やっとこトランクスが戻ってきた頃には、ブウの「を殺した」という発言で泣いていたは涙を止め、落ち着いていた。 悟天も泣き顔を治め、の手を掴み、修行場に戻る。 「、ボクたちで、絶対にカタキをうつんだ!」 「うんっ」 子供たち 2 後30分程――それ以下――しかいられない悟空は、相当辛そうだったが、フュージョンの伝授は彼しか出来ない。 は心配しながらも、悟天とトランクスの修行風景をじっと見ていた。 超サイヤ人3の凄さを見たトランクスと悟天は、今までが嘘のように素直になっている。 教える側としては、都合がいいはずだ。 通常状態で、気を全く同じにする訓練を少しし、時間がないのですぐ次に移った。 「いいか。フュージョンを成功させるのがほんっとに難しいのは、これからだぞ……」 「は、はいっ」 「2人の気を全く同じにした後、フュージョンポーズを、これまた2人全く同じにとれば、フュージョンできる」 ――ポーズ。 その言葉に、は嫌な予感を覚えた。 ポーズというと、兄・悟飯の、グレートサイヤマンポーズしか思い浮かばなかったからだ。 普段はカッコイイ兄の、物凄く駄目な一面をみた気がしてしまう。 まさか、あんなのではない――と思いたい。 状況は切迫していて、真剣そのものなのだが、あんなポーズは勘弁願いたいと幼心に思う。 自分がやるんじゃないにしても、だ。 の心など知らず、悟空は説明を続ける。 「まず、2人がある程度の距離をおいて立つ。そして、こうする! 腕の角度に気をつけろ」 ――ええと、ダンスみたいだね、お父さん。 まだ大丈夫だ。変じゃない。 最初から変だと決めてかかるのもおかしいが、嫌な予感が拭えないのは何故だろう。 悟空は体を正面にしたまま、右手を体の右側に向かって向けている。 「いくぞっ。フュー……」 腕を反対にしながら、実に微妙な足運び――右足を左足にくっつけ、左足を開いて右足をくっつけ――を、3歩分。 「ジョン!」 左側になっている手を、勢いよく右にしつつ、手をグーに変える。 ついでに腰を捻りながら、膝を曲げて、 「足の角度に気をつけろ!」 右腿を左足に寄せるようにして。 「はっ!!」 右足をぴーんと真横に伸ばし、左足を踏ん張り、そして両手は逆側にいる相手に向けて、人差し指を伸ばした状態で――つまり、指の先を相手の指先にくっつけるらしい。 「またまた足の角度に気をつけろよ! とくに外の足をピーーーンと伸ばすのを忘れるな!」 ……どうしよう。凄くかっこわるい。 は目を見開いて、父親が見せたポーズを、頭の中で反芻する。 どんなに良いところを探そうとしても、残念なことに見つからなかった。 兄のグレートサイヤマンポーズぐらい格好悪い。 己の美意識が間違っているわけではないのは、ピッコロやクリリン、ヤムチャなどの仲間たちの顔から理解できた。 彼らは一様に引き攣った顔をしている。 最も強張っているのは、やはりこのポーズをやる悟天とトランクスだった。 思わず「かっこ悪い」と口に出してしまいそうになり、慌ててぎゅっと口を引き結んだ。 悟空は至極真面目だし、きちんとした技なのだろうけれど、ポージングが酷……いや、凄まじい。 世界の危機と恥とをいっしょくたにしてはいけないが、それでもは思う。 ――トランクスくんと代わらなくて、よかった!! 嫌な予感どおりの、グレートサイヤマンのポージングと、似たり寄ったりである。 2人でやる分、恥ずかしさ半減だろうか。 そういう問題でもない気がするけれど。 悟空は息を吐き、ポーズをやめた。 ――お母さん、見てたらショック受けたかな。 『私のカッコイイ旦那さまが変なポーズ取ってるーーーー!』……とか。 形容はつかないと思うけれど。ショックは受けそうだ。 「今のポーズを、2人、左右対称でやるんだ、分かったな!」 やってみろと促すが動かない。 悟天とトランクスは顔を見合わせ、その後、トランクスが質問する。 左右対称って、なんだと。 説明のために駆りだされたのはピッコロだった。 元々顔色の悪い彼の顔色が、更に悪化した気がする。 「えっとだな、こうやって、鏡に映したみてえに、2人で逆に動くんだ。いくぞっ」 「「フュージョン、はっ!」」 ピッコロと左右対称の動きをする悟空。 普段クールなピッコロ。こんな動きをしていると見方が変わりそうだ。 ――ごめん、お父さん。 やっぱり、すんごい恥ずかしいよ……その動き。 一見すると完全にダンスの練習なので、修行風景を見ているクリリンも亀仙人も、唖然とした様子で悟天とトランクスの修行を見ていた。 「はい、ワンツーワンツー。ほれ、ちょっと遅れてるぞ!」 学芸会の出し物練習でもしているみたい。 一生懸命教えている悟空の後ろから、占いババがやって来た。 そろそろ時間だと告げられ、悟空はピッコロに後を任せることにした。 全員が修行場から神殿の外に出る。 「悟空、元気でなっていうのも変だが……元気でな!」 クリリンが握手をし、悟空も握り返す。 それぞれ挨拶をし、そうして悟天との前に、彼は立った。 「……お父さん。わたしたち、どうすればいいの?」 不安げに言う。 母も、兄もいなくなってしまった。 父親はこれからあの世に戻ってしまう。 今まで寄っていた大人が一気にたくさんいなくなってしまって、だけではない、悟天も不安でいっぱいだ。 まずはブウを倒すことが先決。 それさえ乗り越えれば、ドラゴンボールで元に戻ることだってあるのだから。 分かってはいても、幼い双子に現状は優しくない。 せっかく会えた父親と、遊べもしないうちに別たれてしまうことだって嫌だ。 お母さんが大好きなお父さん、お父さんが大好きなお母さん。 2人が一緒にいるのを見て、はとても幸せだったのに。 本当なら、もっとたくさん、色々なことができただろうに。 ぐしぐしと目を擦る。 ――泣いちゃだめ。泣いちゃだめ。 頑張って泣かないようにしているは、我慢しすぎでか顔が赤くなっている。 悟空はを抱え上げると、きゅっと抱きしめた。 頭を撫でてやりつつ、同じく不安げな顔をしているを見やる。 もまだ17歳。 現状を託していくには、年端がいかないけれど。 悟天とにとっての『家族』は、今は彼女だけになってしまうから。 「……、頼めるか?」 「はい。出来る限り、がんばります」 「わたしも協力するから平気よ」 ブルマが軽く笑って言った。 するりとを離し、今度は悟天を抱き上げて、同じように頭を撫でてやる。 ぐずぐず泣き出す悟天。 「ほれ、泣くな。おめえはのお兄ちゃんだろ? 双子だけど」 「……うっ、うん……」 よしよしと撫でてやっていると、の横にいたビーデルが悟空に声をかけた。 「あのっ……わたし、悟飯くんはまだ生きていると思います」 「……?」 「なんとなく、ですけど」 もそれに同意した。 ビーデルもも、気を探れるわけでは決してないけれど。 それでも、2人とも悟飯が生きているのではないかと――そう感じていた。 だから、とは続ける。 「だから、さんも生きてます、きっと」 「……うん、そうだな。そうだといいな」 悟空が浮かべた笑みは、寂しそうなものだった。 あのポーズはギニュー特選隊以来の衝撃でした…。 2009・3・20 |