魔導師の船 1



 瞬時にこちらへ飛んできたダーブラは、狙いをキビトに定め、彼の正面から気を放った。
 激しい圧力に叶わず、キビトが吹っ飛ぶ――というより、まさに消滅した。
 ダーブラの咽が動いて、唾が吐き出される。
「き、気をつけてください! あいつの唾は」
 界王神の警句も間に合わず、ピッコロとクリリンに唾が接触する。
 普通の唾ではないそれは、接触した箇所から2人をどんどん石化させていく。
 驚く間こそあれ、彼らは数瞬後には、すっかり石の彫像と成り果てていた。
「クリリン! ピッコロ!」
 悟空が駆け寄り、像に触れようとする。
 それを界王神が大声で止めた。
 触れようとした手を、そのまま止める悟空。
 界王神は首を振る。
「2人に触れて、もし壊しでもしたら、2度と元には戻れませんよ!」
 歯噛みする悟飯。
 がダーブラを見上げると、彼はニタリと笑った。
「とっとと帰るんだな! バビディ様には誰も逆らえんのだ!!」
 言うが早いか、彼は船の中へと飛び戻ってしまった。
 力を抜いた界王神に、は問う。
「2人が戻る方法は、ちゃんとあるんですよね?」
「そ、それは……」
 彼は一同を見やり、床を見つめる。
「あのダーブラが死なない限りは、戻れません……」
 悲壮感たっぷりの声で言う界王神に、は目を瞬き、悟空は口の端を上げて笑んだ。
「なぁんだ……あるんじゃねえか、そんな簡単な方法が……!」
「お父さん、行きましょう! どっちにしても行くんでしょ、2人を助けなきゃ!」
「ああ。っと、その前に……」
 悟空はを見やる。
 悟飯にひっついていた彼女は、不安そうに悟空を見返した。
「お父さん?」
、おめえはここまでだ。みんなの所に戻ってるんだぞ」
「…………うん」
 不服そうながらも、こっくり頷く
 も浮く。
、気をつけて」
「お母さんもお兄ちゃんもお父さんも、きをつけてね」
 ばいばいと手を振るの横で、界王神が異議の声を上げる。
「まっ、待ちなさい! 敵の作戦に引っかかってはいけません!」
 何故、悟空たちに攻撃をしなかったのか。
 そこに疑問を差し挟んでいる界王神だったが、悟空に引かれ、は飛んでいく。
 確かに考える余地はあるかも知れないが、待っているだけで状況が変わるはずもないだろう。
 界王神の言葉を無下にしたなんて知ったら、界王はどんなに怒るか分からないが。


 船の中には、大きな穴――といっても移動用の通路に違いない――が開いていた。
 チューブのようなその場所を、どんどん下降する。
 は悟空の後に続いて降りていく。
 暫く降りていくと、広い空間に出た。
「……なんだここは。やけにサッパリした部屋だな」
 確かに、さっぱりした部屋だ。
 人が生活するようなスペースでは全くないし。
 地中にあるはずなのだが、空気が籠もったりはしていない。
 宇宙空間を渡ってくるのだから、空気調節などできて当たり前の話ではあるだろうけれど。
 悟飯は、部屋にひとつだけある扉を気にしているようだ。
 は自分の足元にある、床とは色が違う円状の場所に視線を向けた。
「なんだ、結局、界王神さまも来たんじゃねえか」
 悟空の声に、が後ろを向く。
 遅れて到着した界王神は、むすっとした声で
「あなた達が無茶をするからですよ……」
 反論した。
 界王神が来るのを待っていたかのように、上部の入口が閉じていく。
 誰も慌てる事がないのは、今のところ戻る気がないからだ。
「この船は一度中へ入ってしまうと、もう出られませんよ。多分、バビディを倒さない限りは」
 ベジータが鼻を鳴らし、腕を組む。
「いざとなれば、この船ごと壊して、外に出てやるさ」
「いっ、いけません! 強いショックを与えると、魔人ブウが目覚めてしまう!」
 エネルギーが完全でない完全な状態の復活でも、この場の者たちを殺し、少しの時間で地球を滅ぼす程の破壊力はあるらしい。
 復活は阻止しなければいけないが、だったら尚の事、こんな所でぐずぐずしていられないのではないかと、は思う。
「ねえ、どうやって――」
 下に行くのと問おうとしたの横側で、悟飯が指摘していた、この部屋唯一の扉が開く。
 後頭部のやたらと大きな、宇宙人の男がゆっくりと部屋に入って来た。
 は構えるでもなく、ほけっと彼を見る。
 ……ああ、そういえばさっきバビディと一緒にいた、手下の人だ。
 額にMの文字が浮いている。
 バビディに術を掛けられている証拠というか、印なのだろうか。
 確か、ヤムーとスポポビッチの額にもついていたし、ダーブラもそうだった。
 マジックの頭文字とか?
 彼は悟空たちの目の前まで来て立ち止まると、腰に手を当てて胸を張る。
「バビディ様がおられるのは、一番下のフロアーだ。残念ながらオレを倒さなければ、下へは行けない仕掛けになっている」
 つまり、ここで終わりだと笑う彼の名は、プイプイというそうだ。
 随分可愛らしいお名前ですこと……。
「……チッ、うざってえ野郎だぜ……オレ様が簡単に消してやる」
 ベジータが拳を握り込んで指を鳴らす。
 しかし、悟空が難色を示した。
「えー! ずりぃぞベジータ、オラだって闘ぇてえよ」
 むくれる悟空の横で、悟飯も頷く。
 ついには、誰が闘うかとモメだした。
 全く、この男どもは……。
 ふぅっと息を吐き、は悟空たちの傍へ行くと、争っている彼らを引き剥がした。
「はいはい、ストップ。公平にしよう、そうしよう。という事で、ジャンケンしなさいな」
 に言われ、悟空たちは互いに顔を見合わせる。
「イチ抜けした人から闘うって事で。オーケー?」
「チッ……仕方ない」
「まあ、オラも構わねえよ」
「僕も」
 てな訳で。

「「「じゃーんけーんぽんっ!!」」」

 あいこでしょ、あいこでしょ、と続ける男3人の姿は、こう言ってはなんだが、妙に可愛らしい。
 あのベジータが必死でジャンケンしている姿など、真面目に見ていると笑い出しそうだ。
 は口元を押さえ、くっと後ろを向く。
 ――いけないわ。実は真面目なシーンなのよ!!
 ブルマに見せたい……と心底思った。

「よしっ!」
 ベジータがガッツポーズをする。
 ぶは、止めてくださいよベジータさん。
 私、笑い出しちゃうから。
 肩を震わせているに気付かず、ベジータはプイプイの前に出る。
「まずはオレからだ」
「ひ、独りで闘う気ですか!?」
 驚く界王神。
 ベジータは彼に視線を流し、
「当たり前だ。あんな奴なんぞ独りで充分だ」
 鼻を鳴らしてプイプイを見る。
「て、敵を舐めてはいけませんよ、バビディは、そこら中から強い戦士を集めているんですよ!?」
「まあまあいいから。ベジータに任せてみようって」
 悟空に背中を押され、端へと移動する界王神。
 と悟飯もそれに続いた。
「母さんは闘わないの? ジャンケンに参加しなかったけど」
「いや、いいよ。悟空たちと張り合う気はないしね……」
 別には戦闘好きでもないので、闘いたいとも思っていない。


 ベジータは、界王神が驚くような強さだった。
 とはいえから見ると、それでも断然、手を抜いているわけなのだが。
 なにせ彼はプイプイを倒すまでに、一度たりとも超化しなかった。

 途中、重力の重い星に突然移動した(バビディの魔術だそうな)が、地球の10倍程度の重力では、ベジータどころか、だって何も感じない。
 界王星で修行していた頃が、懐かしいぐらいである。

 撃ち込んだ気で、プイプイはごくあっさり倒された。
 何もそこまでしなくてもいいのに、と思うのだけれど。
「おっ、見ろよ、下へ行く穴が開いたぞ。エレベーターってやつみたいになってたんだな」
 悟空が穴へ入り、続いて悟飯、そうしてからが入る。
 ベジータもほぼ同時に入り、界王神は更にその後に続いた。
「テレビゲームみたいですね、なんだか」
 悟飯が軽く笑いながら言う。
 そういえば、確かにそうだ。
「どっちかって言うと、RPGじゃなくて……格ゲーかなあ。今のところ、COMの強さは絶対に弱だね」
「はは、そうかも知れませんね」
 場にそぐわない会話だし、悟空には2人の言っている内容が分からない様子。
 一切やらなさそうなベジータは、トランクス繋がりでそこそこ知っているようである。
 悟空は、悟飯とが楽しそうなので、ちょっとむくれた。

 降りきった場所は、先ほどと丸々同じ部屋だった。
 闘わせるためだけの部屋なのだろうか?
「……んー、敵待ちですなあ」
 は軽く伸びをした。


2008・11・28