三段階目 超サイヤ人3を見せてくれるという悟空について、外に出たたちは、とりあえず広い場所に出た。 相変わらずの手は悟空に掴まれているが、別にそれが嫌なわけではない。 ……ただ少し、行動し辛いという点があるが。 「さてと。そんじゃ、なるか。、手ぇ離すけど、ぜってぇ見えるとこにいろよな」 「大丈夫だってば」 苦笑し、手を振る。 は、界王神さまに近寄ると、悟空に気取られぬよう(なんと難しい事か!)耳打ちした。 「界王神さま、私が仮死状態……っていうか死にそうになった事、言わないで下さいね」 「ああ、はい。分かりました」 頷いて、は悟飯の横に戻った。 少し離れた所にいる悟空は、息を整え――気を入れ始めた。 拳を握り、見る間に気を高めていく彼。 悟空の気の力で、界王神界の大気が震えている。 超サイヤ人になった姿が、徐々に変化を始めた。 「……お、お父さん凄い……まだ気が上がっていく」 悟飯も少々興奮した様子で拳を握り、変貌を遂げていく悟空を見つめていた。 どういう事なのかは良く分からないが、の目の前で彼の髪が伸び始める。 超化時独特の、逆立つ金髪が伸びてきて、悟空の腰の辺りか――それより下にまで来る。 気も、それと共に成長するみたいに上がっていって。 ただ立っているだけで、空気が震えるほどの気を発している悟空に、キビトは大口を開けていた。 「これが、超サイヤ人3ですか……」 界王神も冷や汗らしき物を流しつつ、超サイヤ人3になった悟空を見やる。 「す、凄いですよ、お父さん!」 「苦労したんだぜ、これになるのは」 は近寄ってくる悟空に近づき、目をぱしぱし瞬かせる。 「ご……悟空……?」 「ああ」 「……人相が違う」 なんというか、眉がないからなのか、ピッコロに似た雰囲気もどこかありつつ、だからといって決して彼でなくなってしまった訳でもなくて、微妙な感じがする。 物言いも相当違う気がする。 適切な表現かどうかは分からないが、彼が始めて超化した時――フリーザと闘った時に、感じが似ている気がした。 今でも極稀に、気が昂ぶると『オレ』と言ったりする超化版の悟空だが、そんな感じがする。 「んー、なんか妙な感じがする。長髪だし。個人的には普通の超化の方がスキ」 「つええんだけどな。――悟飯、ちっと闘ってみっか?」 「いっ、いえ、止めておきます……今の僕じゃあ、すぐダウンさせられちゃいますよ……」 肩を落とす悟飯。 悟空は少し残念そうにし、超3状態を解いた。 いつもの黒髪に戻った彼に、は笑む。 「うん、やっぱりいつもの悟空が一番」 悟飯がゼットソードを振り回し、修行を始めた。 界王神にキビトは立ったまま、と悟空は樹の根元に座って、修行風景を見ている。 柔らかな風が時折過ぎ行き、和やかではあるのだが、和んでいる場合ではない事も理解している。 地球の事を考えると、不安で気持ちがざわつくけれど、今の自分にできる事が思い浮かばなくて。 力が戻ったら修行しようと思うのだけれど、今は休眠している異能力。 どうしようもない。 それに、悟空が側にいて気が抜けているのか、それとも単純に疲れたのかは分からないが、先ほどから少し体が気だるい気がしていた。 小さく息を吐き、樹に体を預ける。 「……、どうした?」 気遣うように優しく声をかけてくる悟空に、小さく笑む。 「大丈夫。なんか少しだけ、だるくって」 悟飯が一生懸命修行しているのに、自分がここでへばっているのは申し訳ない気がする。 は樹から体を離そうとし、凄く疲れているらしい自分に気付く。 体が重い。 先ほどまでは普通に動いていたのに、ほんの少し休憩したら、それが逆に、疲れを自身に認識させてしまったみたいだ。 眠気がじわじわ込上げてくる。 界王神が気付き、に近寄った。 「さん、体が辛いんじゃないですか?」 「はい……どうしたんでしょう、私……」 「具合でも悪ぃのか? 痛いとこねえか?」 心配する悟空に、大丈夫だからと告げるものの、相変わらず体が重い。 「無理なさらないで、少し眠った方がいいですよ。一度死んだような状態から復活したんですから――」 その言葉に悟空が反応する。 しまった! と界王神が口を噤むが、耳に入った言葉を帳消しになどできない。 「……なんだ、その『一度死んだ』ってのは。オラ、聞いてねえぞ」 悟空に肩を捕まれ、は思わず界王神をじろりと睨む。 「……言わないで下さいって、言ったのに」 「すっ、すみません!」 「どういう事だ、」 じとんと悟空に見据えられ、は小さく息を吐き、説明する。 魔人ブウとの戦いで、半死人の状態になった事。 は覚えていないが、どうやら一瞬、心臓が止まったらしい事。 誰かの凄く強い願いや想い(間違いなく悟空の想い)を受けて、自身を護る異能力が発動し、すっかり回復したけれど、そのせいでか異能力が現在休眠中。 ついでに、今現在、の体はどうやら疲労しているらしい事などなど。 すっかり話してしまって悟空を見やれば、彼は口をつぐんだままで。 「悟空、ごめ……うわ!」 謝ろうとしたは、悟空の手で引き寄せられ、気付けば樹に寄りかかっている彼の、あぐらの上にちょこんと座った状態で。 界王神がわざとらしい咳をひとつし、顔を逸らして立ち上がると2人に背中を向けた。 「……悟空?」 「、オラ、もうホントにおめえの事、離したくねえよ……」 切なげな声。 背後からぎゅっと抱きしめられ、胸が波打つ。 耳朶に彼の息がかかり、全面的に疲れているはずの体が、それでもほんのり熱さを訴えた。 「おめえを失うのが、怖ぇ。ずっとオラんとこさ居て欲しい……」 「ずるいよ、悟空。自分は死んじゃったくせに。普通は、死んだらもう会えないんだからね?」 仕方がなかったのは、分かってる。 ナメック星のドラゴンボールで復活できるものを、そうさせなかったのも地球を――ひいてはや悟飯たちを――思っての事だと理解している。 でも、そんな風にいなくなってしまったのに、彼は自分を、こうして改めて言葉で縛っていて。 縛られている事は嫌じゃなくて、縛っていて欲しいと感じてしまう自分の気持ちも困りもの。 小さく息を吐くことで、体に溜まった疲労感を追い出そうとする。 それに気付いた悟空が、を胸に寄りかからせた。 腹部のあたりで組まれた彼の手は、楔のようでもあり、檻のようでもあり。 悟空の体温と自分の体温が交じり合って、気持ちがよくて。 もしかしたら、彼の気持ちが一番気持ちよくて。 このまま眠ってしまいたくなる。 目を擦るの耳朶に、軽く悟空の口唇が触れる。 「ん……」 「ねみいんだろ? 寝ちまえ。なんかあったら、起こしてやっから」 「でも、悟飯は頑張ってるし……」 「おめえが倒れたら、悟飯だって気にして修行に集中できねえぞ。寝られる時に寝ちまえ。……先になにがあっか、分かんねえんだからさ」 諭すように言われ、は眠たげな眼を軽く擦り、周囲が気にならないほどに眠気を溜め込んでいる体に耐え切れなくなる。 うとうとし出したを、悟空は横抱きにして背中を支えてやりながら、肩口に頭を預けさせた。 は悟空に寄りかかり、瞳を閉じる。 「ごめん……ほんの、ちょっとだけ……ちょっとだけ……」 小さな声で、自身に言い含めるように呟くと、彼の胸辺りの服をきゅっと握って――そのまま眠った。 すぅ、と寝息を立て出した。 それを見た界王神が、キビトに命じてブランケットを出させる。 「どうぞ。ここで風邪を引く事はないと思いますが」 周囲はそれなりに暖かいが、念のため、と界王神はブランケットを悟空に渡した。 「サンキュー」 自分はともかく、にきちんと掛けてやる。 彼女は一瞬、ほんの少し瞳を開けて悟空を見やると、ふにゃっと笑んで、丸まったようになり、また眠りに落ちた。 悟空は思わず口元に手をやり、あらぬ方向を見つめる。 (……やっべえ可愛い……。で、でえじょぶだ、落ち着け! オラは平気だっ!) 何に対してか分からないが、内心で叫ぶ。 自身を律しておかないと、疲れて眠っている彼女を襲いかねないと、ちょっと本気で思った。 今の彼女の姿を見て、3人も子供を生んだなんて誰が思えるだろう。 見目が殆ど全く変わらないのは、悟空とて同じ事であるのだけれども。 小さく息を吐き、少しずり落ちてきた彼女を抱えなおす。 「なあ界王神さま。、平気なんか?」 「え? ええ。異能力を休眠させるほどの力を一気に使いましたし、何より悟空さんがいるから、安心して気が抜けてしまったのでしょう。寝室もありますが、寝かせてきますか?」 「いや、ここでいいさ」 の額に軽く口付け、ふっと笑む。 余りに幸せそうな――柔らかい笑顔で、界王神もキビトも、思わず顔を逸らした。 悟空は気にせず、を抱いたまま悟飯の修行を見守った。 が起きたのは、それから約3時間が経過した頃だった。 2009・4・28 |