学校いきませんか




 暫く1人暮らしをしていたが、高校入学を期に戻ってきた。
 は考え、悟飯にひとつの提案をする。
「ねえ悟飯、と一緒の学校に行く気、ない?」



 東の村近くには、きちんとした教育機関というものが存在しない。
 たいていの場合、通信教育で全てをまかなってしまうためだが、悟飯の夢は学者であり、個人勉強だけでは足りない部分も出てくるだろう。
 それ以上に、学校生活を一度も経験しないというのは、からすると、ちょっと可哀想にも思えて。

 悟飯の希望も受け、彼をと同じ、オレンジスター・ハイスクールに編入させる事にした。



 編入手続きの間、悟天とを西の都のブルマ宅に預かってもらい、は悟飯と一緒に学校へ来た。
 校門を抜け、来客用の事務受付でブザーを鳴らした。
 がらりと磨りガラスを開け、受付の女性が顔を出す。
 彼女は、悟飯の持っている編入手続き用の袋を見て微笑む。
「ああ、手続きの方ですね。書類を」
「は、はい」
 悟飯が書類の入った袋を渡す。
 それを確認した女性は少し驚き、悟飯をとを見やる。
「あなた、凄く遠い所から通うのね。遅刻しないように気をつけて。――ええと、あなた1人が編入? 後ろの子は」
 後ろの子?
 は首をかしげ、悟飯はそれを見て失笑した。
「あの、僕の母なんですけど」
「……あ、あら、失礼。物凄く若いもので……羨まし……いえいえ、をほほ」
 誤魔化すように笑い、女性はひとつ咳払いをする。
「さて、書類は受付けました。孫悟飯くん、ですね。これから編入試験をしますので……筆記用具は持って来ましたか?」
「はい」
 編入手続きと共に試験があると、既にもらった資料で確認済みだ。
 当然ながら、それなりに時間がかかるらしい。
「説明も含めて、大体お昼過ぎ頃の終了になりますが……お母様はどうなさいます? 折角ですから、学校見学でもなさったら」
「いいんですか?」
 聞くと、女性は微笑んで頷いた。
「といっても、授業をしていますけれど。どうなさいます?」
 それじゃあお願いしますと頼むと、彼女は学校内を歩けるパスをくれた。
 留意事項として、授業中の教室に入らない事、帰るときにパスを戻す事などを告げられる。
「彼の試験が終わりましたら、放送で呼び出しますので」
「はい。……それじゃあ悟飯、頑張ってね」
「母さんも気をつけて」
 多分、そんなに気をつける事なんてないよと思いつつ、それでも頷いた。
 事務受付から出て、学校内へ入る。

「……うーん、なんか……凄い懐かしい気が」
 授業中のため、現在歩いている廊下には、全く人通りがない。
 誰も人がいないのではと思わせる雰囲気は、学校独特のものなのかも。
 てほてほ歩き、あちこち見てまわる。
 かつてはも学校にいた。
 中学生頃からこちらの世界に飛んできてしまい、学校教育とは無縁になってしまったけれど。
 当時の友達も、もう大人になってしまっただろう。
 一番の友達だった香坂由依。
 彼の兄である香坂克也は、何の因果か、こちらの世界で生計を成しているが、最近話をしていない。
 風の噂では、あちこち飛び回って仕事しているとか。
 たまには、会いに来てくれればいいのに。
 学校という場所柄か、色々な事を思い出す。
 虐められて辛い思いをした事なども。
 けれど、それは過去の事であって――当然いい思い出ではないが――単なる記憶として処理できるほど、あっさり流せる位だ。

 体育館へ行くと、見知った顔があった。
 だ。
 彼女はの存在に気付いて、軽く手を振った。
 バスケットボールの試合をしている。
 の動きは、普通に動けば並の男子より断然鋭い動きになるはずなのだが、加減しているのか何なのか、普通の女の子と相異ない。
 舞空術を使えば、ダンクなんて簡単にできるだろうなあ、なんて思いながら試合を眺める。
 結果として、のチームは負けてしまったようだが。

 終わった後、は教師に言付けての側に駆けて来た。
 次のチームがコートに入って、試合を始める。
さん、どうして……。あっ、悟飯くんの編入ですか」
「うん、そう。試験受けてる最中は暇だから、校内見学をね。この学校、大きいよねー」
「確かに、この辺では一番の大きさですよ。ミスター・サタンと関わりのある学校だっていうんで、有名でもあるし。出資者も多いみたいで」
 ミスター・サタン。
 は殆どの場合、彼を父親と呼ばない。
 実子なのだけれど、それで揉める事があるかも知れないと、彼女は滅多な事でない限りは『ミスター・サタン』と呼んでいた。
「まあ、いい学校に間違いはないですよ。先生も――ちょっと癖があるけど、大よそはいい人ばかりですしね」
「私も学校とか来たくなっちゃうなあ。……いや、当時は凄く好きじゃなかったんだけどね、勉強……」
 卒業して、初めて分かるこの気持ち。
 年取ったなあと感じてしまう一瞬だ。
 見た目が殆ど全く変わらないではないかと、突っ込みを入れられそうだが。


 校庭だの講堂だの、あちこち見ている間に昼が過ぎ、アナウンスで呼び出された。
 事務受付に戻ってパスを渡す。
 正式な入学日は後で連絡すると聞き、お礼を言ってからそこを出る。
 悟飯は軽く息を吐いた。
「どうだった?」
「大丈夫だと……思う」
「……うん、まあ悟飯は相当勉強してるしね、大丈夫でしょ」
 編入試験というのは基本的にレベルが高い気がしたが、それでも悟飯は勤勉だし、落ちる事はまずないだろう。
「まあ、もいる事だし、学生生活満喫しなよ」
「でも学校は勉強するとこだよ」
 学生の鏡というか、優等生の答えだなあと思いつつ、と悟飯は町外れから舞空術を使って西の都へ向かい、双子を拾って帰った。



書きたいとこだけ書いてるなあ…。悟飯、トランクス夢と合わせてもらうと、分かりやすいかと。
2008・4・15