予選と少年の部


「おめえ、髪の毛あったんだな」
 クリリンが坊主ではなくなった事に、やはり悟空は驚いていた。
 昔剃ってるって言った事あるだろ、と会話をしながら、予選会場に向かう。
 後ろを歩いているトランクスが、悟空を見て
「死んだオヤジさん、お前にそっくりだな」
 と言う。
 それを聞いた悟天は、あまり自分と父親が似ているとは思っていないのか、
「そうかなあ……」
 気のない返事を返していたりして。
 今更ながら18号がいる事に気づいた悟空は、クリリンと結婚して子供までいると聞かされ、かなり驚いていた。
 途中、カメラを向けられて、ピッコロがそれを壊したりしたという事もあったが、大よそ問題なく会場内に入って準備を終えた。

 予選会場に入ると、ずいぶん人が大勢いた。
 ざわつきはかつての天下一武道会とは、やはり少し雰囲気が違う気がする。
 以前はもう少し――なんていうか、ピリピリしていたと思うのだけれど。
 は周囲を見回し、その人の多さに改めて軽く息を吐いた。
「前もこんなにいたっけ?」
 悟空に聞くと、彼は思い出すような素振りをしてから首を振る。
 ここまでではなかったはずだと。
 予選が始まるのを待っていると、脇から声がかかった。
「ああっ! 君達は!!」
「あ、司会の」
「やあ!」
 悟空とクリリンが挨拶する。
 も以前見たことがある司会者。
 彼は悟空たちに会えて、激しく喜んでいた。
 彼にはセルを倒したのがミスター・サタンではなく、悟空たちだということが分かっていたらしい。
 小さい頃から悟空の闘いを見ている、常人の中では稀有な人かも知れない。
 嬉しそうにしていた司会者が、ふと悟空の頭上に視線を向ける。
「ところで、さっきから気になってるなが……頭の上の環は?」
「ああ、オラ死んじまったんだ、セルとの闘いのときによ。今日は特別にあの世から来たんだ」
 確かに説明ではあるのだが、知る者以外には全く説明になっておらず、司会者はサングラスの下で目を瞬かせていた。
「オ、オーケーオーケ、不思議だがキミたちなら何でもありだ! 死んでても結構!」
 ある意味凄い司会者だ。
 彼は悟空の後ろにいるに気づくと、おや、と首をかしげた。
 腕を組んで考えると、ぽん、と手を叩く。
「確か、孫選手が結婚するしないでモメた子だね!?」
 ――き、記憶力いいなあ。
「は、はい。その節はどうも……」
「君がここにいるという事は、無事に結婚できたんだね! いやあ、随分綺麗なお嬢さんになって!」
 あははと軽く笑う
 丁度その時アナウンスが耳に入った。
 司会者は慌しく仕事に戻る。
 武舞台でお会いしましょうと言い残して。

 少年の部には、予選というものがないらしい。
 パンチマシンとやらを使って予選を行うのは、大人だけのようだ。
 天下一武道会に出場できるのは15人。
 ミスター・サタンはシードで無条件出場で、残りの選手を、マシンの測定値の高い人から選ぶらしい。
 サタンがお手本としてマシンを叩き(その際にピッコロが、悟飯のために場内すべてのカメラを破壊した)、137という数値を出している。
 悟飯は友達を探すといって、その場を離れていった。
 番号札を受け取り、順にマシンを叩いていく選手たち。
 は悟空の前だ。
「昔は、予選でもちゃんと試合したよねえ?」
「ああ。最近は随分簡単に決めんだなあ」
「出場者が多くなりすぎたから、なのかな」
 それとも予選をすると、疲れて動けなくなるような人が続出だったのか。
 どちらにせよ、随分味気なくなったもんだとは思う。
 あの、身を切るような緊張感は見当たらなくて、本当にお祭りになってまっているし。
「なあ、そういや天津飯たちは」
 悟空に訊ねられたクリリンが、肩をすくめる。
「セル戦が終わった時に、2度と会うことはないだろう、なんて言ってたしなあ……来てないんじゃないか?」
「そっかあ……ちっと残念だなあ」
 悟空の笑みは、少し寂しそうにだった。

 子供たちは別室に向かい、たち大人はマシンの順番待ち。
 どの選手も一発が大会出場を決めるとあって、相当気合を入れているようだが――やはり常人域。
 一喜一憂するパンチマシンの数値が、とても寒々しい。
 異様な強さに慣れてしまった自分の方が、世間から逸脱しているのだと、は微かに失笑する。
「……。オラ、どんぐらいチカラ抜きゃいいんだろうなあ」
「相当抜いておいた方がいいと思う」
 『殴る』と認識しない方がいいだろう。
 そうこうしている間に、18号の番が巡ってきた。
 クリリンがマシンが壊れるから力加減をしろ、と注意したものの、結果は
「な、774!?」
 審査員が、マシンが壊れたと思うほどの強烈な物だった。
 しかし調べてみても異常はなく(当たり前)、もう一度叩かせる。
 今度はもっと力を抜いていたが、それでも203点。
 クリリンは192点。
 次いでの番だが、しかし力を抜くのがこんなに難しいと感じたことはなかった。
 気を小さくして――ぼす、と殴る。
「ひゃ、175……」
 悟空は186、続くピッコロは210。
 ベジータに至っては、余りのくだらなさにかマシン自体を大破壊だ。

 ベジータより後ろの選手たちは、新しいマシンが整備されるまで、お預けを喰らってしまった。
 とりあえず予選が終了した悟空たちは、少年の部を見に行く事にした。
 会場へ向かって歩いていく途中に、悟飯とビーデルがいたのでは声をかける。
「悟……じゃなくてサイヤマン。やっぱ悟飯」
 言い直し、は苦笑した。
 この場では『グレートサイヤマン』と呼ぶのが妥当なのだろうけれど、どうも居心地が悪くてダメだ。
「ビーデルさんも元気そうだね!」
「はい。……って、さんどうしてここへ……それにさっきのマシンの点数は……」
 見られちゃってたか、と内心焦るが、フォローするつもりもなく。
 驚いたように上がった悟空の声で、何とかうやむやにできた。
「あれー? おい、友達って女の子なんか? ……女の子だろ? そいつ」
 自信があるのかないのか、微妙な言い方でいう悟空に悟飯が頷く。
 髪が短いからだろうけれど。
 クリリンが横から、かなりお下品な笑いを浮かべた。
「さっきのといい、やるじゃねえかよ。結構可愛い子なんじゃないの〜?」
さんは、か、家族ですからっ!」
 悟飯が真っ赤になって言う。
 もっとも、は悟飯との仲のよさを知っているから、家族という括りの中ではどうかなぁと思うが。
 ――ほんっとに素直じゃないんだから。というか奥手なのね、うん。
 自分も奥手気味なことを棚に上げて、はうんうんと頷く。
「トランクスたちの試合、始まるらしいから見に行ってくる。おめえも早く予選済ましちまえ」
「はい」
 は2人に手を振り、子供たちの試合を見に行く。
 後のフォローを、勝手に悟飯に頼んで。


 客席の上、選手用の立ち見席で、は改めて武舞台を見やった。
 クリリンと悟空がしみじみと、「派手になった」、「武舞台も昔より広くなった」と呟いているが、確かにの記憶の中にある天下一武道会とは、いろいろな所が面変わりしている。
 武舞台に向かって客席が――なんというか、コンサート会場のようだし、客層も微妙にズレている気がする。
 ミスター・サタンのファンが主だから、だろうけれど。
 これだけ人がいると、ブルマやがどの辺にいるかは、肉眼では探すのが億劫だ。
 気を探ればすぐだけれど、この騒ぎの中では声をかけても分かるまい。

 司会者が出てきて、ルールの説明をし、早速試合が始まる。
 仲間内での最初の試合は、トランクスだった。
 彼はあっさりと(当然だ)相手を倒してしまい、試合になっていなかった。

 次に出てきたのは悟天。
 彼もまた、至極あっさりと相手を倒した。

 最後に、が出てきた。
 ブロックの都合上、勝ち進めば(いやもう、負ける要素が私には見当たらないんだけども)悟天と当たる。
 客席からは、女の子で大丈夫かと不安げな声が聞こえてきたが。
 はやはり、さくっと相手をのしてしまった。

 そうして勝ち進み、3回戦で悟天とが当たった。
「双子対決かよ」
 クリリンは少し心配そうだ。
「お、出てきたぞ」
 悟天とは、これから遊びでもするみたいな顔をしている。
 そういえば、いつもトランクスと対決ごっことかで遊んでいるのだから、悟天やにとっては遊びのようなものなのだろう。
 ――無茶しなければいいけれど。
 司会者が高らかにマイクをかかげ、2人の紹介をする。
「情報によりますと、この2人は双子の兄妹だそうです! どちらも素晴らしく強い選手ですので、期待できそうです!」
 力を込め、試合開始の宣言がなされた。


2008・11・11