悟飯と日常 2


 夕食を済まし、悟飯は悟天とと一緒に彼の部屋へと戻った。
 残ったは、洗い物を済ませてしまおうと取り掛かっている。
 サイヤ人の血を引く3人は、やたらめったら食べる。
 女の子であるでさえ、結構な量を食べるのだから驚きだ。
 しかも全然太らない。
 世の女性からすると非常に羨ましい。
 洗った食器を水切りしてに渡していると、が悟飯の部屋からでてきた。
、どうしたの?」
 は首を捻りながら、に言う。
「あのね、あのね、悟飯兄ちゃんがね、へんなぽーずをしているの」
「……ポーズ?」
 が目を会わせる。
 最後の食器を洗ってしまってから、を抱っこした。
 も仕事を追えて話を聞く。
「うんとね、悟飯兄ちゃんはね、悟天兄ちゃんと一緒にぽーずを考えているの」
 ポーズねえ……。
 が不思議そうにを見やると、彼女は思い当たる事があったのか手を打った。
「多分、グレートサイヤマンのポージングですよ!」
「グレート……ああ、あのコスチュームの」
 サタンシティで正義の味方をしているというのは知っているが、まさか×××レンジャーとか、特選隊みたいなポージングまで考えているのか。
 もしかして、幼い頃は戦いばかりで子供らしい一面が出てこなかったせいか、などと考えてしまう。
 もちろん、今の悟飯だってしっかりしているのだけれど。
「う、うん、そっか……ポージングね!」
 あははーと笑うは、なんだか複雑な気分で悟飯の部屋を訪れる。
 は先に寝ますね、と奥の部屋に入って行った。
 ノックをしてから悟飯の部屋に入ったのだが、多分悟飯は音に気付いていまい。
 至極真面目な様子で、ポーズをあれこれやっている。
 ………どうしよう。
 ウチの息子が、凄いコスチュームを着て、ギニュー特選隊みたいなポージングをしている……!!
 乾いた笑いをこぼすに、が不思議そうな目を向けてきた。
 いいえ
 愛する息子ならば何でも受け入れるのよ!!
 しかしコレをピッコロが見たら何と言うだろうか。
 ちょっと見てみたい気もする。
「母さん、どうしたんですか?」
「え、いや、何でもないんだけど。そろそろ寝ないと明日辛いよ?」
「大丈夫ですよ。それより母さん、ちょっと見てて下さい!」
 すぅ、と息を吸い、
「空が呼ぶ星が呼ぶ人が呼ぶ! 悪を倒せとオレをを呼ぶ! 正義の使者、グレートサイヤマン参上!!」
 セリフごとにポージングをしながら、悟飯は勢いよく格好をつけた。
 悟天がきゃいきゃい喜ぶ。
「わぁー、かぁっこいいお兄ちゃん!」
「どうですか、母さん!」
 自信満々に言われても。
 あの、ええと、どうしよう。
 素直にヤバイと言えばいいだろうか。
 しかし……傷つけるのはどうなんだろう、こういうの。
 本人は自信たっぷりみたいだし。
 無意識にの頭を撫でながら、
「ノ、ノーコメント」
 顔を引きつらせた。


 翌日の朝。
 朝食の準備ができても悟飯は起きてこなかった。
 は食事を終え、に聞く。
「悟飯くん珍しくまだ寝てるんですか?」
「そうなんだよね。……昨日の夜、あれからずーっと夜中までポーズ練習してたみたいて……はは」
 にノーコメントといわれた悟飯は、母親を唸らせてやるとあれこれ考えをめぐらしていたらしく、結局眠るのが遅くなってしまって今朝は起きてこない。
 悟天とに起こしてもらったのだが、全く効果がないのかまだ双子は部屋から出てこない。
は先行ってなね。悟飯が本気で飛んだら筋斗雲の方が遅いから」
「はい、そうします。それじゃあ行ってきますね!」
 出て行こうとしたとき、悟飯の部屋から双子が出てきた。
 悟飯の姿はないから、やはりまだ眠っているのだろう。
「あっ、姉ちゃんいってらっしゃい!」
「悟天くんもちゃんも、帰ってきたら遊ぼうねー。行ってきます!」
 手を振り、は筋斗雲を呼び出して学校に向かった。


 に続いて無事に学校に間に合った悟飯は、何か考え事をしている様子だった。
 どうしたのかと問いたかったのだが、生憎と今日は間にシャプナーとイレーザが挟まっていため、こっそり話を聞くのは難しい。
 その時、ひとりの女の子が入って来た。
 彼女と悟飯の目があったように思う。
 すぐに悟飯の方は、目をそらしてしまったみたいに見えたが。
(……? なんかあったのかな?)
 ボーっとしている悟飯は、授業中も考え事をしているようだった。
 あまりに呆けていたために、担当教師に廊下に立っていろとまで言われる。
 素直に廊下に出、バケツに水を入れたものを2つ持ったまま立っている彼だが、バケツの水ごときでは悟飯には重さなどないも同然だろう。
 100キロダンベルでも軽そうだしなあ。
「エンジェラくん、君もかね!」
 教師の声に、は先ほど悟飯が目を反らした女性とを見やった。
 彼女はワンワン泣いて(むしろ泣きまね)、それから颯爽と廊下に出た。
 ……?

 それからは特に何もなく終わり――といっても悟飯は始終何かを考えている様子だったが――帰宅した悟飯は、夕食の最中に突然、こう切り出した。
「あの……母さんは父さんとどんなデートをしましたか?」
「ぶはっ!」
 が吹き出す。
 慌ててテーブルを拭いた。
 こほんとひとつ咳をし、ほんのり赤くなった顔を無視したままで悟飯に問う。
「なんでそんな事聞くかな。どしたの?」
「あの……実はグレートサイヤマンの正体がバレちゃったらしくて……」
 が目を瞬いた。
「だから今日、様子がおかしかったのね」
「はは……言おうと思ったんですけど、タイミング悪くて。それでデートしたら黙っててくれるっていうんで……参考にしようと」
 と顔を見せ、それから食べ終わった食器を重ねながら、うぅんと唸る。
 デート。
 男女間でお出かけする事。
 どうしてもと悟空のを参考にしたいのか、悟飯は言葉を撤回する様子もなくじっと待っている。
「私と悟空のデートねえ……」
 思い出してみると、

ー、デートってのしようぜ!』
『いいけど、どうするの? 既に私ら一緒に済んでるじゃないさ』
『外で待ち合わせして、夜にメシ食って、ホテルっちゅーとこさ行くんだ!』
『……悟空、また変な本、読んだね?』

 ……参考にならないような。
 慌ててアレコレ考え、ふと気づいた事を言ってみる。
「デ、デートだったら、悟飯はとしょっちゅうやってるじゃない」
「え?」
 2人とも目を丸くする。
 自覚がないのか。
 一応家族という括りの中にいるからだろうが、外に出た2人の様子を見れば、間違いなく彼氏彼女なのだけれど。
「一緒に出かけて買い物したり、映画見たり」
 言われて気付いたのか、が頷く。
「言われてみれば……そうかも知れない……」
 とデートを繰り返していたらしい自分を顧みて、悟飯は頬を赤くしたりしたのだった。


 結局、デートをした悟飯は、ビーデルと会話しているところをエンジェラに見られ、彼女に秘密をばらされてしまった。

「えー! バラされちゃったの!?」
 悟飯の部屋で経過を聞いたは、結局ばらされたと聞いて驚いた。
「大丈夫だったの? ビーデルはグレートサイヤマンの事をかなり気にしてるし……」
「そ、それが。エンジェラさんが知ってた僕の秘密ってのは、下着の事だったんだ」
「……下着?」
 首を傾げるに、悟飯は赤くなりながら頷く。
「ま、前に母さんが間違えて買って来た……熊のプリントが入った下着を、エンジェラさんが見たらしくて。それで」
 それが秘密の正体だったと言う悟飯。
 焦って損をしたと思うであった。



2008・6・30