お子様対決 悟天とが互いに構える。 ふたりとも悟飯とが師匠なため、構え方は当然のように似ていた。 「2人とも大丈夫かなあ……」 がハラハラしながら見ていると、悟空が肩を軽く叩いた。 「なぁに心配してんだ? でえじょぶだって」 「うん……」 互いが怪我をしなければいい、という類のものではなく。 ……武舞台を完膚なきまでに破壊しませんように、という別の種の心配だったりするのだけれど。 特には、怒り出すと半端じゃないから。 の心配を余所に、と悟天はいい戦いをしていた。 双子だけに互いの考えがよく分かるのか、決定打は入っていない。 凄まじい勢いで攻防を繰り返す。 常人の目には、微かにすら見えていなかろう。 ばちっと音を立てて互いを弾き、一旦距離を取った。 互いに息は上げておらず、まだ準備段階。 というより本気を出すと会場が木っ端微塵になるため、ある程度力を抜いているのだけれど。 悟天が一気に間合いを詰め、右手を突き出す。 はそれを左手で払いながら、腰を捻って右手で悟天の腹に一撃を打ち込もうとし、彼の左手で防がれる。 地を蹴り、悟天の足がの右面に入る――その寸前、彼女は身体を後ろに倒して蹴りを避けた。 持ち前の柔軟さでそのまま地面に手をつき、くるんと回転して体勢を整える。 今度はの方が距離を詰めた。 「うわあっ!」 「やぁっ!」 可愛らしいかけ声に似合わず、苛烈な攻撃を仕掛ける。 悟天はそれを受けながら、反撃での腹に重い一撃を入れた。 浮いた彼女を立て続けに撃ち、最後に蹴りを見舞う。 「っ……!」 痛みに顔をしかめながら、ころんころんと転がった。 はゆっくり立ち上がると、悟天を睨みつける。 何かが不満らしい悟天は、ちょっとだけ顔を膨らませた。 「ー、真面目にやんなよー。試合なんだからさあ! ボク手加減しないよ?」 「……だって」 「じゃないと、もう遊んでやらないからね!」 やらない、とは上から目線の凄い言葉だが。 悟天が主な遊び相手であるは、その言葉にこくんと息を飲む。 ――いっしょうけんめいにやらなくちゃ! 根が素直な少女は、悟天の要望に応えることにしてしまった。 ぐっと足を踏ん張り、力を高め始める。 「へへー、やっといつものだー」 嬉しそうな悟天。 を中心に、武舞台が振動し始める。 敷石が剥がれ、宙に浮かぶ。 次第に、会場全体が揺れ始めた。 体から翠色の力が飛び散り始める。 「――ッ! 止めなさい!!」 怒号が響き、の力がピタリと止む。 飛散していた力が消えうせ、浮いていた敷石が落下した。 は恐る恐る声のした方――つまり母親を見た。 は眉根を寄せて、ひたりとを見据えている。 悟天はが固まっている隙に、彼女を場外へと押し出した。 「っ――ああっ! 悟天お兄ちゃんズルイ!!」 「だって、ぼおっとしてるんだもん。ショーブの世界はきびしいんだぞ」 にっこり笑う悟天。 「帰ったらまた遊ぼうよ。にすきなおかし1個あげるからさ、キゲンなおしてよ」 「……ズルイいなぁ」 ぶちぶち言いながら、けれどは負けを認めた。 悟天はふてくされ気味のと手を繋ぎ、控え室に戻る。 「そういえば、お母さんが異能力使っちゃダメっていってたっけ」 「うん。だからいつも通りじゃなかったの。……異能力ちょっと使っちゃいそうだった……お母さん怒ったかなぁ……」 一方、は怒鳴った後、疲れたように手すりに体を預けていた。 悟空が首を傾げる。 「なんだよ、どうしたんだ」 「あはは……あの子に異能力使わせると、力みすぎて大惨事になる事があるからね。こんな場所で本気にさせちゃダメなの」 「へぇ……そんな強えのか」 悟空は知らない。 破壊系の能力であれば、よりの方が勝っていると。 しかもコントロールがあまり上手くもないので、なにが起こるか分からない。 悟天にしてみれば、が本気でやっていないのが腹立たしいのだろうけれど、双子が本気でぶつかりあったら、それこそ笑えない事態になる。 「……ふぅ。引いてくれてよかった」 安堵するに、クリリンが苦笑いをこぼす。 「ちゃん、ああ見えてスゲェんだな……可愛いのに」 褒めているのか、いないのか。 「さぁて、次はトランクスと悟天だな!」 悟空がうきうきしながら武舞台を見る。 アナウンスを受けて出てきた少年二人に、会場は応援の声で埋まった。 「トランクスと悟天はよく『対決ごっこ』で遊んでるけど、こうやって舞台で見ると、なんか感じが違うなあ」 がしみじみと言う。 そうこうしている間に、試合が始まった。 のときと同じような、常人には見えない速度の拳と蹴りが行き交う。 悟天もトランクスも、さすがに遠慮せず互いの顔を殴りつけている。 攻撃に一切の躊躇はなく(当然だけど)、凄まじい勢いでの攻防に、一部以外の会場の人間は唖然として戦いを見守っていた。 「あー! はじまっちゃってる!!」 聞きなれた声にが武舞台から視線を外すと、悟飯とビーデルが駆けてきた。 予選をやっとこ終えてきました、と笑い、彼もすぐに少年たちの闘いに目を向ける。 ビーデルは余りの凄さに、目を零れ落ちそうなほど見開いていた。 悟飯は、彼女の衝撃に気づいていないようだけれど。 一旦離れた悟天とトランクス。 なにをするのかと思えば、トランクスが気を両手に集め出した。 「あいつ……まさかあんな位置から気功波を!?」 悟飯が慌てたような声をあげ、クリリンが 「観客席に飛び込むんじゃ」 焦るが、悟空は腕を組んで慌てる様子もなく、試合を見守っている。 「でえじょぶさ。あいつ、そんぐれえちゃーんと分かってるだろ」 気合と共にトランクスが気を放つ。 ひょいっと避けた悟天の下を通り抜け、気功波は観客席ぎりぎりのところで上空に軌道を切り替えて消えた。 「どうだ、すごいだろ!」 自慢げに言うトランクスに、悟天も胸を張る。 「ボクだってできるよ。教えてもらったばっかりだけど」 ぐっとかめはめ波の構えを取る悟天に、が不安げな視線を送る。 ……だ、大丈夫だろうか。 パワー重視の悟天は、と違って気功波の扱いがまだ上手くないのだが。 「かーめーかーめー」 『かめはめ』を『かめかめ』と間違えているし。 「波ーーーーーっ!」 トランクスがその場に立った状態のまま、かめはめ波をすれすれで避ける。 打ち込んだ気功波はやはりコントロールが甘く、後ろにあった建物の、屋根の端を破壊して消えた。 「あっちゃー……」 が額を押さえる。 悟空が目を瞬いた。 「あっぶねえなあ。あいつはまだコントロールできてねえぞ」 「習ったばっかりだしね……」 弁償しろとか言われたらどうしよう……。 結果として、優勝者はトランクスになった。 どちらも一度だけ超化してしまったが、特に建物の大破壊などはなかったので、としては一安心。 この後は優勝者のトランクスとミスター・サタンの闘いだそうだが、悟空や他のみんなは予選も終わった頃だろうと、控え室に向かう事にする。 も移動しようとして、背中からビーデルに声をかけられた。 「ちょ、ちょっと! あの子あなたたちの仲間なんでしょ!? これからミスター・サタンと闘うのに見ていかないの!?」 あー、そうでした……。 どう考えても結果が分かっているものだから。 しかしビーデルに、事細かに説明する事もできないし。 はちらりと悟飯を見やり、にこっと笑む。 「報告よろしくね!」 秘技、悟飯まかせ。 「あ、はい」 「ビーデルさん、また後で!」 爽やかに言い、物言いを挟まれないうちに悟空の隣へ駆け寄って、そのまま控え室に向かって歩いていく。 「なあ、悟飯のやつ結果が分かってんのに、なして見るんだ?」 「……世の中にはね、付き合いってもんがあるのよ」 ごめん、悟飯。 当然の事ながらトランクスが勝ったのだが、どうやらミスター・サタンは子供だからわざと勝たせてあげました、といったようなパフォーマンスをしたらしい。 頭の回転は速い人なんだなぁ……。 2008・11・14 |