。
 ――ぼでぃーびるだー、というのみたいになるのかなあ。
 以前テレビでやっていた折に見た、極端な筋肉の人々を思い返してしまう。
 兄やべジータなどは、均整の取れた、物凄いバランスのいい体だし、何よりテカテカしていない。
 が見た人々は、何かを塗っているのか汗なのか、体が奇妙に照り輝いていて。
 なんだか怖くて、泣いてしまったような気もする。
 若干、トラウマ気味だ。
 合体というのは、2つのものを1つにする行為だと聞いているし、どう考えてもそんな風にはならないだろう……と思うけれど。
 なったら、ビックリしてしまうだろう。
 ……泣くかも知れない。
「ねえ、名前はどうなるのかしら?」
 がビーデルに問う。
「どうかしらね。トランクスくんと悟天くんだから……」
「ゴテンクスか、トランテン? それとも全然別の名前になっちゃうのかな」
 うーんと悩むとビーデル。
 は首をかしげ、悟天たちの方を見た。
 今は互いの気を調整しているようで、小さい触れ幅ながら気が動いている。
 この作業が難しい。
 魔人と戦うときに、こんな風に目の前で合体する事になったら、負けてしまうのではないかと心配になる。
 ピッコロが「よし」と声をかけた。
「2人の気は全く同じになった。フュージョンを始めろ!」

 悟天とトランクスは息を整え、タイミングを合わせ、フュージョンポーズを取る。
 彼らの練習をずっと見続けていて、ポーズを完全に覚えていたは、ポーズミスに気がついた。
 けれど当人たちは必死なので動きを止めず、最後まで動きを終える。
 互いの人差し指が触れ合った瞬間、2人の体から強烈な光が溢れた。
 低く空気を震わせる音がし、光が収束して――更に大きな光になる。
 閃光が弾けた。
 余りの眩しさに、はきゅっと目を閉じる。
 目蓋の裏に通す光が消えた頃、ゆっくり目を開いて――そうして驚いた。
 の前にいたのは2人ではなくなった存在だったし、何より。
「とってもポッチャリだよう?」
 ――そう、フュージョンした彼らは、とても肉付きがよかったのだ。
 ピッコロが目を丸くして動きを止め、唖然としている。
 クリリンが顔を引き攣らせ、
「あれが本当に、魔人ブウを超すかも知れんという奴か……? そ、そうは見えんけど、きっとそうなんだろうな……」
 感想を言う。
 後ろにいたヤムチャは、
「そっ、そうか! 目には目を! 太い者には太い者をなんだ!!」
 興奮していたものの、走り出したフュージョン済みの悟天とトランクスが、いきなり息切れして止まったのを見て、失敗だと呟いた。
「ピッコロさん、トランクスくん、『ジョン』って言う時に指が伸びちゃってたよね?」
 本来ならばグーでなければいけないのだが。
 の言葉にピッコロは頷く。
「よし、次はしっかりやるんだ。……どうした、さあ戻れ」
『どうやって戻るの』
 わ、声がダブってる。
 驚くは頷く。
「ユニゾンってやつね」
 とにかく、戻る方法が分からない。
 仕方なく30分間、間を置く事にした。


 質問攻めに合っているゴテンクス(自分でそう名乗ったんだから、そういう名前なんだろう)を横目に、は少し離れた所に座っているピッコロの傍に立った。
 無言のままでいると、ピッコロが声をかけてきた。
「……お前の兄は、少々お調子者のきらいがある。お前が留め金にやってやれ」
「兄って、悟天兄ちゃん?」
「そうだ」
 は、フュージョンして一体化している2人――ゴテンクスを見やる。
 今はなんというか、覇気がないように感じるから、お調子に乗るようなことはないと思う。
「ピッコロさん、フュージョンって性格も変わっちゃうのかな」
「さあな。だが、身体がひとつになるんだ、思考だって1本になるだろう」
 悟天とトランクスの性格がひとつになる。
 考えれば考えるほど、お調子に乗るタイプに変化する気がして、は思わず唸った。
 も調子に乗ることがあるだけに、人のことを言えたものではないと思うのだが、世界の命運を背負う人間がそれでは困る。
 だからこそ、ピッコロはストッパーになりそうなに、留め金になれと言ったのだ。
 実際、抑制になるかどうかは分からないが。
「うん、がんばる。お調子に乗らせすぎないようにする。……でも、できるかなあ」
 本気で調子に乗られた場合、自分にはどうしようもないと、にはなんとなく分かっていた。
 悟天とトランクスの悪乗りは、並大抵ではないと知っているから。
 

 30分が過ぎ、2人が分裂した。
 どんな気持ちだとかなんだとか、たくさんの質問をしたいらしい周囲の者を、ピッコロが止める。
 一刻を争う事態だから、余計な質問は後でと。
 は胸の前で拳を握り、
「トランクスくん、指にきをつけてね!」
「お、おうっ」
 注意を促した。

 再度、フュージョンを始める少年2人。
 かけ声と共に、先ほどと同じような閃光が走る。
 そして――光が治まった時、
「…………今度はガリガリだねえ」
 つまりは失敗だと、は息を吐いた。
 動き自体は合っていたのだが、最後の指を合わせる時、2人の指が微妙にずれていた。
 それが失敗原因。
 何もしていないのに既に疲れている戦士など、魔人ブウに絶対に敵わない。
 ゴテンクスは苦しげに咳をする。
 まるで、
「いつもすまないねえ、ごほごほ」
「いいえおとっつぁん、さあお薬ですよ」
「苦労をかけるねえ……げふげふ」
 という、家族ドラマに出てくるお爺ちゃんみたいだとは思った。
 ピッコロは眉間に指を当て、そこをぎゅっと寄せた。
「また30分後にやり直しだ」


 あまりに咳き込んでいるし、辛そうだったため、はゴテンクスの側について、時折背中を撫でてやった。
 ゴテンクスは、基本的にはあまり喋らない。
 合体が失敗しているからだろうか、ぼうっとしているばかりで、誰かと会話しようという気は更々ないように思える。
 喋ると咳が出るから、も要因のひとつだろうけれど。
「げふっ、げふ……」
「だいじょうぶ? お水飲む?」
「………いい」
 覇気がない。病人を相手にしているみたいだ。
 いやこれは、真実病人かも知れない。
 フュージョンして1人の人間になると、口に入れた物はどうなるんだろう。
 それより、攻撃された痛みも2人共通なんだろうか。
 くっついて1人になっているという状態がよく分からず、は首をかしげた。
 普段なら、トランクスや悟天が「どうした?」と聞いてくる所作だが、今はない。
 なんとなく妙な感じがした。


 30分が過ぎた。悟天とトランクスが分離する。
「3度目の正直っていうものね、次こそ成功する……わよ、うん」
 が頬を掻く。
 ピッコロは指先にまで神経を配れという、半ばダンスの注意のような言葉を吐く。
 ともあれ、再々度のフュージョンを開始。
 かけ声を合わせ、指先、足先にまで注意を配る2人の少年を、はじっと見つめた。
 最後の一瞬まで、が見る限り間違いは見当たらなかった。
 指が合わさった瞬間、今までよりも強い光が走る。
 2人を中心に、強い風が巻き起こった。
 光は吸い込まれるように収縮し――
「……うわあ、すっごーい」
 は思わず拍手をした。
 髪は悟天の黒とトランクスの紫で、超化したみたいに逆立っている。
 腕をむき出しにした、ジャケットのような服を身につけたゴテンクス。
 立っているだけで、相当の気を発していた。
 戦いをする者たちには彼の凄さが分かるが、ブルマには分からないらしい。
「へー、そんなに凄いんだー」
「わたしにも分かるぐらい凄いですよ! 本当に凄い……」
 ビーデルが拳を作って興奮している。
 は気がはっきり分かるわけではないが、ゴテンクスが尋常ではないということだけは分かっているのか、目を瞬いていた。
「よ、よし、上手くいったな。30分後、次は超サイヤ人で成功させるんだ」
 ピッコロの言葉に、ゴテンクスは人差し指を振る。
 口端を上げて鼻で笑う姿に、は思わず眉をしかめた。
 お調子に乗っている部分が強く出ている気がしたからだ。
 ゴテンクスへのの心配は、
『魔人ブウを倒すぐらい、このままで充分だぜ』
 思いっきり当たってしまったようだ。
「ば、バカ者、何を言うっ!」
 その程度では負けると怒鳴るピッコロにも、ゴテンクスは強気な態度を崩さない。
 強さが信じられないなら、今すぐにブウを倒して来てやると言い放った。
「まっ、待て、トランテン!」
「……ゴテンクスです」
 ピッコロの名前ミスに、ミスター・ポポが冷静に突っ込む。
『少し待ってろ! あっという間にブウを倒してきてやるぜ!』
 物凄いスピードで飛んでいくゴテンクス。
 はため息をつき、
「ピッコロさん、わたしも行ってくる!」
「まっ、待て、どうするつもりだ!」
 浮かんだ所でピッコロに止められた。
 確かに、が追いかけて行った所で、ブウとゴテンクスの戦いをどうこうできないとは思う。
 だけれども、お調子に乗った彼を、このまま放っておくこともできない。
「危なくなったら、ゴテンクスをひっぱたいてでも逃げるの!」
 心配そうな表情のに気付き、は彼女に向かってにっこり微笑んだ。
「だいじょうぶ、ちゃんと戻ってくるから。行ってきます!」
 言うが早いか、はゴテンクスを追って飛んだ。



2009・6・19