強制出場



 西の都・カプセルコーポレーション。
 悟天とをつれてブルマに会いにきていたは、悟飯とがやって来た事に気づいて玄関で出迎えた。
「おかえりー」
「あ、アレ? 母さん来てたんだ」
も一緒にどうしたの?」
「……ええと、実は」


 悟飯が言うには、の双子の妹であるミスター・サタンの娘、ビーデルに、自分がグレートサイヤマンだとバレてしまったらしい。
 どうやら声や雰囲気でばれてしまったようだが。
 問題は、彼女から出された条件だった。
 ブルマが機械の整備をしながら、へぇ、と驚いたような声を上げた。
「じゃあ、今度の天下一武道会に出場するんだ」
 悟飯は肩を落とし、軽く笑った。
「そうなんです。結構いい子なんですけど……僕と一緒で悪い奴は放っておけないタイプみたいで。でも、その子がグレートサイヤマンの正体をバラされたくなければ、武道会に出場しろって」
 はあの子かと顔を思い出す。
 は、なんだか申し訳ないような顔をしていた。
、どうしたの?」
「……あの、何だかビーデルが迷惑かけてるのかなって」
 ああ、と納得する。
 妹のしでかしている事に、ちょっとした罪悪感を持っているらしいが、それはの責ではない。
 悟飯も気付いて首を振った。
さんが気にする事じゃないよ。僕が失敗しちゃったんだから」
 慰める悟飯に、ブルマがにやりと笑う。
「へぇー、ちゃんに凄く優しいのね、悟飯くんはー」
「悟飯くんは誰にでも優しいですよ?」
 きょとんとしながら言うに、ブルマはため息をついた。
 案外この子は鈍いのかも、と。
「んで? 声も変えられるようにして欲しいわけ?」
「いえ、そうじゃなくて。天下一武道会に出るのに、ヘルメットとか着けちゃいけないらしいんですよ。それで何とかならないかと」
 なるほど。
 ヘルメットがなければ、顔が丸見えだ。
 服がグレートサイヤマンだけだと、まるで無意味であるし。
 ブルマは暫く考え、タバコを取り出して火をつけた。
「要するに、ダメージをうんと減らしちゃうようなものは、着けてちゃダメって事ね。どうって事ないじゃない。バレなきゃいいんでしょ?」
 機械整備の道具を机に置き、いったん部屋を出て行ったかと思うと、白いバンダナとサングラスを持って戻ってきた。
 後ろにトランクスと、悟天の姿もある。
「あっ、さんにさん、悟飯さんも来てたんだ!」
「やっほートランクスくん」
 がヒラヒラ手を振る。
 も笑って手を振った。
 悟飯にバンダナとサングラスを渡したブルマは、それを着けてみろと言う。
 皆が見る中で、悟飯はそれを装着した。
 確かにこれで悟飯と……いや、分からないか? これ。
 まあ、見知っているからそう感じるのかも知れないが。
 悟飯は嬉しそうにトランクスにその姿を自慢している。
「どお!? トランクスくん。カッコいいだろー!」
「……ノーコメント」
 手に持っていたジュースの中身をこぼしそうなほど傾け、唖然としている。
 気分は分かる。
 とにかく、これで姿の問題は解決した。
「でも、どんなに手を抜いても、悟飯くんがぶっちぎりで優勝するのが分かってるんじゃ、つまんないわよね」
 ブルマの意見ももっともだ。
 いくらビーデルが強いといっても、それは常識人レベルであって、悟飯たちのような超人レベルではない。
 誰も悟飯には敵わないだろう。
 が苦笑した。
「私が出ても、悟飯に敵うとは思えないしねえ……ああ、でも家計を助けるためにはいいのかな?」
「……その何とかって大会、悟飯、きさまが出るならオレも出る」
 扉をくぐって入って来たベジータが、いきなり悟飯に言い出したひと言に、その場にいる全員が驚いた。
 彼は静かに悟飯の前まで来ると、小さく鼻を鳴らす。
「あの時は大きな力の差があったが、だが今は分からんぞ。きさまが平和に浮かれている間にも、オレはトレーニングを続けていた……」
「ぜんっぜん働かないのよ、この人。アンタのお父さんと一緒ね! サイヤ人って働かない人種なのかしら」
 ブルマが皮肉を一切含まない声で言う。
 考えてみれば、確かに悟空も働いた事がない。
 日がな一日修行していたし、世間一般様でいうところの職というものにはつかなかった。
 はそれでいいと思っていたし、別段不都合もなければ文句もなかったのだが。
 にしたって、苦労して仕事しているわけでも……多分あまりないし。
「サイヤ人の仕事って、他の星を侵略してそれを高く売る、って奴でしょ? そんなんだったら仕事しない方がいいと思うし」
 がしみじみと頷く。
「それに、ベジータさんができる仕事って、カプセルコーポ内では想像つきませんけど。ああ、接客業も向かないでしょうし」
 ……接客業やオフィスワークをするベジータを想像し、ちょっと吹き出しそうになった。
 ぎろりと睨まれ、はゴメンと手を振る。
 トランクスは父親と悟飯が戦うと聞いて、目を輝かせていた。
 ここに悟空がいれば、絶対に出ると言うんだろうな――。
 そんな風に考えていると、

『オラも出るぞ!』

 懐かしい声が響いてきた。
 全員が、いるはずがないのに上を向く。
「お、お父さん……お父さんですか!?」
「カカロット……」
 は突然の事に息を飲んだ。
 確実に1年は聞いてなかった声に、は自分の心臓が止まったかと思った。
「お元気でしたか、お父さん!!」
『うん、まあ元気といや元気だったかな。死んでっけど……』
「お父さん、本当に天下一武道会に出られるんですか!?」
『ああ。占いババに頼んで、1日だけ戻れる日はその日にする。悟飯もベジータも出るんだろ? オラも出るさ!』
 明るい声で言う悟空。
 凄い喜びようの悟飯と、静かに喜ぶベジータ。
 と悟天は、固まってしまっているを軽く揺すった。
「お母さん?」
「あ、えと、ごめんね。ちょっとビックリしちゃって」
?』
「はっ、はいっ!!」
 名を呼ばれ、思わず敬礼せんばかりにピシッと背筋を伸ばす。
 ブルマと悟飯は苦笑し、、悟天は不思議そうに首を傾げた。
『久しぶりに会えるな』
「……うん。子供できてから、会えなかったもんね」
『オラ寂しかったぞー。会ったら、ぜってえギューってすっかんな!』
 公衆の面前で凄い宣言をされ、は顔が赤くなる。
 あまり見た事がない母の姿に、悟天とは落ち着かない気分での服の裾を引っ張ろうとし、悟飯に止められた。
 邪魔をしちゃだめだ、という目で見る。
「悟空、えっと……頑張ってね」
『ああ。も、ちゃあんと大人しく待ってろな。恥ずかしいからって逃げちゃダメだぞ?』
「逃げないよー」
 小さく笑う
 悟空の笑い声が胸に温かい。
『じゃあ、大会当日にな!』
 そう言い、声はぷつりと途絶えた。

 それから悟飯はクリリンやピッコロに大会の事を伝えに飛び、、悟天たちは家に戻った。
 悟空が戻ってくるまで約1ヶ月ある。
 明日からやる事を思い出すのに、はちょっと苦労するのだった。


2008・9・5