悟飯と日常 1



 オレンジスターハイスクールに悟飯が編入してきて何日目か。
 のクラスメートとなった悟飯は、それなりに力の調節が出来るようになって来ていた。
 元々勉強が得意である悟飯は、編入にもかかわらず学校の授業にすぐなじんだし、別段、問題はないように――思えていた。
 しかし、やはりそこは正義の心の塊である悟飯というか。

 授業の最中、いつものように教師の講義を聞いていたの横で、ビーデルの腕の通信機が鳴った。
 教師の声がピタリと止み、教室の殆どの者がビーデルを見やる。
 小さな声で応答していたが、隣にいるには丸聞こえ。
 どうやらバスジャックらしい。
 今更ながらに思うが、サタンシティは犯罪発生率が多すぎる気がする。
 もっともが済んでいる東地区の孫家周辺は、和やか過ぎるのかも知れないが。
「先生! ちょっと行ってきます!」
 ビーデルが走って教室を飛び出していく。
 ちらりと悟飯を見ると、非常に真剣な顔をしていた。
 行こうか行くまいかと考えている様子。
 元来の正義感を知っているは、彼だけに聞こえる程度の小声で話しかける。
「悟飯くん。行きたい?」
「……ビーデルさんだけじゃ、ちょっと危ないと思うんだけど」
「そうなんだよね。ビーデルは強いんだけど……さんや悟飯くんを見てると、どうも不安というか。だからさ、行きたいなら行って来て?」
ここでウダウダ考えてるより、全然建設的でしょと言うに、悟飯は少し考える素振りを見せ――頷いた。
挙手をし、トイレに行ってきますと豪語して急いで教室の外に出た。
……悟飯くんって言いわけが苦手なんだろうなあと、非常にそう思う。

 悟飯が立ち去ってからも、授業は淡々と進められた。
 長い事戻ってこないのはには分かっている事なのだけれど、友達のイレーザやシャプナーにすると気になるらしい。
 ビーデルの席に詰めてきたイレーザが、に話しかけた。
「ねえねえ。悟飯くん、もしかしてサボリかしら?」
「そ、そんな事ないと思うけど」
 実際サボリではない。
 いや……サボリに近い事をしているという自覚は、彼にあるのかどうか知らないが。
 そ知らぬ素振りでノートを取っていると、シャプナーも会話に加わってきた。
「まァな、あいつはサボリをするような柄じゃねえだろ。かといって、ビーデルの尻を追っかけるようにも見えねえし」
「悟飯くんがビーデルのお尻を追っかける……」
 一瞬想像してみたが……余りの違和感に思わず吹き出しそうになった。
 そんな行動を起こす悟飯は、悟飯ではない。
 むしろ見たくありません。
「じゃあ、一体どこ行ったっていうのよ」
「さァなあ。ま、いいんじゃネエの? オレらの成績に関わるわけじゃねえしさ」
「シャプナー冷たい」
 がじろりと睨む。
 悟飯がどこに行っているか知っているからこそ、そういう冷たい事は言ってほしくない。
 いえない内容なので仕方がないが、きちんと説明したい所だ。
 そりゃあ、悟飯自身の正義感が災いして、あちこちの事件に首を突っ込んでいるわけで、それ自体は悟飯の責なのだが。
 苦しんでいる人を助けたいという優しい気持ちに、どう文句をつけられようか。
「……ねえ。悟飯くんてさ、ビーデルが好きなのかしら」
「別に嫌いじゃないんじゃないの?」
 あっさりと答えるに、シャプナーが苦笑した。
「そうじゃねえよ。恋愛感情的にって意味だ」
「どう、かなぁ……」
 そういえば、悟飯の恋愛話など聞いた事がない。
 長い事一緒に住んでいるが、彼女がやって来たという事もなかった。
 日々勉強とちょっとした訓練をし、後はの手伝いや、悟天との面倒を見るといった様子。
 腕を組んで考え出したに、イレーザがにたーっと笑う。
はどうなのよ。悟飯くん」
「へ? なにが」
 シャプナーが喉の奥で笑う。
「止めとけ止めとけ。にそういうのを聞くほうが間違ってる。はオレと付き合うんだもんな?」
「勝手に決めてないでよー」
 クスクス笑い、は窓の外を見やる。
 今頃、バスジャック事件は解決しているだろうか?
 ビーデルは悟飯が強いのではないかと疑っているから、あまりばれるような行動はしない方がいいと、今度言っておかなければ。

 その時間の授業が終わる少し前に悟飯が戻ってきて、それから少ししてからビーデルが教室に入って来た。
 はノートを悟飯に見せてやりつつ、小声で聞く。
「バレなかった?」
「大丈夫だった。……一応」
 一応かい。
 引きつった笑いを浮かべる悟飯。
 もう少し、行動を考えた方がいいような気がするであった。


悟飯の話とつながりがあるんですが…現時点ではまだそちらはまだ未更新です(汗
2008・6・8