悟飯と日常 3



 その日の午後、は悟飯との学校があるサタンシティに出向いていた。
 買出しと仕事を兼ねてのお出かけである。
 仕事は既に終了していたため、残るは買い物だけだ。
 悟天とは、初めて来る街に興味津々で、飽きずにあちこちを見回していた。
「悟天、。大人しくしてなくちゃダメだからね。勢いよく人にぶつかったり、車を弾き飛ばしたりしちゃダメだよ?」
 6歳程度の子供に言う注意で、『車を弾き飛ばすな』というのはどうなのだろう、と自分でも思うのだけれど、実際にやってしまった事があるために、いまいち安心できない。
 悟天とは互いに手を繋ぎながら、素直に頷いた。
「うん。ボク、おとなしくする」
「わたしもー」
 よしよしと頭を撫でてやり、どこで買い物をしようかと周囲を見回し、目星をつけて歩いていく。
 道すがら、悟天とはショーウィンドーに飾られた色々なものを見ては、2人で興奮していた。
 が和やかにその様子を見ていると、突然後ろからバッグが引っ張られた。
 力任せに無理矢理引っ張るとバッグ自体が壊れてしまうため、瞬間的に手を離す。
 すると、若い男がバイクに乗って逃げした。
 手にはから奪ったバッグ。
「あーーっ! あのひと、お母さんのバッグとった!」
 が叫び、悟天も怒り出す。
 気がぐんぐん高まり、ちょっと危険だなあと思った瞬間、双子は走り出した。
「あっ! 悟天、!?」
「お母さんのバッグかえせーー!!」
 地面を蹴り、物凄いスピードで駆ける。
 も後を追った。
 周囲に余り人がいないのが幸いだと思いながら追いかけていると、悟天が大きくジャンプした。
 バイクに乗っていた男を飛び越えて先に出る。
「悟天!」
 危ない、と声を上げる前に、が手をかざす。
 手に薄緑色の光が集約し、バイクと男性を包み込む。
 勢いよく走っていたバイクが軽く浮いた。
「な、なんだ!?」
 驚く男性はグリップを回すが、しかし幾ら回転数を上げても進みやしない。
 タイヤが路面に接触していないのだから、当たり前だ。
 異能力でバイクを浮かせたは、悟天に向かって頷く。
 悟天は男のバイクの上にひょいと乗っかった。
 バッグを掴んだ男の手から、無理矢理それを奪い取ると、母の元へ戻ってくる。
 は悟天とバッグが戻ってきたのを確認し、異能力を収めた。
 バイクがゆるりと下がり、タイヤが路面に接触する。
 突然走り出したバイクに男性は慌て、暫く蛇行していたが、何とかバランスを取り戻して走り去った。
 は悟天との頭を撫でながら、けれど優しく注意する。
「こらー。街中でそういう力を使ったらダメだよ。誰が見てるか分からないんだから、注意しないと」
「……うん」
「ごめんなさい」
 しょぼくれる双子をぎゅっと抱きしめ、小さく笑む。
「でも、お母さんのためにしてくれたんだよね。ありがとう」
 双子は顔を見あわせ、嬉しそうに笑った。
 ……しかしサタンシティは本当に犯罪が多いなあ。


 買い物を済ませた後、そろそろ帰ろうかと思っていると、近くの建物で騒ぎが起こった。
 今度はなんだと半ば呆れながら、と双子が騒ぎの元へ近寄ってみる。
「あらぁ……今度は人質事件?」
 パトカーが何台かあり、建物の正面には悪そうな男に捕まっている男性が。
 周りに何人かの部下もいるようだ。
「我々はレッドシャーク団だ! ミスター・サタンを連れて来い!! でないと市長の頭を吹っ飛ばすぞ!」
 ボスらしき人物が、中継をしているテレビカメラに向かって叫んでいる。
 しかし、相手をして欲しいっていうのがミスター・サタンか……。
 がいたら、どんな顔をするだろう。
 さて、どうするか?
 うーんと腕を組んで考えていると、悟天がの服の裾を引っ張った。
「お母さん。あの人を助けた方がいい?」
「うん、だけど2人とも大人しくしてようね」
 そっかと案外あっさり納得してくれる悟天と
 が上手く収集つけられるかなーと思っていると、飛行機から女の子が降りてきた。
 中庭に下りると、ボスらしき男に指を突きつける。
「あんた、さっさと市長さんを離しなさい!」
「なんだテメェは」
「あたしはビーデル。ミスター・サタンの娘よ」
 あの子がミスター・サタンの娘。
 は目を瞬いた。
 ……に似ている気もする。
 へぇ、と思いながらとりあえず現状を見守る事にしていると、次に見知った気が下りてきた。
 悟飯だ。
「あっ、お兄ちゃ……むぐっ」
 悟天の口をが塞ぐ。
「悟天お兄ちゃん、ヒミツなのー」
「ぷは。……あ、そっか……」
 わすれてたーと笑う悟天。
 そうしている間に、悟飯が情けないポージングを決めた。
 息子が公衆の面前であのようなポーズを取っている事に、はほんの少しガックリくる。
 もしかして、悟飯には変身願望でもあったのだろうか。
 一見すると戦隊物のワンシーンのようだけれど。
(……ポーズが、ポーズがッ!)
 気でもってたちの存在に気付いた悟飯が、ぎくりとしたように見えた。
 一応、手を振ってみる。
 向こうも振り替えした。
 母親としたら、学校はどうした、と突っ込みを入れるべきところなのだろうけれど。
 成績優秀だし……いいか。

 悟飯はビーデルに加勢しようとして、彼女に止められた。
 仕方なく周囲の奴らを倒す。
 ランチャーまで持ってきた敵方だったが、悟飯の力の前ではそんなものどうとでもなる。
 さすがに気でその場爆破とかはやらなったけれど。
「お母さん、あの人危ないよ?」
 見れば、ビーデルは後ろから首を絞められていた。
 苦しそうな表情に、は小さく異能力を発する。
 ――ブロック。
 相手の気を閉じさせ動けなくする力を使うと、ビーデルが隙をついて後ろの男の腹に肘鉄を入れ、下がった顔に拳を突いた。
「へえ、なかなかやるねー」
 しみじみ言う
 事件が解決した後、悟飯……じゃなくてグレートサイヤマンは、爽やかに笑って去っていった。



 それから何日かして、悟飯はビーデルに正体がばれたとに告げるのだった。


流れ追いみたいになってしまった…(汗)
2008・8・11