老界王神




 悟飯がゼットソードを引き抜き、修行し始めてから1日が経過した。
 元々武術の素養がついているだけあって、剣術も――自己流ではあるが――めきめき上達し、最初の頃のように、ゼットソードの重量に振り回される事もなくなっていた。
 剣の重みで腕力が相当ついたようだ。
 上手く剣の重みを使い、手元で細かい操作をして、素晴らしい剣術を目の前で披露してくれている。
 はそれを見て、異世界にあった剣技を少し思い出したりした。
 自分は棒術をやっていたので、剣術は範疇外だったのだけれど。
 完全に片手で扱えるようになったそれの切っ先を、悟飯は地面につく。
 彼は息を吐き、汗を拭った。
 岩にどっかと腰かけている悟空と、その横にちょこんと座っているが同時に拍手を送る。
「すげーすげー! よく1日でそこまで使いこなせるようになったなあ!」
「うんうん。最初は剣に振り回されてる感じだったけど、今は使ってるって感じだよ」
 嬉しそうに頷く
 悟飯は、照れくさそうに後頭部に手をやって笑む。
 界王神も素晴らしいと褒め称えるが、相変わらずキビトだけは仏頂面だ。
 もう1日経過しているというのに、変わらず界王神界に人間がいるのが気に入らない様子。
 そんなに頑なになっていると、頭硬くなるよと言いたい。
「……んー、でも悟飯。物凄く強くなった? それともやっぱり、その剣がめっちゃくちゃに切れ味いいのかなあ」
 ゼットソードを引き抜いた者には、強大なパワーが与えられるという話だった。
 だけれども、今のところ悟飯に凄い変化は見られない。
 確かに、腕力はついたようだが。
 ――ちなみに、今はと悟空の手は繋がれていない。
 昨日はとにもかくにも触れていないと嫌がった悟空だが、今日は少し落ち着いた様子で、とりあえず当面危険がない場所であるし、見える範疇で余り遠くに行かなければ、触れていなくてもいいと自分で勝手に決めたようだ。
 常に手を繋いでいるのは、行動に制限をかけているようなものだから、離してくれたのはありがたい事である。
 暫く、悟飯が剣を弄んでいるのを見ていた悟空が「そうだ!」と剣を示す。
「悟飯、その剣の切れ味ちょっと試してみようぜ! すんげえんだろうなあー」
「いいすよ」
 言うと、の手を引っ張る。
「悟空?」
「これこれ。まずはこの岩な」
 今までと悟空が座っていた岩は、かなり大きい。
 悟空が手に力を入れて、岩を持ち上げた。
 界王神たちが目を丸くして、彼が持ち上げた岩の大きさを見ている。
 確かに、普通は片手で引っ張り上げるような重量ではない。
 明らかに自分や悟飯の背丈よりもある岩を、軽々と持ち上げて頭の上にする悟空。
 よたつく事もなく、悟飯の正面に立った。
「いくぞ! ほれっ!」
 大きなボールを、一直線に投げるように大岩を放る。
 悟飯は剣を持つ手に力を入れ、剣の重みと力で岩を斬った。
「たーっ!」
 白刃が煌めく。
 大岩はゼットソードに斬られ、ほぼ中ほどから真っ二つに割れて、悟飯の背後に飛んで地面を削った。
 おお、凄い!
「まさに一刀両断」
 うんうんと頷いているに、悟飯が軽く笑った。
「岩ぐらいでは、びくともしませんね、この剣」
「まだなんかあっかなあ……」
 界王神が待ったをかける。
「どうせなら、もっと硬いもので試してみましょうよ」
 言うと、手の平を空に向ける。
 何だろうと思ってみていると、界王神の頭上に微かな歪みが生じた。
 小さいバイブレーションの音がして、空中に線が走る。
 光の線が正方形を形作ると、黒くて鈍い光を放つ重量のありそうな石が宙に浮いていた。
「悟空さん、これを」
 手を振ると、悟空の方へ放物線を描いて飛ぶ。
 受け取った彼は、先ほどよりもやはり重量があるらしいそれを、一瞬踏ん張って受け止めた。
「それって、ダイヤより硬いんですかね」
 の疑問に、界王神がもちろんと答える。
「ダイヤなんて、目じゃない位に硬いですよ。なにしろ、宇宙で一番硬いと言われている、『カッチン鋼』というものですから」
「ひゃ〜〜、硬ぇなあ!」
 悟空が軽くカッチン鋼を小突くと、カツン、という音ではなくて、キンッ、という音がした。
「あれって、鉱物……ですよね?」
「ええ、分類としては金属になります」
 小突くと、キンッて音がする金属。
 内面で反響しているはずはないと思うが。
 ――宇宙には不思議なものが沢山あるなあ。
「でも、そんな硬いので試し切りしちゃって、大丈夫なのかな……」
 キビトが咳払いをする。
「無論、平気に決まっている。ゼットソードは界王神界の伝説の剣なのだからな」
「はぁ……まあ、平気だと仰るなら、いいですけども」
 自信たっぷりの物言いに苦笑してから、悟空たちに視線を戻す。
 伝説の剣が切れ味鋭くて素晴らしいのは、ゲームの中だけのような気がするけれど。
 余り過信していると、足元をすくわれるという事もあるし。
「よーし、そんじゃいくぞ!」
「はいっ!」
 悟飯が柄を握り込む。
 悟空は先程よりも勢いをつけて、カッチン鋼を投げつけた。
 勢いよく飛んでいくそれ。
 丁度の位置で、悟飯の剣がカッチン鋼を捕らえた。
 振り下ろされた剣と金属が衝突し、火花を飛び散らせる。
 カッチン鋼の硬度に、剣が声なき悲鳴を上げた。
 金属に当てた部分の刀身が、勢いと硬さに押し負ける。
 軽く後ろに反った剣は――
「いぃっ!?」
 当然でしょうとばかりに、キィンという音を立て、3分の1程の長さのところからボッキリと折れて、悟飯の後ろに転がった。
 カッチン鋼は悟飯の頭上を通り過ぎ、地面に一度バウンドし、大地を激しく削ってから止まる。

「………」
「………」

 大丈夫だと絶対の自信を持っていたキビトも、界王神も、顎を外さんばかりに大口を開けてて驚愕している。
 悟飯も、折れた剣を持ったまま無言の状態で、
「………折れたけど」
 がポツリと呟くと、顎を外しそうなままの状態で、
「そそ……そんな……ゼ、ゼ、ゼ……ゼットソードが……折れ、折れ……」
 界王神がぼそぼそ呟く。
 キビトも同様に、
「さ、さ、さ……最強の剣が……あがが……」
 かなり驚いている。
 だって、界王神界最強の剣が折れて驚いてはいるが、伝説が身に沁みていた訳ではないので、そこまで驚いたりはしない。
 悟空が頬を掻きつつ、界王神たちを見やる。
「あーあ。界王神さまがあんな硬いので試してみろって言うから……」
「だ、だって……手にした者は……世界一の力を持つ事ができると……。こ、この聖域の、伝説の剣なのですよ……?」
 でも、実際折れたし。
 情け容赦のない事実を、心の中で言う
 伝説というのは、どこかしらで歪曲されていたりする事が往々にしてあるため、もしかしたら――と思ってはいたが。
 ばっきり折れている剣を見つめ、悟飯はそれを下に落とす。
 相変わらず重たそうな音を立てて、剣は地面に転が……いや、めり込んだ。
「ちょっと大げさな伝説だったみたいですね……。でもまあ、おかげで腕力は随分と上がりましたよ」
 ぐっと拳を握ってみせる悟飯。
「あのゼットソード、すんごく重かったから。もしかしたら、そういう事で世界一の力が手に入るって事だったのかも」
 界王神がうんうんと頷く。
 救いを得たように、拳を握り込む彼。
「な、なるほど……普段の状態でそこまで力がついたのなら、超サイヤ人になれば更に相当のパワーアップになっているはず! そ、そうですよ……きっとそれが世界一の力なんです」
「けどさあ、魔人ブウ以上ってのは、ちょっとなあ……」
 悟空が腕組みをして言う。
 も頷いた。
 確かに強くはなるだろうけれど、あの魔人ブウに腕力がついたからって勝てるとは思えない。
 その場にいる者たちが唸っていると、界王神の背後から声がかかった。
「へっへ〜、違いますよ〜〜だ」
 先ほどまで全く気配がなかった人物に、それぞれ驚く。
 見れば、界王神と格好が似ているおじいちゃんで。
「ありゃ? なんだ、あのじいちゃん……」
 悟空の質問に、おじいちゃんが答える。
「わしゃあよ、おめえ、そこのよ、15代前のよ、界王神なんだな、これが」
「えっ!? じゅ、15代前の界王神さまですか!??」
 界王神が驚き、キビトも眼が飛び出さんばかりに驚いている。
「むかーし昔よ、やたらめったら強くてよ、わるーい奴がおってよ。まあ今の魔人ブウほどじゃあないけどよ、そいつによ、あの剣に封じ込められちまったんだな〜〜これが」
 わしの恐ろしさにビビってそうしたんだと笑むおじいちゃん……いや、老界王神。
 は悟空の横に立ち、こそっと耳打ちする。
「失礼ながら、そんな凄い人には見えないよねえ?」
「だよなあ」
 頷く悟空の目が、悪戯を思いついたみたいに、無邪気な光を灯した。
 悟飯とにニッと笑む。
「ちょっとよう、試してみっか」
 試す?
 何をするのと問う前に、悟空はさっと右手を押し出して気弾を打ち込んだ。
 弱いそれはまっすぐに老界王神に突っ込むと、彼の顔に着弾した。
 当然避けていないし、のように防御壁を張ったりもしていないため、モロにダメージを食らう。
「い!?」
「あーっ!」
「うぇ!!??」
 悟空、、悟飯の3人が同時に驚く。
 界王神とキビトが慌てて駆け寄り、大丈夫ですかと声をかけている。
「ご、悟空……まずいって……」
「いや、だってさあ……すげえって当人が言ってたしよお」
 それはそうなのだけれども。
 問答無用で気弾はどうなのか。
 もっとも、不意打ちでなければ凄いか凄くないか、分からないかも知れないが。
 老界王神はがばっと起き上がり、界王神とキビトを押しのけるような勢いで悟空に怒り散らす。
「あ、あほたれっ! なにすんじゃい、このウンコたれのオシッコちびりっ!」
 ぼけ、かす、バカモノ! と続けて文句を言いながら暴れる老界王神は、どう見ても凄そうではなくて。
 というか悪口のレパートリーが……。
 悟空は失笑し、
「やっぱ、ただのホラ吹きジジイだ……」
 力なく首をすくめる。
 すると老界王神は拳を握って悟空に告げる。
「て……敵がビビったのはよ、わしのパワーじゃない……! わしの恐ろしい『能力』なんじゃ!」
「え? 恐ろしい能力って??」
 興味が湧いいたらしい悟空に、老界王神は腕を組み、鼻を鳴らす。
「ふ〜〜んだ。もう教えてやらないよ〜〜だ。べべべのべ〜〜」
 た、態度が界王神らしくない……!
 どうして、界王と名のつく者にはこう癖がある人が多いのだろうと、は思う。
 思えば自分の父親――界王もダジャレ好きだし(他3人はそうではないが)、大界王様も飄々としているし。
 しかし、恐ろしい能力……。
 悟空でなくとも興味がある。
「な、なあ。教えてくれよー」
「ふんっ」
 顔を逸らす老界王神に、悟空は暫しの間考え――

「今度、エッチな本やるからさあ、教えてくれよ〜!」

 ……をい。
 が思わず固まる。
 今、何て言ったようちの夫は。
 思わず顔が引き攣ってしまう自分を自覚していると、老界王神は目を大きく開き、どこか遠くを見るような素振りを見せた。
「そんな本見んでも、わしは神眼で入浴シーンとか着替えとか、全部見えてるも〜ん」
 ずっこける界王神とキビト。
 いやほら、コケてる場合じゃないでしょ。
 諫めようよ……神って名前がついてるんだから……。
 けれども悟空は諦めず、老界王神に耳打ちする。
 耳打ちといっても、それなりの声だったので、近くにいるや悟飯たちにもしっかり聞こえていたりするのだが。
「じゃあ、そのうち本物の女のオッパイやシリを触らせてやっから」
「!!」
 思い切り反応する老界王神。
 自分の夫のとんでもない発言に、のこめかみがピクリと動く。
 触らせる発言に、老界王神の目が怪しげに光った。
 だらしなく顔を緩ませ、悟空を見る。
「ほ、ほんとか? ほんとだな!」
「ああ! バッチリさ!」
 バッチリじゃないでしょうが!!
 呆れるやら情けないやらで、引き攣り笑いを浮かべる
「おっ、お父さん。そんな事言っちゃってどうするつもりですか!」
「オラはもう下界には行けねえからさぁ……おめの彼女いたろ。とビーデルって。どっちでもいいから、今度触らせてやってくれ」
 父親のとんでもない発言に、悟飯の顔が真っ赤になる。
「じょっ、冗談じゃないっすよ!」
 思い切り叫び、第一、と彼は付け加える。
「その凄い力があれば、魔人ブウに勝てるっていうんですかっ!?」
「そうだなあ、どうなんだ?」
 悟空が老界王神に聞くと、彼は、絶対とは言えないが、いけると思うと答えた。
「みろよ。シリやオッパイ触らせるだけで、宇宙が救えんだぜ?」
「完全なセクハラじゃないすか……。さんに軽蔑されちゃいますし、ビーデルさんには殴られそうですよ……」
「んー、困ったなあ」
 腕を組んで暫く考えていたものの、悟空は誰かを思いついて、うん、と頷く。
 改めて老界王神を見た。
「なあ、ちょっと年くっててもいいか?」
「色気があれば……しかし、年なぁ……う〜〜む……おっ」
 老界王神はニヤリと笑う。
 悟空の発言に呆れるやら腹立つやらしていたは、老界王神の――こう言っては何だが、いやらしげな――視線を受けて、思わず腰を引いた。
 な、なんですか、その獲物を狙うような目はッ!
 じんわり近寄ってくる老界王神。
 近づくだけ後ずさる。
「ほほぅ、いい娘っ子がおるでないの。わし、その娘がいいのう」
「その娘って……」
 老界王神の視線の先に、がいる事に気づいた悟空。
 あっという間に彼女を自分の背に隠した。
「だっ……ダメだ! こいつはっ」
「なぁに。ちぃーっと触らしてくれるだけでええ。それ以上は何もせんて」
 は悟空の背後で「うっ」と詰まる。
 確かに胸や尻をほんの少し触らせるだけで、宇宙が救えるなら凄い事だ。
 それに自分がここで拒否したら、その役回りがブルマに行くような気がしていた。
 色気があって、ちょっと年が上、という項目に当てはまるのが、の知る限りブルマぐらいなものだったので。
 大事な親友にそんな妙な事をさせたくはないし――。
 んー、と悩んでいると、悟空に手をつかまれ、咎めるような視線を投げられる。
「なに悩んでんだよっ、ダメだぞ!」
「で、でもさ……」
「ダメだったらダメだ!!」
 悟空はキッと老界王神を睨みつける。
のシリやオッパイ触っていいんは、オラだけだっ!」
「ごく……うわっ!」
 掴まれていた腕を引かれ、は正面から抱きしめられた格好になる。
 慌てて離れようと彼の胸を押すが、背中と腰に回された手は、全く外れてくれる気配がない。
 睨みを利かせている悟空に、老界王神はそれでも粘る。
 の腰周りを舐めるように見た。
 別に触られている訳ではないのに、ちょっと悪寒が走ったのはどうしてだろう?
「ちびっとぐらい、ええじゃろうよ」
「ぜっっっってえダメだ! オラの女に手ぇ出す奴は、神様でも閻魔さんでも界王神様でも容赦しねえっ!」
 物凄いセリフを言われて、は悟空の腕の中で縮こまり、顔を伏せる。
 老界王神は至極残念そうにため息をついた。
「……しょうがないのお。じゃあ、別のオナゴで」
「悟飯、ブルマに頼んでおいてくれな!」
 先ほどまでの勢いはどこへやら、を抱えたままの悟空は、悟飯にそう頼んだ。
 無理だと首を振る悟飯を無視し、悟空は決定! と笑む。
 ごっ……ごめん……ブルマ……。
「それで……凄い力っていうのは、なんなんですか?」
 体を少し捻るようにして、が老界王神に問う。
 彼はひとつ咳払いをした。
「わしゃあよ、超能力でよ、どんなに凄い達人でもよ、隠された力をよ、限界以上に引き出す事ができるんだな〜〜これが。うへへへ、聞いた事あるか、こんな凄い能力」
 おおーー! と驚く界王神とキビトの横で、悟空と、悟飯は、割とよく聞く能力だなあ、なんて思った。
 口に出したのは悟空だけだったけれど。
 老界王神は剣を抜いた悟飯を呼び寄せ、彼に力を与えると宣言した。
「しかしよ……あの剣抜いてよ、わしを出してくれるのはよ、界王神の誰かだと思ってたらよ……地球人とは世も末じゃの〜」
 一応、地球人とサイヤ人のハーフではありますが。

 悟飯を立たせた老界王神は、魔人ブウを倒して来い! と大声で言うと――
「……なんの踊りだろう、あれ」
 手を上下に振り振り、腰を振り振り、悟飯の周りを歩き(踊り?)出した。
 暫く見ていたが、ずーっとその行動を続けている。
「あ、あの……」
 悟飯が声をかけようとするが、大切な儀式だから静かにしろと一喝する老界王神。
「フンフフーン、はっはっ! イェイイェイ!」
 ……。
 …………。
 ええと。
 いつ、終わるの?
 は悟空の服をくいくいと引っ張る。
「あ、あれって時間かかるのかな?」
「そっ、そうだな、聞いてみっか」
 悟空が老界王神に、どれ位の時間がかかるのかと問う。
 返ってきた答えは、
「儀式に5時間。パワーアップに20時間だっ!」
 うんわぁ、凄いかかりますね……。
 時間を聞いた瞬間、悟飯の顔が引き攣った。
 立っているだけなので、普通に修行しているより絶対に辛いはずだ。
 は内心で悟飯にエールを送る。
「オ……オラちょっと昼寝でもすっかな……」
 が、彼は何を思ったのかを見つめる。
「? 悟空、どうしたの」
「……そか。時間かかんだよな……。よっし、、行こうぜ」
「はい?」
 抱き締めるのを止めた悟空に、今度は手を引かれる。
 ダンスしている老界王神と、その中心に立っている悟飯とは逆の方に向かって歩き出そうとする悟空に、界王神が声をかけた。
「あ、あの、悟空さん。どちらへ?」
「んー別に。ちっと寝てくるだけだ」
「お休みでしたら、この辺でも……」
 言う界王神に、悟空はを見てから、もう一度彼に視線を戻した。
「別にオラは構わねえけんど。界王神さま、オラとのエッチ見てえんか?」

「「ぶはぁっ!!!」」

 吹き出す界王神とキビト。
 は顔を真っ赤にし、悟空の手を振り解こうとするが、離してくれなかった。
 繋がれた手が妙に熱い。
 顔が熱いのかも。
 老界王神は踊りを続けながらも、たちに目を光らせた。
「ごごご、悟空さん! 一体なにをっ」
「そ、その通りだ! この界王神界でそんなハレンチな!!」
 耳まで真っ赤になっている界王神に、怒るキビト。
「そうだよ悟空っ! い、いきなり、なっ……なに言い出してっ」
 焦るに、彼は飄々と言ってのける。
「だってオラ、ずーっと我慢してたんだもんさ。が側にいるし、時間もあるしよ」
 いいじゃねえかと軽く笑う悟空だが、どこか『邪魔すると許さないオーラ』が漂っている気が。
「悟飯が頑張ってるのにっ」
「じゃあ、悟飯がオッケーすりゃいいんだな? 悟飯! いいか!?」
 そういう問題でもないと言う間もなく、悟飯の方が了解の意を示した。
「ちょっと悟飯っ!」
「僕には飢えたお父さんを止められません」
 苦笑混じりのひと言で、バッサリ切り捨てられる。
 悟空に爽やかに微笑まれたは、うっと詰まり――抵抗を諦めた。
「そんじゃ、オラたち行ってくんな」
 を抱えて飛び上がる悟空。
 彼の腕の中で、は思う。
 ……別に、彼がしたくなるような言動をした覚えはないんだけれど、と。


 寝顔を見せたり、ブウに「自分は悟空のものだ」と言ってみたりした事が、これに繋がったとは思わなかったであった。




2009・6・5